笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

測量野帳

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「イメージ、イメージ、一番大切なのは純粋なイメージ」
 と、僕は言った。
「イメージやっか、わかるやろ? よし、高原ね、それから、カメラがズーム・ダウンすると、フルートを持つ少年が」
「マスガキのカメラ、ズームついとらんぞ」
「アダマちょっと黙っとけ、細かか変更はあとでもよかやっか、そいでね、フルートば持った少年がさ、一曲吹くわけ、きれか曲ね」
「わかったタイガースの花の首飾り」

 

「69」 村上龍 集英社文庫

 

 動画のライブ配信のカメラマンを頼まれた。
 動画撮影の経験はなかったので、ちょっとためらったのだけど、機材はあちらで用意してくれるというし、せっかくの機会なので引き受けた。ZOOMで他県のあちこちにある拠点をつないで、お料理教室をするのだという。面白そう。
 動画撮影もライブ配信もZOOMも、僕はまったくのド素人なので、一応、ひととおり勉強した。勉強してみて初めてわかったが、動画とスチルでは随分勝手が違う。特に機材回りのことは、僕にとっては未知のフロンティアであった。「外部カメラをPCに接続してwebカメラとして使うにはHDMIキャプチャが必要で・・・もしなければ、カメラメーカーの提供しているユーティリティウェアをダウンロードしてインストール・・・」、うわああああ、単語が全部わからない。HDMIキャプチャって、何それ。USBケーブルのポン付けではダメなんですか。うーん・・・。
 で、半分も理解できていないのだけど、調べたことはとりあえずメモしておく。近頃は、頼まれて撮影した時には、調べたことや、その時の機材・現場・状況・反省なんかを全部記録しておくことにしている。すると、後日同じような撮影を頼まれた時に、そのメモが役に立つ。

 記録には、コクヨ測量野帳を使っている。
 この測量野帳というメモ帳、ずいぶん前に、ナガサワ文具で配っていたノベルティなのだけど、使い道がないので長い間死蔵していた。
 こいつ、なんでこのサイズなんだ? 中途半端にでかくて持ち運びにくいし、中途半端に小さくて書きたいことを書き切れない。しかもこの表紙、硬い。板だ。ページが曲がらないので、片手でパラパラっと開くことができない。しかも、薄いし。たくさん書けないじゃん。ちっ、使えねえな。と、思っていた。僕は普段、殴り書き用メモ用にはミニ6穴のシステム手帳を、日記にはA5のルーズリーフを、読書用にはA4ノートを使っている。測量野帳のサイズは、どれともあわず、僕にはとても中途半端に感じられたのだった。

 ところが、実際に使ってみると、とても使いやすいことが分かった。
 何がいいって、薄いのがいい。
 測量野帳は、まず全体に薄い。ボリュームは40枚なのだが、紙が薄いのでかさばらない薄さだ。薄いから、そんなにページがあると思っていなかった。僕は勘違いしていたのだ。案外、たくさん書ける。しかも、かなり薄い紙のはずなんだけど、しっかりした紙質で、頼りなさがない。
 この紙、何だろう、薄いのに丈夫だ。斤量の小さな紙だと普通、ねばっこい油性のボールペンで書くとくしゃっと潰れたり穴が開いてしまったりすることがあるけれど、測量野帳の紙ではそういう事態は起こらなさそうである。僕はジェットストリーム(0.5mm)とゼブラのF-701で書いているが、この二種類のボールペンでは全く問題ない。
 裏抜けも、ほぼない。一度、パイロットの万年筆で書いて、それはさすがに少し裏抜けしたけど、困るほどではなかった。かといって、インクの吸いが悪くていつまでも乾かないということもない。この紙、いいぞ。なかなか高性能だ。
 ただ、コクヨの紙の問題点として、どうにも眩しい、という僕だけの課題があって、この点は測量野帳についても同じである。しかしまあ、必要なことをささっとメモするだけであれば、多少眩しいのは気にならない。
 測量野帳のページには、3mmの方眼が印刷されている。これも、いい。B5やA4のノートで方眼を選ぶと大抵、5mmの方眼が印刷されているので、3mmはかなり小さなマス目であると言えるわけだが、この小さなマス目を見ると、どういうわけか僕の手は自動的に小さな字を書き始める。すると、「ちょっと書き留めておく」ぐらいの量のメモが、ちょうどいい案配にページに収まる。

 測量野帳、なかなかいい。今まで誤解しててごめん。

 動画撮影は、勉強していったおかげで、それなりにスムーズにできた。いくつか反省点もあったけど、あの環境でやったにしては、まあ合格点だと思う。マズったところはメモしておいて、次回の反省点に。ムービーの撮影、今まで敬遠してやってこなかったけど、楽しい。チャンスがあれば、またやってみたい。
 ああ、勉強しておかないと。それも、メモ、メモ。