笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

DANTON

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 ここ数年、DANTONのウェアをよく見かけるようになった。菱形の赤いアウトラインの中にアルファベットのロゴ。いいなあ、おシャレだなあ、なんていつも思いながらすれ違う人を眺めている。本当を言うと僕は、あの手のローテク系ウェアが好きだ。しかし、厳寒の公園で子どもを見守ったり、汗ばむくらいのスピードで散歩したりするのには不向きで、近頃の僕はついケミカルファブリックの服を選んでしまう。

 学生の頃は古着屋をハシゴして、何時間も安い服を掘り歩いた。ハードにクリーニングされて色のあせたコットンやネルのシャツ、脂が抜けて表面のひび割れたレザージャケットなんかを持っていたっけ。サラ着(新品の服)を買うこともあったけど、古着とあわせるのが前提だった。当時は横浜に住んでいて、東横線で中目黒まで行き、電車代をけちって原宿まで歩きながら服を探した。「per gramme」という中目黒にあった古着屋がスタート地点で、渋谷のタワレコに立ち寄るのがお約束、そして原宿のユナイテッドアローズがゴール。季節に一度か二度、ひとりで服を掘りに行くのが楽しみだった。今はもう、ああいう量り売りの店はないだろう。流行は移ろうものだ。

 当時気に入っていた服のいくつかは、まだ持っている。もう二十年以上着ていることになるだろうか。古着で買った服のほとんどは、もともとのコンディションも大してよくないので、もうとっくに穴が開いたり端が擦り切れたりして捨ててしまったが、それでももとの生地やつくりがよい服は今でも十分使えて感心する。別にブランドもののユーズドというわけでもないのだけど、いいものは年月の試練に耐えるらしい。
 気に入っている服なのに、その素性を気にしたことは今まであまりなかった。第一、古着はタグがなかったり、あっても印字が薄くなってしまったりして、どんなメーカーのものか分からないことも多い。でも一着、中綿入りのベストがあって、ふと気になり、その真っ白でボロボロのタグに目をこらすと、淡い淡いグレーで菱形のロゴがプリントされているのに気づいた。

 DANTONだ。
 いつどこで買ったのか、全然思い出せないけど、学生の頃に写ルンですで撮った写真の中にこれを着ている僕が写っているから、大学生の時分に買ったのだと思う。古着で買ったのかサラ着で買ったのかも思い出せない。なんだ、僕はDANTONをもう着ていたのか。ちょっと嬉しくなった。
 こういう輸入もののワークウェアは、輸入している会社が取り扱いをやめてしまうと、突然手に入りにくくなる。僕はずっとラブルールのコットンジャケットを愛用しているのだけど、数年前にトアウェストにあった古着屋が閉店してから見かけなくなってしまった。ラブルールは本当に好きで、同じインクブラックのジャケットを四枚も着たが、そろそろ違う服を探さねばならない事態に陥っている。あれは晩秋と初春にちょうどよくて、すごく重宝しているのだ。もう手に入らないのは、すごく悲しい。
 そう考えると、DANTONもそのうち手に入らなくなるかもしれない。今のうちに買っておいた方がいいのかもしれない。そうだ、今着ているラブルールが人前で着られないほど色あせたら、次こそはDANTONを買おう。
 新しいDANTON、楽しみだな。どうか店頭からなくなりませんように。