笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

トランペットの練習は、柔軟性が大事。体も、心も。

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 マイルス・デイヴィスの写真を見ると彼は、顔面に対して水平以上の角度でトランペットを構えていることが多い。極端なベルアップやベルダウンの姿勢で撮られる写真をよく見るが、そういう意味の角度ではなくて、ベルが鼻側に近いか、顎側に近いか、という話。あの、唇への楽器のあてかたを見ると、ああマイルスだ、と思う。カッコいい。
 僕は、あの角度でトランペットを構えても、音が鳴らない。上唇が完全に固定さてしまって、どれだけ息を吹き込んでも、カスリもしないのだ。できたら、マイルス風に構えて吹けたらいいなあと思うのだけど、無理。せめて、真っ直ぐ正面を向いた頭の位置で、楽器が水平になるように構えられたらとも思うが、それも無理。じゃあどんな角度なら吹けるねん、というと、僕の場合、音がちゃんと鳴るようにするためには、少し顎側に下げた位置。残念ながら、あまりカッコよくはない。しかし、その角度からちょっとでもズレると、全く吹けないので、仕方がない。
 多分、僕と同じ悩みをかかえているトランペッターはたくさんいるはずだ。中学生を見ていても、4人に1人くらいの割合で、顔面に対して水平未満の角度で演奏している生徒さんがいる。それも、僕以上に極端な角度で。これが、コンサートバンドなら問題はないのだけど、マーチングバンドだと大変だ。アンブシュアの形にかかわらず、ベルの角度をそろえなければいけないので、僕みたいなタイプの奏者は顎を高く上げたような格好でパフォーマンスしなければならない。僕はマーチングをしたことがないけれど、多分、キツいだろうなと思う。

 どんなアンブシュアがその奏者にフィットするかは、歯並びを始めとした顔面の骨格や唇の形状の問題だろうから、どうしようもないんじゃないかな。歯列矯正などの方法で肉体改造するなら、話は別だろうけど。今のところ、僕にはその情熱も必要もない。ベル下がり気味の構え方でいいです。
 しかし、プロのトランペッターの人って、どうしてるんだろうね? 僕はプロのプレイヤーに、ベル下がりの奏者を見たことがない。逆にマイルスみたいなベル上がりの奏者も見たことなくて、大抵みんな、キレイな水平に構えているような気がする。ベル下がりでは上達に限界があるから、そういう人はプロにはなれないか、あるいはプロになるために矯正をするのか・・・なのかな? 分からない。
 一方で、アマチュアでは「この人、下がり気味だな」って人を時々見るが、だから技術的に劣るかというと、そんな風にも感じない。普通に、上手に演奏なさっている。
 だからやっぱり、下がってたって別にいいじゃんって、今の僕は思っています。

 トランペットに限らず、管楽器のアンブシュアって、正解を見つけるのが本当に難しい。おおまかには、「これが正しいフォーム」というのがあるにはあるけれど、そのフォームから遠く外れたアンブシュアで演奏していたって「音が良ければそれでよし」というのもまた真実。それだけ、唇周辺の造形や歯並びなどには個人差があるってことなんだろうね。そして、人によって正解のアンブシュアは全然違って、奏者はトレーニングの中で、自分なりの正解を自分で模索しなければならないってことだ。
 トランペットの練習を続けていて、その自分なりの正解っていうのも、その時のアンブシュアの筋力や柔軟性、ブレスの力などで変わってくるのを実感している。一ヶ月前は成功しなかったアンブシュアが、一ヶ月後に、トレーニングによって柔軟性がアップしたお陰で成功につながったりするのだ。だから、機材も演奏方法も、行きつ戻りつしながら、その時々の正解をさぐりつつ、技術的に向上していくものなんだろう。大事なのは、3歩進んだら2歩下がる勇気をもつことかもしれない。「先月のやり方はダメだったからもう試さない」なんて考え方だと、上達しないだろうね。近頃、そう思う。

 そういうわけで、ひとつのアンブシュアやマウスピースにこだわることなく、つまり方法にこだわりすぎないように気をつけながら、いい音、いい音楽を目指して練習をつづけている。先だっては、ずっと愛用していたBachの5Cがやはり狭いと感じたので、苦手意識のあったヤマハの14Cに戻した。アパチュアの位置も、高音の演奏時にHi-F以上で息漏れをするので、右よりにしていたのをセンターに戻した。演奏のしやすさは、2歩下がった感じだけど、高音での息漏れを防ぐにはやはりこの方がよく、そしてこの半年ほどのトレーニングの成果か、唇が演奏するべき音に対して柔軟に追従してくるようにはなっている。
 この吹き方も、また変えるかもしれないし、変えないかもしれないけど、その都度「これが最善」と思える方法を試しながら上達していこうと思う。何にせよ、こだわりすぎはよくない。中庸が大事。心も体も、柔軟に保ちたい。そして、いつかマイルスみたいな構え方で演奏できるようになりたい(カッコの問題かよ)。