笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

カーレーター


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どんどんどん
 どんどこどん
どこどんどん
 どどんこどん
「詩ってなんだろう」 谷川俊太郎 ちくま文庫

 

 カーレーターときいても、知らない人には何のことだか分かるまい。エスカレーターの仲間? うーん、そう遠くないかも。
 春休みの季節、例年なら妻が子どもをつれて実家に帰省するのだけど、今年はコロナ騒ぎで動けない。じゃあどこか遊びに行こうかと言っても、こういう自体だからイベントはあれもこれも中止だし、人気のそこもあそこも閉園・閉館・閉鎖中だ。じゃあ、ちょっと怖いけど、久し振りにカーレーターでも乗りに行こうか、ということになった。
 以前に乗ったのは長女が四歳の時だった。長女はその時のことをすっかり忘れていて、「カーレーターって何?」なんて首をかしげている。まだベビーカーだった長男は覚えているはずもないし、次男は生まれていなかった。ふふふ、びびるなよ、もらすなよ。散々脅してから、僕たちは須磨を目指した。

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 国道沿いの敦盛塚の少し東に、須磨ロープウェイの駅がある。まずこのロープウェイで山の中腹へ上り、そこから山頂へと向かうカーレーターに乗るのだ。
 すると、ああ見えてきた、見覚えのある緑色のゴンドラ。近づくと、ガタゴトとやかましい。どういう駆動方式なのか、なぜそんなに振動するのか、よく分からないのだけれど、これを作った人はとにかく、スムーズに動く乗り物を作ろうという発想はなかったのかもしれない。ひと昔ふた昔前のセメント工場のベルトコンベアに、バケットの代わりにゴンドラをつけて人を乗せれば移動できるだろう、って具合に。とてもスマートな乗り物とは言えない。
 いざ、乗車。トロッコのブレーキみたいに見えるポストはただの持ち手で、ここをつかんで体をゴンドラに移動させる。カッコつけて手放しで乗ろうとしてはいけない。ゴンドラの振動は見た目以上に強烈だ。両足をゴンドラに写した途端、立っていられなくてそのまま椅子に腰を下ろさざるをえない。まるで採石場の石にでもなったような気分である。何かの継ぎ目にさしかかる度に、振動で体が宙に浮く。
 スロープの窓からは、明石海峡が見下ろせるが、とてもそんな場合ではない。後方からは子どもの楽しそうな悲鳴が聞こえてくるので、飛ばされないように気をつけながら振り返り、せっかくだから写真でも撮ろうとカメラのレンズを向ける。ファインダーを覗いた瞬間、とても無理だ、と諦めた。自分もブレるし、被写体もブレ放題にブレている。シャッタースピードを高めに設定して当てずっぽうにレリーズした。打率は推して知るべし。とても公表できるような数字ではない。

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 乗り終えてみると、子どもはとても楽しんだようで、おおはしゃぎだった。それから、展望台にあがって風景を眺め、リフトで須磨浦山上遊園で少し遊んだ。まるでタイムスリップしたかのような昭和感あふれるアトラクションを楽しんでから、下山する。もちろん、ロープウェイまでの移動は、またカーレーター。下りも強烈な振動。
 後で知ったが、このカーレーター、世界に導入例がたったのふたつ、現存するのがこの須磨にひとつ。つまり、地球上にたったひとつしかない超絶レアな乗り物なのだ。しかもレトロ。隅から隅までレトロ。展望台ではインベーダーゲームやジュークボックスも楽しめる。単純にアトラクションとしても楽しいけれど、一定以上の年齢層であれば、昔懐かしい雰囲気が味わえるだろう。もしまた来ることがあれば、ぜひ聖子ちゃんヘアにベルボトムでカーレーターに乗りたい(それは嘘)。

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