笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

2019-01-01から1年間の記事一覧

「旧和田岬灯台」

魚は水に飽かず。魚にあらざれば、その心を知らず。鳥は林を願ふ。鳥にあらざれば、その心を知らず。閑居の気味も、また同じ。住まずして、誰かさとらん。 「方丈記」 鴨長明/武田友宏(編) 角川文庫 Wikipediaによれば、この和田岬灯台は明治十七年に和田…

「須磨寺」

あはれ、弓矢とる身ほど口惜かりけるものはなし。武芸の家に生れずは、何とてかかる憂き目をば見るべき。なさけなうも討ちたてまつるものかな。 新日本古典文学大系 平家物語 下 梶原正明・山下宏明(校注) 岩波書店 須磨海岸にはよく行くくせに、須磨寺に…

「須磨」

ゆゑもなく海が見たくて海に来ぬこころ痛みてたへがたき日に 「一握の砂」 石川啄木 ハルキ文庫 海を訪れるのはいい。砂浜でも港で構わない。希望を失った朝、やりきれない午後、なんとなく気の滅入る夕方、疲れ果てた夜。寄せては返す波の音に耳を澄ませて…

「今津灯台」 令和に取り残された文化の灯り

国道に出てみた。といっても、わたしには国道に見えたというだけのことで、実は、この土地の住民にとっては、麦畑の間の畦道にすぎなかったのだ。 「ガリヴァー旅行記」 J.スウィフト/坂井晴彦(訳) 福音館書店 高架線を基調とする阪急神戸線は、西宮北口…

神戸ルミナリエ

彼女たちの笑顔は爽やかだった。焼跡をほじくりかえして焼けたバケツへ掘りだした瀬戸物を入れていたり、わずかばかりの荷物の張番をして路上に日向ぼっこをしていたり、この年頃の娘達は未来の夢でいっぱいで現実などは苦にならないのであろうか、それとも…

「水道筋」 たこ焼きとヘインズ

「…ただ、あの時のフルート聞いたあの気分がどういうものかもっとよく知りたいな。それだけは感じるよ、あれは何だったのか知りたいよ」 「限りなく透明に近いブルー」 村上龍 講談社文庫 娘に連れられて公園に遊びに行ったら、初めて見る男の子が僕たちに声…

日岡神社

日岡。坐す神は、大御津歯の命の子、伊波都比古の命なり。み狩せし時に、一鹿この丘に走り登りて鳴く。その声比々といひき。故れ、日岡と号く。 「新編日本古典文学全集5 風土記」 植垣節也(校注・訳) 小学館 宝殿に行ったついでに、もう一所、寄りたい場…

「六甲道駅」 片思いのフォレスタ

ジェイは僕にビールを何本かごちそうしてくれ、おまけに揚げたてのフライド・ポテトをビニールの袋に入れて持たせてくれた。「ありがとう。」「いいのよ。気持ちだけ。・・・でも、みんなあっという間に大きくなるね。初めてあんたに会った時、まだ高校生だった…

「宝殿」 浮遊する巨石

・・・ノンフィクションを書く仕事にとって最大の敵は無関心である。何かに驚いたり何かをおもしろがったりする気持ちこそ大切だ。こうした気持ちは、残念ながら、日本の学校教育の中では摩滅していく。・・・ テーマを見つけるには、子供の好奇心を呼び戻さなけれ…

「新神戸」 帰還、そして再び旅立つ

こうして、コインが宙に投げられ、何度も何度も回転した。「表」が出たときもあったし、「裏」が出たときもあった。 「モーターサイクル・ダイアリーズ」 エルネスト・チェ・ゲバラ 棚橋加奈江(訳) 角川文庫 東関東大震災のあった年の夏、僕は十数年住んだ…

学校

べつに遠い雲の下でなくてもよい。この学校の外であればどこでもいい。この教室の外であればどこでもいい。身体が不自由に拘束されているのなら、せめて精神だけでも飛び回りたい。 ・・・ できるだけ遠くへ。 まさにそれが、その頃の僕の日々の生活の願いだっ…

「三宮」 日常、そして始点

けれどもこれら新生代沖積世の巨大に明るい時間の集積のなかで正しくうつされた筈のこれらのことばがわずか一点にも均しい明暗のうちに (あるいは修羅の十億年)すでにはやくもその組立や性質を変じしかもわたくしも印刷者もそれを変わらないと感ずることは…

旅ってなんだっけ。

途中のどこかで女たちに、未来に、あらゆるものに会える、と分かっていた。途中のどこかできっと真珠がぼくに手渡される、とも。 「オン・ザ・ロード」ジャック・ケルアック 青山南(訳) 河出文庫 旅は楽しい。 時に、何ともしようのないトラブルのために途…