2020-02-01から1ヶ月間の記事一覧
その晩、庄造よりも二時間程おくれて帰って来た福子は、弟を連れて拳闘を見に行った話などをして、ひどく機嫌が好かった。そして明くる日、少し早めに夕飯を済ますと、「神戸へ行かして貰いまっせ。」 と夫婦で新開地の聚楽館へ出かけていった。 「猫と庄造…
「わたしのテープ? なんで知ってるのよ、トミー」「うん。あのとき、ルースがみんなに探させたんだ。君がなくして、がっかりしてるからってな。おれも探した。君には言わなかったけど、ほんとに一所懸命に探したよ。君らには無理でも、おれなら探せる場所も…
とりあえず車だ。移動手段だ。最悪なあたしに必要なもの。ロシア人の目にも明らかな。免許とって、親に借金して、中古車を買おう。それで、自分の行きたいところに行けるようになるのだ。椎名のことは忘れて。遠藤には頼らないで。 「ここは退屈迎えにに来て…
「陽が沈むのを、一日に四十四回見たこともあったよ!」 そう言ってしばらくしてから、きみはぽつりとつぶやいた。「ねえ・・・悲しくてたまらないときは、夕陽が見たくなるよね・・・」「じゃあ四十四回見た日は、きみは悲しくてたまらなかったの?」 王子さまは…
因果の花を知る事、極めなるべし。一切、みな因果なり。初心よりの藝能の數々は、因なり。能を極め、名を得る事は、果なり。しかれば、稽古するところの因おろそかなれば、果を果たすことも(難し)。これをよく知るべし。 「風姿花伝」 世阿弥 岩波文庫 撮…
「ほかのことと全部おんなじさ、フレッチャー。練習だよ」 「かもめのジョナサン」 リチャード・バック/五木寛之(訳) 新潮文庫 新神戸の高層マンション群の谷間に、取り残されたような日本庭園風の区画がある。竹中大工道具館だ。 僕はすでに何度かここを…
坂本 一般に聴かれるポップスのミディアムのテンポというのが、一小節が二秒なわけ。四分音符というのが〇.五秒、十六分音符は〇.一二五秒になるの。それで、今、僕たちが使ってるディレー・マシンというのは、マイクロ・セカンド、つまり千分の一秒単位な…
” ・・・と、アンナに不安と、欺瞞と、悲哀と、邪悪に満ちた書物を読ませていた一本のろうそくの光が、いつもにもましてぱっと明るく燃えあがって、今まで闇につつまれていたいっさいのものを照らしだしたかと思うと、たちまち、ぱちぱちと音をたてて暗くなり、…
よく言われることですが、建築家という職業は、画家やピアニストというソロで才能を発揮する芸術家と違い、自分自身は直接的に作品制作に関わらずに、大勢の人たちを率い、決断し、指示を与えていく、映画監督やオーケストラの指揮者に近い役割を担うもので…
暁光が川筋から湿気をあぶり出している。きれぎれの雲が飛んでいく。鋸や金槌を使う音が河畔のあちこちで響き、それに混じって子供たちの歓声も聞こえてきた。 「泥の河」 宮本輝 新潮文庫 阪神淡路大震災の数年後から横浜で暮らし始め、東関東大震災の頃に…