笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

管楽器を「吹ける」ようになるまでの期間は、1~2年。

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 思ったより咲き始めの遅かった桜は、4月の中頃に盛りをすぎて、今は若々しい葉を芽吹かせている。
 これくらいの季節になると、気温が安定すると同時に、僕の大敵であるヒノキ花粉もピークアウトする。花粉症の僕に、やっと春らしい春がやってくるのだ。マスクを外して表を歩けるのが嬉しい。
 去年、外を出歩くための口実を兼ねてトランペットの練習を始め、秋頃までは公園などで吹いていた。で、寒いと指が動かないので、本格的な冬になってからは自宅でプラクティスミュートをつけて吹いていたのだけど、また外を出歩ける季節になったし、そろそろまた公園通いを始めようと思っている。近くに住宅のない、多少大きな音を出しても迷惑にならなさそうな公園まで、徒歩なら片道30分弱、自転車ならその半分。30分~1時間ほど吹いて帰宅すれば、2時間程度の外出になる。ちょうどいい運動量だ。

 現状、僕のトランペットの技量としては、音域的には最低音~Hi-Dがほぼ確実に発音できて、当たればいいだけならHi-F(を含む第6倍音)の打率は50%程度。そして中音域は演奏で使うことができ、in Bbで「さんぽ(トトロのOP)」のメロディを吹くくらいは問題ない。まあ、何か簡単な曲がひと節、通して演奏できれば、「吹ける」と宣言してもいいと僕は中学生に言っているので、ようはく、「音が出せる」段階から「吹ける」段階にステップアップした感じかな。これくらいの力があれば、M8のポップスの2ndは吹けるだろう。めあては達成できたと思っている。
 しかし、これで十分なわけはなく、最低でもHi-Fは確実に演奏で使えるようにしたいし、ここぞの見せ所でHi-Bbがキメられるぐらいの力は欲しい。あと・・・そうだな、あと一年はかかる気がする。

 だからね、やっぱり管楽器って、人前で吹いて恥ずかしくない程度にまで上達するには、1~2年かかるんだよ。

 それは、他の管楽器の経験がある僕でも同じこと。時々、なかなかうまくならないことに苛ついたりしょぼんとしたりしている若い人を見るけれど、気にすることないよ。そういうもんなんだって。
 常用域の上下に広がる高音域、低音域を演奏するためのフィジカルやコントロールを得るためには、一定量のトレーニングが誰であっても必要で、その成長スピードに多少の個人差はあるけれど、演奏家としての長いキャリアを見渡せばそんなものは誤差の範囲内でしかない。
 ただ、正しい奏法を身につけるために、適宜なトレーニングを行う必要はある。闇雲に練習すればいいというものではない。ここ数年のうちに僕は、崩れたアンブシュアのままトレーニングを重ねて伸び悩む中学生を時々目にした。もちろんアドバイスはしたが、その後一週間ぐらいしてもう一度見に行ってみると、元通りのアンブシュアに戻っていて、「これじゃないと吹けないんです」などと言うから、それ以上はどうしようもなかった。
 そうなってしまう背景はいくつか考えられるけど、原因のひとつにはやはり、焦りがあるんだろうなあと思う。焦り・・・っていうか、早く結果を出したいっていう気持ちだよね。中学校の部活動の現場では、先輩達がアンサンブルの練習に取り組んでいる裏番組で、一年生が1曲仕上げる、なんていうことをよくやるようだけど、そうすると、楽器をもって1年たたないうちに人前で演奏することになるわけだ。そのために無理をし、練習の過程でアンブシュアが乱れ、しかしとりあえず音は出るので本番はこなすことができて、それが成功体験となってしまう。
 そして、その後は矢継ぎ早に本番がやってくる。新入生歓迎の演奏、運動会のマーチ、夏のコンクール・・・奏法を修正してトレーニングやりなおす、という時間はない。で、誤った奏法のままなんとかかんとか本番をしのいでいるうちに、今さら正しい吹き方を覚え直す気力も余裕も失い、伸び悩んだ状態で卒業を迎え、「私は管楽器に向いていなかった」とうなだれて音楽から遠ざかる。

 やっぱり、最初のうちはさ、じっくり時間をかけて正しい奏法を身につけるべきだと僕は思う。そのためには、多少退屈だったとしても、基礎的なトレーニングを積み重ねるべきだ。その期間は、最低1年。まず1年間、演奏のための体作りをじっくり行ってから、奏法の基礎を定着させる。そして、次の1年では奏法が乱れないように気をつけながら演奏を行い、基礎の確実な実践を身につけつつ、上達をはかる。
 逆に言えば、少し我慢してじっくり練習すれば、誰でも上手く吹けるようになると思うんだよね。管楽器って、弦楽器や鍵盤楽器ほどは上達のハードルが高くないはずなんだ。イメージだけど、弦楽器や鍵盤楽器って、ある程度まともに演奏できるようになるまで4、5年かかるような気がする。大学生の頃に、オーケストラに初心者で入ってきた1年生がバイオリンに配属されて、3年生で大シンフォニーを弾いているなんてことはあったりするけど、コンマスコンミス)はやはり経験者が選ばれるし、初心者ながらにトップサイドや2ndトップなんていう奴は、完全に学業を放棄していたもんね。それに比べれば、管楽器はモノになりやすいと僕は思う。きっちりマジメに練習すれば日常生活を犠牲にしなくても、ロマン派のシンフォニーぐらいなら、大学から始めた初心者でも3年次には十分トップをはれる(それとは関係なく日常生活を放棄している奴は時々いたけど)。

 もちろん、そこからさらにトレーニングを重ねれば、色々な可能性を広げる楽しみはまだまだある。
 ただ、最初でつまいづいちゃうと、反対に可能性を閉じていくことになるので、やっぱり物事は最初が肝心だよね。後から修正は可能だけど、中学生に限って言えば、その三年間のうちに修正をいれる余裕はあまりないし、その見通しを本人がもつのも難しいだろう。だから最初の2年は修行期間だと思って、地味な練習に耐えよう。そして、3年生になったら華々しく活躍しようじゃないか、学生諸君。

 さて、僕も練習しようっと。しかし、ここにきてヘビー級の疲労感に襲われている。散歩どころではない。しかし、動かなければ体が鈍る。頑張りどころだな。