笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

2020-01-01から1年間の記事一覧

再度公園

幾千万万の蛙があがる。水絹色の満月めがけて。あがる。あがる。あがる。 りーるるる りーるるる りら りら りら 「Beethoven : Spring Sonata 第一印象」 草野心平詩集(ハルキ文庫)より 再度山は、空海ゆかりの山である。 もっとも、空海ゆかりの何とかだ…

灘・丸山公園

海があるということは夜になっても仄かな明るさを残す水平線があるということふるさとのもうひとつ向うにあるニンゲンの始原の生まれ故郷をいつも見晴るかすことができるということ 「海がある」 川崎洋詩集(ハルキ文庫)より コロナパニックの最中だから、…

ルミナス神戸

もしこの生前の一連の指導で解脱に至らないならば、〈チカエ・バルドゥ(死の瞬間の中有)〉において、〈ポワ(転移)〉という、記憶するだけでおのずから解脱できる手段が適用されるべきである。普通の能力のヨーガの実践者ならば、これを受持し実習するこ…

スターバックス

Cuando la tarde languidece renacen las sombras, ・・・ 「Moliendo Cafe」 Jose Manzo perroni ラテン・ベスト・コレクション/全音楽譜出版社 コロナウィルスの流行のために、緊急事態宣言が発令された。 神戸では、あの店もあの店も臨時休業という事態にな…

夙川の桜

ああ、桜の樹の下には屍体が埋まっている! いったいどこから浮かんできた空想かさっぱり見当のつかない屍体が、いまはまるで桜の樹と一つになって、どんなに頭を振っても離れてゆこうとはしない。 今こそ俺は、あの桜の樹の下で酒宴をひらいている村人たち…

花隈城址

「それは、まだはっきりとはきまっていない。まず、城がおれにどういう仕事をさせるつもりなのかを、確かめなくてはならん。たとえば、こちらの城下で仕事をすることになれば、宿もこちらにするほうが、理屈にかなっているということになるだろう。それに、…

神戸臨港線③

「ドッテテドッテテ、ドッテテド でんしんばしらのぐんたいの その名せかいにとどろけり。」 「注文の多い料理店」(月夜のでんしんばしら) 宮沢賢治 新潮文庫 今度は架道橋から西へと歩いてみる。 架道橋はHATの市営住宅群の手前で切れている。ちょうど旧…

ポートタワー

新開地でタクシーを拾うとき、ポツリポツリと降り始めた雨は、中突堤(メリケン波止場)のポート・タワーに着くころにはすっかり本降りになっていた。 「犬の記憶 終章」 森山大道 河出文庫 地元の観光名所というものは、そう度々訪れないものだ。幼い頃に一…

モトコー

赤い裸電球の下の、琺瑯びきのバットに充たされた現像液のなかから、裸の男女がさまざまな姿態で絡まり合った構図が、仄白い小さな印画紙のうえに次々と露われてくる。・・・一見それは、畳鰯のようにも、あるいは縁日の金魚すくいの金魚のようにも見えてくる。…

神戸臨港線②

下流の方は川はばいっぱい銀河が大きく写ってまるで水のないそのままのそらのように見えました。 ジョバンニはそのカムパネルラはもうあの銀河のはずれにしかいないというような気がしてしかたなかったのです。 「銀河鉄道の夜」 宮沢賢治 新潮文庫 国道二号…

布引の滝

力をもいれずして、天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女の仲をもやはらげ、猛き武士の心をも慰むるは歌なり。 「古今和歌集」 中島輝賢(編) 角川ソフィア文庫 日本三大○○はいくつもあるが、日本三大神滝といえば、那智の滝、華厳の滝、…

徳光院

山門を入ると、左右には大きな杉があって、高く空をさえぎっているために、路が急に暗くなった。その陰気な空気に触れた時、宗助は世の中と寺の中との区別を急に覚った。静かな境内の入口に立った彼は、始めて風邪を意識する場合に似た一種の悪寒を催した。 …

畝馬神社

美奴売の松原。 今、美奴売と称ふは神の名なり。その神、もと、能勢の郡の美奴売の山に居たまひき。 「風土記〈新編日本古典文学全集5〉」 植垣節也(校注・訳) 小学館 神功皇后の御船を祀ったのが、脇浜にある畝馬神社らしい。国道二号線と四十三号線が合…

新港

二月一日、神戸から貨物船淡路山丸で出港した。埠頭で見送りに立っていたのはたった三人、明石にいる友人とその母上、それに兄貴だけ。貨物船なのでよその見送りの人もいない。まことに静かな船立ちだった。なんとも複雑な気持ちである。 「ボクの音楽武者修…

カーレーター

どんどんどん どんどこどんどこどんどん どどんこどん 「詩ってなんだろう」 谷川俊太郎 ちくま文庫 カーレーターときいても、知らない人には何のことだか分かるまい。エスカレーターの仲間? うーん、そう遠くないかも。 春休みの季節、例年なら妻が子ども…

