笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

リーバイス505


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 体調不良には、予兆があった。四月の後半から五月にかけて、ものすごい勢いで体重が落ちたのだ。体重は減少を続けて、冬から比べると8kg落ちた。2Lのペットボトル4本分の重さが体から消え失せた。どこに行ったかは知らないけど、どこから逃げていったかは、風呂に入るときに体を鏡に映してみれば一目瞭然だ。20代後半から少しずつ胴回りに付いていった贅肉が全部なくなってしまった。体重は今も減り続けていて、今のところ戻る気配はない。こういう書き方をすると、「なんだ、いいじゃん」なんて言われそうだが、本人はえらく体がしんどいので、ちっともよくない。とても困っている。

 困っているのは体調のことばかりではない。
 去年、ジーンズを買った。リーバイスの505。ウェストは31インチだ。新調した理由は簡単で、中年太りしたからである。買ったときは、もちろんちょうどよかった。ところが今、そのジーンズをはくと、腰回りはガバガバで、拳を縦にいれるだけの余裕がある。ボタンを閉めたまま脱ぎ履きできる。ベルトで腹囲にあわせて締めようとすると、生地がたわみ、それが腰骨にあたって痛い。もう少し細いものを買い直そうか迷っている。
 人生で初めて買ったジーンズも、リーバイスの505だった。中学生の頃だから、もう30年近く前のことになる。母親に連れられていった高架下の店で買ったのをよく覚えている。そのときのウエストは28インチ。それより細いサイズはなかった。多分、今でもないんじゃないかな。そのジーンズは大学に上がってもはいていた。裾が擦り切れて汚らしくなったので膝下をカットオフし、夏の夜の散歩用にしていたっけ。そのカットオフしたジーンズをはいたまま寝たりもした。大学卒業まではいていたけど、社会人がはくにはさすがにみずぼらしいと思って捨ててしまった。
 20代は、色々なジーンズをはいた。僕はジーンズが好きだ。雑誌なんかで「ジーンズは第二の肌」なんて言葉を見たことがあるけど、僕にとっては本当に自分の肌みたいなものだと、今でも思っている。大学に入ってから、結婚して子どもができるまでは、ずっとボタンフライを履いていた。しかし、子どもを背中に乗っけて遊んだりするようになると、うつ伏せにねた時にボタンが腹に突き刺さって痛いので、ジップフライに戻す決意をした。そのときに買った何枚かのうちの一枚が、やっぱりリーバイスの505。ストレッチ生地の30インチだった。
 30インチはまだ履いている。かなり色が落ちてきたけど、まだ十分はける。しかし、これも腹回りがガバガバだ。ストレッチだから少し細めのシルエットなのに、痩せてからこれを着て人に会ったら、「腿のところが、ぶかぶかだね」と言われた。30インチでさえこうなのだから、31インチを履くと、オーバーサイズの服を無理に着ているように見える。505らしくない。505は、できればジャストサイズで履きたいジーンズだ。

 ジーンズの選択は、野暮と洗練のバランスで決める。これが三十年近くジーンズをはき続けた僕なりのセオリーだ。そのバランスは、生地、サイズ、シルエットから成り立っている。ダメージを受けた生地、オーバーサイズ、ルーズなシルエットは野暮にふった着こなしになるし、リジッドに近い生地、ジャストサイズ、体にフィットしたシルエットは洗練された印象になる。
 505は、どちらかといえば洗練されたシルエットといえるだろう。あまりオーバーサイズになると、ちぐはぐな感じになってしまう。だから、ちょうどいいサイズを選んで着たい。
 もし、今の体型に合わせて買い直すなら、29インチ。とはいえ、ある種の病気で痩せているわけだから、また体重がもとに戻る可能性だってある。そうしたら、29インチははけなくなる。うーん、どうしたものかな。若い頃のジーンズがとって置いてあればよかったのだけど、生憎、はけないものをタンスの肥やしにしておくのはスペースの無駄だと思って、捨ててしまった。

 とにかく、体調が早く戻って、体重も少し増えればいいのだけど。