笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

北野

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 すごく個人的な(そしてたぶんあまり意味のない)ことから、とりあえず話を始めさせていただくなら、僕はウィントン・マルサリスという名前を聞いて、まず猫に噛まれたことを思い出す。
 

 

 神戸はジャズの街と、誰が言ったか知らないが、何となく神戸はジャズの街ということになっているらしい。横浜も同じようなことを言っていたっけ。横浜でジャズを聴かせるハコや店が石川町、関内、野毛あたりに集中しているように、神戸でジャズと言えばやっぱり北野界隈だ。

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 北野と言えば異人館街。開港当時は段々畑しかなかった山の手に、居留地の外国人が別荘を構えたのが今の異人館街のはじまりらしい。今でも文化財に指定された建物が多数残っていて、そのうちの結構な数の建築物は現役の店舗や住居として利用されている。このへんの事情は横浜も神戸も変わりない。
 ただ、ジャズに関して言えば、北野のライブハウスで聴けるジャズはボーカルがメインで、インストのバップなんかはちょっと日陰にまわっている。僕は五〇年代あたりのハードバップ、クール、モードなんかが好きだ。若かりし頃のエラなんかもいいけれど、僕を本当に熱い気持ちにさせてくれるのは誰かっていうと、やっぱりマイルズとかコルトレーンとかキャノンボールとか・・・。そう言うわけで、神戸に引っ込んでからあんまりライブに出かけることはなくなってしまった。まあ、それだけが原因じゃないのだけども。
 神戸でインストもののライブをやるのは、北野よりも元町あたりだろうか。もちろん、インストを聴かせるハコも北野にはあるけど、メインストリートから一本引っ込んでいる感じは否めない。

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 横浜にいた頃、サックスでジャズを教わっていた。関内の「BarBarBar」に教室があって、仕事上がりにサックスを背負って通った。師匠は皆川トオル先生。教室の一番最後の枠、22時から23時が僕のレッスンの時間だった。他の先生や生徒はもうレッスンを終えて帰って行くところへ僕がやってきて、先生の待つスタジオに入る。レッスンが終わってスタジオから出てくると、もう教室の事務員さんしかいなかった。夜遅くに稽古をつけてもらったことは今でも感謝している。
 先生は石川町の「Windjammer」で毎週土曜にステージをもっていて、僕は何度か聴きに行った。僕がいるのに先生が気づくと、ブレイクで僕のテーブルに挨拶にきてくれた。座って一緒に飲むこともあった。先生はいつも「Windjammer」の名物カクテル、ジャック・ターを頼んだ。僕が神戸に戻るために仕事をやめ、サックスのレッスンも泣く泣くやめた後、「Windjammer」に先生に会いに行って少し話したのだけど、そのとき、「先生、神戸に吹きに来てくださいよ」と、半ば冗談、半ば本気で言ったら、先生は苦い笑顔で「ああ、そうだね、神戸ね・・・」と言葉を濁した。
 そのときは、いつも快活な先生にしては歯切れが悪いと思って首をかしげたけれど、今はなんとなく、その理由が分かる気がする。

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 神戸にも、面白いインストのライブが聴けるジャズのハコがふえるといいんだけどな。僕が知らないだけなのかも知れないけど。