笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

新港

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 二月一日、神戸から貨物船淡路山丸で出港した。埠頭で見送りに立っていたのはたった三人、明石にいる友人とその母上、それに兄貴だけ。貨物船なのでよその見送りの人もいない。まことに静かな船立ちだった。なんとも複雑な気持ちである。
「ボクの音楽武者修行」 小澤征爾 新潮文庫

 

 新港と聞いてすぐに、あああそこだなってピンとくるのは、僕より上の世代か港の仕事をしている人ぐらいかもしれない。新港とは、メリケンパークのすぐ東にある第一突堤からポートターミナルのある第四突堤までの四つの突堤ある地域のことだ。

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 おそらく往時は、沖止めの大型貨物船や旅客船が入れ替わり立ち替わり突堤につけられたのだろうけど、ふたつの人工島の完成や貿易量の伸び悩みのために、新港はその役割を変じつつある。

 一番東にある第四突堤は、その上を神戸大橋が覆っているために、もはや突堤であるという認識すら困難だが、巨大旅客船に対応するポートターミナルを有するために、最も突堤らしい突堤と言うこともできるだろう。コロナウィルスの爆発的流行以来、大型客船はの姿は見えないが、その前にはメガマンションをそのまま海に浮かべたようなどでかいクルーザーが頻繁に停泊していた。
 その西隣が第三突堤。ここはフェリーターミナルとして機能している。突堤の付け根のところには神戸ポートオアシスという施設が数年前に完成した。ここの一階がカフェテリア形式の食堂になっていて、おかず二品にごはんと味噌汁がついて五百円という学食並のお得さなのだ。おしゃれさはないけれど、安くてお腹がいっぱいになるから、僕は気に入っている。
 第二突堤は倉庫だ。倉庫は港には欠かせない施設。
 そして第一突堤は、他の突堤とはちょっと様子が違って、温泉施設つきのホテルになっている。こんな港のさきっちょで温泉が湧くのは不思議だが、日本はどこを掘っても温泉が出るというから、嘘ではあるまい。神戸には有馬があるんだから、こんなところに温泉掘らなくてもいいのにと思うけど、掘れば出ると知れば掘りたがる人がいるようだ。
 今、このあたりはいつ来ても、工事ばかりだ。何が建つのか知らないが、いつも一生懸命、何かを作っている。それがどうも、港湾施設ではないようなものばかり。やがて、機能的な意味での港らしい風景は消えて、観光客相手の施設ばかりになるかもしれない。しかし僕は思う、コンテナヤードやガントリークレーンがあってこその港なのであって、温泉は港に必要な機能ではない。観光の客寄せに「港街・神戸」を謳うなら、まず港の方をちゃんとしましょうよ。
 巨大な鉄のキリンみたいなガントリークレーン、山積みのコンテナ、ビルがすっぽり入りそうな冷凍倉庫、行き交うパイロット船の航跡、船溜まりにひしめく大小のボート・・・そういう煤けた風景と油っぽい潮風の匂いを、僕は嫌いじゃない。だってリアルじゃん。港巡りの観光船しか通らない港なんて、港じゃない。港がなくなったら、観光船は何を観光するというのだろう。温泉の湯けむり? 僕はそんなの見たくない。

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