笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

RICOH GRⅢ


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 ちょっといいカメラが欲しい、と僕が思い始めたのは長男が生まれた頃で、その時にはすでに、リコーのGRが選択肢の中にあった。
 当時はまだGRⅢではなくて、GRⅡだった。家電量販店の店頭で「単焦点は画質がいいですよ」と店員から説明されて手に取り、1/2.3型センサーのコンデジとは明らかに違う画質に指先が震えた。これはイイ、と思ったけれど、そのときはレンズ交換式のカメラの方が必要だったので買わなかった。第一、8万円台のコンデジを買う発想も当時の僕にはなかった。
 やがてGRは「Ⅲ」へとアップデートされた。Ⅱのスペックシートを睨みつけながら「もうちょっと高画素だったらなあ。手ぶれ補正がついてたらなあ」と脂汗かきながらつけたケチはすべて解消されていた。カメラというもの相場もすでに覚えていた。あの日GRⅡについていた値札の数字まで価格が落ちたのをきっかけに、僕はGRⅢを買った。

 GRの身上は、コンパクトさと速写性にある。
 レンズ交換式カメラと同程度に設定の融通がきくAPS-C機が、「コンデジ」とためらいなく呼べるサイズに収まっている。驚異的と言うより他にない。そのためにバッテリーサイズや内蔵フラッシュを犠牲にしているのはやむを得ないだろう。そして起動から一秒と待たずに撮影可能となり、シャットダウンと同時にポケットに戻すことができるスピード感。たまらない。
 例えば。
 子どもと出かけるとき、鞄は持たずに、上着のポケットにGRをそっと忍ばせる。公園に着いて遊び始める子どもたち。きゃっきゃと笑いながら駆け回っている。ああ、いい顔してるな。この表情を残しておきたい。GRをポケットから取り出し、こっちに向かって駆けてくる子どもとの距離を目測する。子どもと僕の距離が10メートルのところでGR起動。フルブレススナップは2.5mに設定してある。素早く露出を確かめ、子どもが走り込んでくるルートを予想し、合焦域に被写体が飛び込んできたところでレリーズ。GRをポケットに戻す。以上。これがGRの使い方だ。

 GRにできないことは多い。素早いオートフォーカス。ズームによる画角調整。最近では当たり前になった液晶画面のティルト。それを欠点と呼ぶ人を、僕は非難しない。だって事実できないのだし、それを必要とするフォトグラファーにとってGRは、防湿庫を狭くするでっぱりみたいなものだろうから。しかし、「いつおとずれるかわからないその瞬間を、素早く確実に切り取る」ことだけを考えるなら、僕はGR以上のツールを思いつかない。

 さあ、撮るぞ。光よとどまれ、お前は美しい。