笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

BALビル


f:id:sekimogura:20211021145147j:image

 

 トアロード沿いに、BALビルと呼ばれる建物がある。シンプルモダンな洋服屋さんとか紅茶の専門店なんかがはいっていて、いい感じ。オシャレなビルだ。
 僕みたいな無粋なオッサンにはあまり縁のない場所だが、無印良品がはいっているので、時々ルーズリーフを買いに来る。先だって、ストックしてあるA4のルーズリーフが減ってきたので、買い足しに来た。ここ半年ぐらい体の具合が悪く、あまり読み書きもしなかったし出かける機会も少なかったから、BALビルの無印に来るのは多分一年ぶりぐらいだ。ここに来るときは、何となく、あまり汚い格好では申し訳ない気がして、少しパリッとした服を着ていく。さえない中年男のファッションなんて誰も気にしないだろうけど、何というか、心持ちの問題である。

 本を書き写したり、子どもに勉強を教えたりするのに使っているA4ルーズリーフと、日記をつけるのに使っているA5のルーズリーフのリフィル、それとアルミの定規を一本買った。アルミの定規の話しはまた今度。

 無印の入っているBALビルの上階は、僕が若かった頃、ハイブランド洋服屋さんがテナントとして入っていた。
 中学高校を鬼滅隊みたいな詰め襟で過ごした僕は、卒業後に洋服を選ぶ楽しさに目覚めた。その頃は神戸じゅうの服屋さんをめぐったものだが、もちろんBALビルにも頻繁にやってきて、その度にプライスタグに追い返されていた。布きれ一枚、なんであんなに高いんだろうなあとうめきながら、鼻息荒く上ったエスカレーターをうつむいて下ったものだ。そして、そのまま一階でエスカレーターを降りてBALビルにサヨナラすればいいのだけど、僕はよく、ついうっかりそのまま地下に降りることがあった。当時、地下はバージンレコードで、服が買えなかった腹いせに僕は、よくCDを買って帰ったものだ。そんなことしてるから服を買えないのだけど。

 BALビルで売っている洋服は僕には手が届かなくて、ここでは一枚も買わなかったけど、あの頃は人生で一番服を買った。失敗もたくさんしたけど、楽しかった。そして、二十歳ぐらいの時に買った服は、僕の体重増加とともに僕の体にボディコンフィットしすぎるようになり、息苦しくなって捨ててしまった。
 それでも、気に入っていた何枚かは、着れもしないのに捨てずに残していた。で、この春に急激な体重減少に見舞われた僕は期せずして二十歳頃の体型に戻り、なぜか今頃になって二十年以上前に買った服がゆったり着られるようになった。人生はわからない。

 面白いもので、中年になっても体型さえ同じなら、若造の頃に買った服を着てもあまり違和感がない。古着屋で掘り当てた謎ブランドのデニム製Pコートやサラ着で買ったメルトンのジャケット・・・安物もあればそれなりのものもあり、玉石混淆だが、問題なく着られる。楽しい。
 子どもができて、自分が着る洋服なんてユニクロで十分いやジューブン以上、と思うようになって久しい。でもやっぱり、ちょっと特徴があったり自分らしいと思えたりする服を着ると、なんだか気分がアガる。嬉しいものだ。
 ここ最近、新しい服は買っていない。けど、たまにはユニクロ以外のお店で服を買ってもいいな。痩せたくて痩せたわけではないけど、せっかく痩せたのだから、この状況をちょっと楽しんでみたっていい。BALビルで売っている服には相変わらず手が出ないけど、何年かぶりに気張らしのために服を買いに行こうかな。そしたら少しは気分も晴れて、体調もよくなるかもしれない。
 うん、きっとそうだ。そうしよう。