笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

モトコー


f:id:sekimogura:20200402224659j:image
 赤い裸電球の下の、琺瑯びきのバットに充たされた現像液のなかから、裸の男女がさまざまな姿態で絡まり合った構図が、仄白い小さな印画紙のうえに次々と露われてくる。・・・一見それは、畳鰯のようにも、あるいは縁日の金魚すくいの金魚のようにも見えてくる。
 
「犬の記憶 終章」 森山大道 河出文庫

 

 神戸のディープスポットのひとつに数えられるモトコー。モトコーとは元町高架下のことで、JR元町駅から神戸駅までの高架の下にある空間を利用した商店街がある。防災上の不備を理由に、本格的な再開発が着手されると報道されたのが数年前。もともとシャッターの多いエリアだったが、その向きは加速しつつあるように思う。それでもまだ、いくつかの店が頑張っていて、かろうじて商店街の体を保っている。それが、数年前の話。
 神戸は高架の街だ。海岸線に沿った細長い土地の微妙な凹凸を吸収するために、東西方向に伸びる線路の多くの部分が高架化されている。利用方法は様々で、工場、駐車場、倉庫などが代表的な使い方だが、三宮から神戸にかけての繁華街では商店となっている。三宮から元町は、単に「高架下」と呼ばれ、ファッショナブルな衣料品店が中心だ。雰囲気も明るいし、客も多い。けれど、元町を境にしてその神戸側は、三宮側とは趣を一変させる。一気に、ディープになる。
 今はどうなっているだろう、と思って久し振りにモトコーを尋ねてみた。
 元町駅西口からモトコーに足を踏み入れるなり、その暗さに驚いた。いや、前から薄暗い通りではあったけど、さらに暗くなっている。その暗い通りを、通勤のサラリーマンが雨をさけるアーケード代わりにして早足に通っていく。これじゃほとんど廃墟だ。通りのところどころには、商店の列びを示した案内図が張られているけれど、空欄がいくつもある。この案内図がいつ張られたものかは分からないが、今はもっと歯抜けが進んでいる気がする。
 数年前・・・そう、数年前はまだ、今よりはシャッターがあがっていた。その時だって決して明るい場所ではなかったけど、少なくとも今よりはまだ明るかった。中古のワープロ専門店だとか、外国人ばかりが買いに来るお菓子の店だとか、ニッチでディープな店がたくさんあって楽しかった。その中古のワープロ専門店の前で、「あ、書院だ、オアシスだ、親指シフトだ、懐かしい」とひとりでアガっていたのが懐かしい。

f:id:sekimogura:20200402224726j:image

f:id:sekimogura:20200402224743j:image

f:id:sekimogura:20200402224800j:image

f:id:sekimogura:20200402224818j:image

f:id:sekimogura:20200402224833j:image

 一説に高架下の商店街は戦後の闇市の名残だというから歴史は古い。しかし、始まりあるものはいつか終わりを迎える。このディープでアングラなモトコーが終焉を迎える日は遠くないだろう。その後には何ができるだろうか。新しくなっても、ニッチでディープなモトコーだといいな。