笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

ヤナギサワ AWO1(ライトモデル)

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 慢性疲労症候群のリハビリのために、中学校の吹奏楽部を教えるお手伝いをしている。
 お手伝いをすると、お給料がいただける。その、いただいたお礼がそれなりにまとまった額になった。なので、かねてからの念願であったアルトサックスを手に入れることにした。吹奏楽のお手伝いで頂いたお金は基本、中学生に還元できるようなことに使うことにしている。アルトサックス、ほしかったんだよねー。テナーは持っているけど、Bb⇔Ebの読み替えが面倒なのと、音域的にかぶらないのとで、アルトの子を教えるのには非常に使いにくかった。当たり前だが、どこの中学校に行ってもアルトサックスの子はいる。今まではテナーで教えるのに我慢してもらっていたけど、アルトを手に入れればその必要もなくなるわけだ。

 ヤマハのYAS-62を以前使っていたので、同じでいいや、と思いながらお店に足を運んだ。昨年度一年で貯金した中学校からのお給料がちょうどそれぐらいの額だったし、慣れているはずの楽器だから即戦力で使えるだろう、という目論み。僕が使っていたのはG1ネックになる直前のモデル。そこからG1ネックモデルを経て、現在は62ネックという専用設計のネックが付属するようだ。多分、大きな設計変更はなくて、吹き心地とイントネーションを改善するためのモディファイのようだから、より使いやすくなってるんだろうなあ。楽しみ、楽しみ。
 で、お店について「YAS-62下さい」とお願いした。すると、店頭在庫がなく、納品までに少し時間がかかると返事がかえってきた。そっか、いいよいいよ、待ってるから。なるべく早く欲しかったけど、普通のラッカーのレギュラーYAS-62ならそんなに時間もかからないでしょ。
 あー、でもなー、YCL-255の時は3ヶ月ぐらい待ったっけ。あの時、すぐに手に入ると思って注文したら、えらく待たされたんだった。もし同じくらい待たされるとすると、うーん、それはちょっと長すぎるよな。どうしよう、と気持ちが揺れた。

 悩みながら、注文伝票にほとんどサインしかかった時、そういえば同じくらいの価格帯・グレードの楽器で、ヤナギサワのライト仕様という選択肢があると、ふと思いついた。で、お店の人に尋ねてみると、なんと在庫があるという。しかもブロンズとブラスの両方! 「吹いてみますか?」と仰ってくださったので、お言葉に甘えて試奏させて頂くことにした。

 まずはブロンズ製のA-WO2。ヤナギサワといえば、ブロンズだよね。僕が知っているヤナギサワは旧モデルの9○2だけど、ブラッシュアップされてWO(ダブル・オー)というモデルになったようだ。そして、ブロンズは吹いたことがない。お初のブロンズ製アルト、さてどうだろうか。・・・いいね、ブロンズ特有の「じーん」っていう響きがする。これ、なんて言えばいい? トロンボーンの赤ベルなんかもそうだけど、銅の含有量が多い楽器って、独特の倍音を持っているよね。ただ、うーん、これが好きかって言われると、僕の場合は、サックスには合わない気がして、好みじゃない。クラシックだけならこういうのもいいだろうけど、ジャズやポピュラーもやる立場としては、なんか違うかな。それに、抵抗感が強い。僕にとってはちょっと、吹きにくい楽器だった。

 続いて、標準的なブラス製のA-WO1。・・・これ、いい! めっちゃ吹きやすいな! 最低音のBb(実音Db)から最高音のF#(実音A)まで、均一に、ストレスなく鳴る。なんだこれ、とても新品とは思えない。キィアクションにもムラがなく、サラサラと指が動く。特にテーブルキィのアクションがいい。昔の楽器だと、新品を吹くと、テーブルキィを「えいやっ、」と操作しなければいけないイメージだったが、このA-WO1のテーブルキィはヌルヌル動く。ヌルヌルって、万年筆の書き心地の褒め言葉なのだけど、つまり、キィの重さによるモーメントの大きさをほとんど感じず、キィアクションのストレスもなく、素直に操作できる感覚なのだ。気密不良による吹き心地の悪化もない。すげえな、A-WO1。

 よし、A-WO1、キミに決めた。
 直前まで完全にYAS-62を買うつもりでいたが、その計画を白紙にし、ヤナギサワに変更した。ヤマハとヤナギサワでは、定価にほとんど差がないのだけど、割引率の違いで、ヤナギサワの方が少しお手頃になる。経済的な負担の点でも問題なし。いやむしろ、メタルのサムフックとサムレスト、それにエボナイトのマウスピースまで標準装備されていることを考えると、ヤナギサワはずいぶんお買い得かもしれない。
 もちろん、細かな仕様を比較するとA-WO1には「値段なり」な部分もある。しかし、ストックの状態で僕に必要な性能を十分に満たしていると考えれば、気にはならない。特にマウスピースは、ヤマハだと付属品がフェノール樹脂製の4Cとなるわけだがこれは、僕が使うにはちょっと貧弱すぎる。そのために、例えばクラシック向けにエボナイトのマウスピースを一本追加するとなると、最低でも2万円近い追い金が必要だ。あと、サムフックとサムレストも後から金属製のものに換装するとなると、もちろんさらにお金がかかるわけで、その費用まで考えると、YAS-62とA-WO1の価格差はどんどん開いていく。
 そういうわけで、総合的に考えて、ヤナギサワには不満がないばかりか、僕にとってはメリットの大きい選択肢だということが実感できたので、即決で購入しました。

 手元にやってきたA-WO1をしばらく吹いてみて、うん、やはり大きな不満はない。とてもいい楽器だ。試奏でも感じたことだが、とにかく吹きやすい。音程的なイントネーションがいいし、全音域にわたってムラなくよく鳴る。音の遠達性という点ではもうひと伸びほしいとか、吹き込んだときのフォルテ側の限界値がちと低いとか、そういうのを感じないわけじゃないけど、その性能が必要ならA-WO1あと2本分を追加で課金してセルマーのシュプレームを買えばよかっただけのこと(もちろん、そんな金はない)。A-WO1は価格に比して十分な性能を備えているし、僕の演奏環境では、これで何の問題もない。むしろ、気軽に使える分、こっちの方がいいくらいだ。
 マウスピースもいい。僕の方がオープニングの狭いマウスピースに慣れていないせいで、リードミスをおこしたりはするけど、木管らしいやわらかな鳴りはいかにもクラシック向きだ。そうそう、この手のマウスピースがひとつ、欲しかったんだよねー。テナー用も買おうかな。

 楽器はこれでよし。後は、奏者の問題だ。
 操作系はテナーもアルトも同じだが、入れる息のスピードやアンブシュアにかける力加減には多少の違いがある。アルトはアルトでちゃんと慣れないと、まともに吹けない。そして、慣れるためにはやはり、多少時間をかけてトレーニングする必要がある。現時点で三ヶ月ほど吹いたが、まだ不十分だな。リードミスをしたり音を外したりしてしまう。テナーではそんなことはないから、練習が足りないのだ。
 でも、十数年ぶりのアルト、とても楽しい。慢性疲労症候群のリハビリがてら、少しずつ慣れていこう。まずは、中学生と一緒に吹いて恥ずかしくない程度にまで技術を戻したいな。頑張ろうっと。