笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

ホームの蛇口


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 阪急の西宮北口駅のホームには、水道の蛇口がある。
 ちなみに、梅田駅にもあったと思う。昔からある。そして、なくならない。

 今でも使う人はいるのだろうか。僕は昔、使っていた。小学生の頃だ。まだペットボトルのミネラルウォーターなんて普及していなくて、「カネ出して水買うなんて」という考え方が主流だった。当たり前に蛇口に口をつけて水道水をがぶがぶ飲んでいた。今の衛生感覚からすれば、とんでもない話かもしれないが、当時は当たり前だった。
 僕より一世代上の人にとっては、駅のホームに吸い殻入れがあったり痰壺があったりするのは当たり前の風景だっただろう。僕の世代だと、痰壺はもうなかったけど、吸い殻入れはあった。時代と共に世間の常識もうつろい、世の中の考え方にあわなくなった古いものは姿を消していく。今はもう、吸い殻入れも痰壺もホームにはないのが当たり前だ。

 しかし、蛇口は残っている。なんでだろう? なくす理由がないからなくなっていないのか、残す理由があるから残っているのか。どちらかは分からないけれど、これを見ると無性に懐かしい気持ちになる。上に向けた蛇口から吹き出して、弧を描いて落ちていく水流に唇を浸していた、あの暑かった夏のことを思い出す。