新・いるかホテルは正直なところ、僕の好みのホテルとは言えなかった。
少なくとも、普通の状況であれば僕は自分の金を出してこんなホテルには泊まらない。値段が高いし、余計な物が多すぎる。でも仕方ない。何はともあれとにかくこれが変貌を遂げた新しいいるかホテルなのだ。「ダンス・ダンス・ダンス(上)」 村上春樹 講談社文庫
新神戸から布引山に向かってロープウェイが設置されていて、できてすぐの頃、祖母と一緒に乗った記憶がある。Wikipediaによれば1991年の開業で、今は当時とは別の事業者が運営しているらしい。
当時の僕の印象は、「怖いロープウェイ」だった。ゴンドラの、駅での速度と移動時の速度が違って、当然、駅ではゆっくりと進んで乗降しやすくしているわけだが、駅を離れる時にゴンドラが急加速する。これが、慣れるまではものすごく怖い。その時僕が乗ったことのあったロープウェイは須磨のもので、これは大きなゴンドラがすれ違い運行するタイプのものだったから急加速も急減速もない。二十人乗りぐらいの大きなゴンドラしか乗ったことのない方には、一度乗ってみることをおすすめする。駅を離れる時は本当に、山の斜面に投げ出されるんじゃないかと、背筋が冷たくなるから。
当時の僕の印象は、「怖いロープウェイ」だった。ゴンドラの、駅での速度と移動時の速度が違って、当然、駅ではゆっくりと進んで乗降しやすくしているわけだが、駅を離れる時にゴンドラが急加速する。これが、慣れるまではものすごく怖い。その時僕が乗ったことのあったロープウェイは須磨のもので、これは大きなゴンドラがすれ違い運行するタイプのものだったから急加速も急減速もない。二十人乗りぐらいの大きなゴンドラしか乗ったことのない方には、一度乗ってみることをおすすめする。駅を離れる時は本当に、山の斜面に投げ出されるんじゃないかと、背筋が冷たくなるから。
数年前、長女が生まれてまだ間もない頃、数十年ぶりにこのロープウェイに乗ってハーブ園を目指した。当時と同じように急加速するゴンドラは健在で、初めてこのロープウェイに乗った妻は悲鳴をあげていた。僕は「変わってないな」と思って、ちょっと嬉しかった。娘はまだよちよち歩きの頃で、きょとんとしていた。
その数十年ぶりの来園から数年間は、布引ハーブ園にはよく子どもを連れて通った。未就学児は無料で、年間パスポートを買っておけば一年間は何度でも乗れるから、小さな子どもを連れて外気浴したりちょっと散歩したりするのに、ハーブ園はちょうどよかった。中間駅のあたりにはちょっとした遊び道具が置いてある広場があって、子どもを遊ばせることもできる。休日や夏期にはナイター営業をしていて、神戸港の夏の花火を楽しめる。普段とは違うちょっと贅沢な散歩を楽しむには、もってこいの場所がハーブ園だ。冬期の一ヶ月ほど休業がある以外は、大抵営業してるのもいい(たまに強風のために運休しているけど)。そう言うわけで、長女が幼稚園の年中になるくらいまではよく通った。
長女に続いて長男、次男が生まれた。次男ができると子ども三人をまとめて移動させるのが大変で、ハーブ園から脚が遠のいた。去年の夏、久し振りに花火を見るためにナイター営業のロープウェイに乗ったのが一年以上ぶりだっただろうか。その時は、「次に来るのはまた来年だね」なんて話していたのだけれど、今度のコロナ騒ぎで学校や園が休みになり、ちょっとハーブ園でも行こうかということになった。
麓では、桜のつぼみが膨らみかかっていて、もう二、三日もすれば咲き始めるだろうという季節。今日山上に行っても花はまだ咲いていないかと思ったけど、すでに菜の花やチューリップが早春の日を浴びて色鮮やかに輝いていた。ハーブ園の花壇はいつ来てもきれいに整備されていている。山頂駅から街を見下ろすと、神戸港が春霞に包まれていた。少し寒い。ホームページでは山上の気温と天気が公開されているのだけど、僕たちはそのチェックを怠ったために、下界の陽気にあわせた薄着で着てしまった。子どもたちが「寒い、寒い」と騒ぐので僕たちは山頂駅と中間駅の真ん中あたりにある温室に逃げ込む。ここは温室で熱帯性の植物が育てられていて、温かい。カフェが併設されている。冬期休業中に改装されたのか、以前とは店が変わってしまった。ちょっと敷居が高くなった感じ。売店や体験コーナーもできた。子どもたちは、その一角にあったパズルやジェンガを楽しむ待合テーブルでゲームを楽しんだ。ちょっとした心遣いはとてもありがたい。
それから僕たちは中間駅のあたりにある広場まで下って、子どもたちを遊ばせた。コロナパニックが始まってから外出の機会が少ないこどもたちは、ここでストレス発散だとばかりに遊び、閉園間際まで過ごした。ボール、ディスク、縄跳び、竹馬・・・これだけあれば、一時間や二時間は十分潰せる。子どもだけではなくて、昔遊びを懐かしむ大人やカップルも遊戯を楽しんでいた。
カップルと言えば。
以前、友人に新しい恋人ができて、彼が彼女を僕に紹介したいと言うので、三人でここに来たことがあった。たまたま新神戸で待ち合わせ、そのあたりの居酒屋で飲んだ後に、「ハーブ園でも行ってみる? ナイターやってるから」と僕が誘ったのだった。この二人は、なんとなくうまくいきそうだという予感があった。ハーブ園にはカップルの愛の成就を祈念するスポットがいくつかある。残念ながらナイター営業のロープウェイで上るとハーブ園には入園できない(閉園している)ので、彼らとそのスポットには行けなかったけれど、山頂駅から神戸の夜景を楽しんだ。
彼らはその後めでたく結婚した。僕は、霊験だとか御利益だとか、あんまり信じない方だけど、でもハーブ園はカップルで訪れるのにいい場所かもしれない。