笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

センチュリー3776の実用性

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 万年筆は時々洗浄が必要な筆記具だ。染料インクであれば半年に一度、顔料系インクであれば季節に一度くらいの頻度でペン先を洗わねばならない。
 それ以外にも、詰めるインクの種類を変える時には当然、洗浄を行う必要がある。先だって、ずっと赤系の染料インクを入れていたセーラーのペンに、久しぶりにブルーブラックを飲ませた。もちろん洗ったのだが、色を変えるので、いつもより少し念入りに洗い、それからインクを詰め替えた。
 それからしばらくの間、問題なく使っていたのだけれど、ある日、ペン先の肩のあたりに赤いインクが付着しているのに僕は気づいた。
 あれ? 前の赤いインクが洗い落とせずにまだ残っていたのか。結構しっかり洗ったつもりだったんだけどなあ。まあ筆記は問題なく出来るし、ペン先から吐き出される線はちゃんとブルーブラックだ。でも気になるので、コンバータにはまだ半分くらいブルーブラックが残っていたのだけれど、もう一度洗い直した。
 でブルーブラックを詰め直して、しばらく書いていると・・・あれ、またペン先の肩が赤く汚れている。なんで?
 これはおかしいと思って、ナガサワ文具で診てもらうことにした。
 三宮まで出る用事があった日に、万年筆コーナーでスタッフさんにセーラーを渡し、事情を説明すると、スタッフさんはペンのキャップを開けるなり、「ああこれは、キャップが汚れてますね」と仰った。
 キャップ? キャップが汚れるとかって、あるの? 僕が混乱していると、スタッフさんはレジの奧から綿棒を出してきて先を濡らし、その綿のついた先端をセーラーのキャップに突っ込んでクリクリと回した。しばらくそうしてから綿棒を抜くと、その先端が真っ赤に汚れている。わわわ、びっくりした。こんなことになってたんだ。

 スタッフさんによれば、ペンを持ち運ぶと振動でインクがキャップ内に垂れて付着することがあるらしい。確かに僕は、頻繁にペンを持ち出して喫茶店だの図書館だので使っている。スタッフさんは綿棒の先を変えながらキャップの中を拭いてくれた。すると、四回目くらいで色がつかなくなった。で、そこにペン先を納めて、もう一度抜いてみると・・・赤い汚れはつかない。
 すごい、やっぱり餅は餅屋だ。分からないことは専門家にきいてみるに限る。

 家に帰って、ひょっとしたら他のペンでも同じことが起こっているんじゃないかと疑い、パイロットのペンのキャップを綿棒でクリクリしてみると、おおお、ブルーブラックを入れていたペンは見事に、綿棒の先がブルーブラックに染まる。見えないキャップの中が、こんなことになっていたとは。
 せっかくなので、持っている万年筆の全部のキャップを掃除することにした。綿棒は両端に綿の玉がついているので、二本使うと四回掃除ができ、大体四回目はほとんど色がつかない。そういう風にしてペン一本に対し綿棒二本で掃除をすすめて行った。まずはパイロット、それからセーラー。
 で、最後にプラチナのセンチュリー3776。綿棒を濡らして、クリクリっと・・・あれ、色がつかない。濡らし方が足りなかったか。もう一度しっかり綿棒を湿らせて、クリクリ・・・ん? やっぱり汚れない。
 センチュリーは二本ある。もう一本はどうかと思ってクリクリするが、やっぱり同じ。ということは、センチュリーのキャップは汚れてないって事か? どちらかというと、センチュリーは持ち出し頻度の高い方なので、すごく汚れてるんじゃないかと予想していたのだけど、そうでもないらしい。
 やるな、センチュリー。まさかこんなところにアドバンテージがあったとは。
 プラチナのセンチュリ-、僕の中では「徹頭徹尾、実用性の万年筆」というイメージがある。渋めのフローは、万年筆らしい筆記感には乏しいがインクが長持ちし、裏抜けのリスクも少ない。スリップシール機構の採用で長期間放置してもペン先が乾かない。クリップのデザインはちょっと好みじゃないけれど、十分なホールド力がある。首軸が緩みにくい。などなど。それに加えて、キャップ内でのインク垂れが少ないとなればもう、最強じゃないか。

 もちろん他のメーカーの万年筆にもそれぞれの良さがあるが、とにかく書くために使い倒すことだけを考えるなら、センチュリーは抜きん出ているように感じる。メーカーのホームページを見ると、作家でコレクターだった梅田春夫さんという人と協同開発したんだとか。なるほどね、ヘビーユーザーの意見が反映されている訳だ。納得。

 実は、細字の万年筆はもう何本か持っていて満足しているのだけど、中字のペンについては小ぶりなものを二本持っているだけで、もう一本欲しいなあとずっと思っている。少し太めの軸とペン先で(特別に大きくはなくていい)、実用的なものを。どんなペンにしようか決めきれずにいたのだけど、センチュリーがいいかもしれないね。