神戸臨港線 架道橋と子安地蔵

ああ、Josef Pasternackの指揮するこの冬の銀河軽便鉄道は幾重のあえかな氷をくぐり (でんしんばしらの赤い碍子と松の森)にせものの金メタルをぶらさげて茶いろの瞳をりんと張りつめたく青らむ天腕の下うららかな雲の台地を急ぐもの 「宮沢賢治詩集」 宮沢…

ファミリア神戸本店/ジーニアスギャラリー

「ごめんね。泣いたりして。誰かの前で泣きたかったんだ。きっと、そう。見てる人が誰もいないのに泣くのって寂しいじゃない」 そう言って彼女は涙を拭って微笑した。「その人の前では泣かないの?」「嫌なの。きっと彼は私を子供だと思って同情するわ」 「…

布引ハーブ園

新・いるかホテルは正直なところ、僕の好みのホテルとは言えなかった。 少なくとも、普通の状況であれば僕は自分の金を出してこんなホテルには泊まらない。値段が高いし、余計な物が多すぎる。でも仕方ない。何はともあれとにかくこれが変貌を遂げた新しいい…

北野

すごく個人的な(そしてたぶんあまり意味のない)ことから、とりあえず話を始めさせていただくなら、僕はウィントン・マルサリスという名前を聞いて、まず猫に噛まれたことを思い出す。 「意味がなければスイングはない」 村上春樹 文春文庫 神戸はジャズの…

コロナウィルス②

この年のクリスマスは、福音の祭りというよりも、むしろ冥府の祭りであった。空っぽで燈火のない店、ショーウィンドーに飾られた模造チョコレートあるいは空の箱、暗い顔つきの人々を乗せた電車など、何ひとつ過去のクリスマスを思わせるものはなかった。・・・…

大阪駅②

島に住んでいると、演劇を観ることなんて、せいぜいが本土の県庁所在地に行くか、母やその友達に連れられて宝塚の公演を観にいく程度で、そんな時は、本当にそれだけで一日がかりのお出かけになる。 「島はぼくらと」 辻村深月 講談社文庫 神戸に住んでいる…

北新地

彼に言わせると、北にはうまいもんを食わせる店がなく、うまいもんは何といっても南に限るそうで、それも一流の店は駄目や、汚いことを言うようだが銭を捨てるだけの話、本真(ほんま)にうまいもん食いたかったら「一ぺん俺の後へ随いて・・・」行くと、無論一…

エス・コヤマ

時には母のない子のようにだまって海を見つめていたい 時には母のない子のようにひとりで旅に出てみたい 「寺山修司少女詩集」 寺山修司 角川文庫 世間は連日、コロナウィルスで大騒ぎだ。僕の家も大騒ぎ。なんせ、子どもがずっと家にいるのだ。遊んで騒ぐし…

大阪駅

その夜の飯は、大阪の町に出て食べた。大阪と東京ではずいぶん違っていた。大阪はゴミゴミした都だということができる。そして、ゴミゴミするという原因は、いろいろなものがモタついているというのからきているらしかった。 「がむしゃら1500キロ(全)」 …

コロナウィルス

おとーさんげんきですか。ぐやいわるいですか。ぼくわげんきでやつてます。これなつやすみのしくだいでえにつきです。いつかうみにいつたね。きれいくてたのしくておぼいだすといつもわらえます。またいつかいくよね。おとなになたら。いつかぼくがおとーさ…

東川崎町

Z2のエンジン音が、浩史の顔や声、なにげない仕草を、加奈子のなかに呼び覚ました。それと一緒に、浩史の背中にしがみついてバイクに乗っていたときの、後ろへ後ろへと流れていく景色や風の感触、さらには空気の匂いまでもが、あざやかによみがえる。 このバ…

新開地

その晩、庄造よりも二時間程おくれて帰って来た福子は、弟を連れて拳闘を見に行った話などをして、ひどく機嫌が好かった。そして明くる日、少し早めに夕飯を済ますと、「神戸へ行かして貰いまっせ。」 と夫婦で新開地の聚楽館へ出かけていった。 「猫と庄造…

ウォークマン

「わたしのテープ? なんで知ってるのよ、トミー」「うん。あのとき、ルースがみんなに探させたんだ。君がなくして、がっかりしてるからってな。おれも探した。君には言わなかったけど、ほんとに一所懸命に探したよ。君らには無理でも、おれなら探せる場所も…

北区に潮風は吹かない

とりあえず車だ。移動手段だ。最悪なあたしに必要なもの。ロシア人の目にも明らかな。免許とって、親に借金して、中古車を買おう。それで、自分の行きたいところに行けるようになるのだ。椎名のことは忘れて。遠藤には頼らないで。 「ここは退屈迎えにに来て…

メリケンパーク

「陽が沈むのを、一日に四十四回見たこともあったよ!」 そう言ってしばらくしてから、きみはぽつりとつぶやいた。「ねえ・・・悲しくてたまらないときは、夕陽が見たくなるよね・・・」「じゃあ四十四回見た日は、きみは悲しくてたまらなかったの?」 王子さまは…