笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

畝馬神社

美奴売の松原。 今、美奴売と称ふは神の名なり。その神、もと、能勢の郡の美奴売の山に居たまひき。 「風土記〈新編日本古典文学全集5〉」 植垣節也(校注・訳) 小学館 神功皇后の御船を祀ったのが、脇浜にある畝馬神社らしい。国道二号線と四十三号線が合…

新港

二月一日、神戸から貨物船淡路山丸で出港した。埠頭で見送りに立っていたのはたった三人、明石にいる友人とその母上、それに兄貴だけ。貨物船なのでよその見送りの人もいない。まことに静かな船立ちだった。なんとも複雑な気持ちである。 「ボクの音楽武者修…

カーレーター

どんどんどん どんどこどんどこどんどん どどんこどん 「詩ってなんだろう」 谷川俊太郎 ちくま文庫 カーレーターときいても、知らない人には何のことだか分かるまい。エスカレーターの仲間? うーん、そう遠くないかも。 春休みの季節、例年なら妻が子ども…

神戸臨港線 架道橋と子安地蔵

ああ、Josef Pasternackの指揮するこの冬の銀河軽便鉄道は幾重のあえかな氷をくぐり (でんしんばしらの赤い碍子と松の森)にせものの金メタルをぶらさげて茶いろの瞳をりんと張りつめたく青らむ天腕の下うららかな雲の台地を急ぐもの 「宮沢賢治詩集」 宮沢…

ファミリア神戸本店/ジーニアスギャラリー

「ごめんね。泣いたりして。誰かの前で泣きたかったんだ。きっと、そう。見てる人が誰もいないのに泣くのって寂しいじゃない」 そう言って彼女は涙を拭って微笑した。「その人の前では泣かないの?」「嫌なの。きっと彼は私を子供だと思って同情するわ」 「…

布引ハーブ園

新・いるかホテルは正直なところ、僕の好みのホテルとは言えなかった。 少なくとも、普通の状況であれば僕は自分の金を出してこんなホテルには泊まらない。値段が高いし、余計な物が多すぎる。でも仕方ない。何はともあれとにかくこれが変貌を遂げた新しいい…

北野

すごく個人的な(そしてたぶんあまり意味のない)ことから、とりあえず話を始めさせていただくなら、僕はウィントン・マルサリスという名前を聞いて、まず猫に噛まれたことを思い出す。 「意味がなければスイングはない」 村上春樹 文春文庫 神戸はジャズの…

コロナウィルス②

この年のクリスマスは、福音の祭りというよりも、むしろ冥府の祭りであった。空っぽで燈火のない店、ショーウィンドーに飾られた模造チョコレートあるいは空の箱、暗い顔つきの人々を乗せた電車など、何ひとつ過去のクリスマスを思わせるものはなかった。・・・…

大阪駅②

島に住んでいると、演劇を観ることなんて、せいぜいが本土の県庁所在地に行くか、母やその友達に連れられて宝塚の公演を観にいく程度で、そんな時は、本当にそれだけで一日がかりのお出かけになる。 「島はぼくらと」 辻村深月 講談社文庫 神戸に住んでいる…

北新地

彼に言わせると、北にはうまいもんを食わせる店がなく、うまいもんは何といっても南に限るそうで、それも一流の店は駄目や、汚いことを言うようだが銭を捨てるだけの話、本真(ほんま)にうまいもん食いたかったら「一ぺん俺の後へ随いて・・・」行くと、無論一…

エス・コヤマ

時には母のない子のようにだまって海を見つめていたい 時には母のない子のようにひとりで旅に出てみたい 「寺山修司少女詩集」 寺山修司 角川文庫 世間は連日、コロナウィルスで大騒ぎだ。僕の家も大騒ぎ。なんせ、子どもがずっと家にいるのだ。遊んで騒ぐし…

大阪駅

その夜の飯は、大阪の町に出て食べた。大阪と東京ではずいぶん違っていた。大阪はゴミゴミした都だということができる。そして、ゴミゴミするという原因は、いろいろなものがモタついているというのからきているらしかった。 「がむしゃら1500キロ(全)」 …

コロナウィルス

おとーさんげんきですか。ぐやいわるいですか。ぼくわげんきでやつてます。これなつやすみのしくだいでえにつきです。いつかうみにいつたね。きれいくてたのしくておぼいだすといつもわらえます。またいつかいくよね。おとなになたら。いつかぼくがおとーさ…

東川崎町

Z2のエンジン音が、浩史の顔や声、なにげない仕草を、加奈子のなかに呼び覚ました。それと一緒に、浩史の背中にしがみついてバイクに乗っていたときの、後ろへ後ろへと流れていく景色や風の感触、さらには空気の匂いまでもが、あざやかによみがえる。 このバ…