笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

吹奏楽部の我が子に買ってあげるべき楽器は、結局、なに?

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 先だって、近所の高校生に貸していたトランペットをお願いして返してもらった。トランペットも近頃は安くない。以前は、30万も出さないでも相当いいグレードのものが買えた記憶があるけれど、今ではバックなんて50万前後だ。中々気軽に買えるものではない。
 それでも、フルート、トランペット、クラリネットあたりは、個人所有率の高い楽器だろう。あと、サックスとトロンボーンもかな。フルートなんて、三年生に限って言えば中学生でも半分以上は個人持ちの印象がある。高校だと、ほとんど個人所有の楽器なんじゃないだろうか。
 まあ、この辺りの人気のある楽器は、廉価なグレードが充実してるしね・・・なんて考えは、甘い。みんな、結構いい楽器使ってる。特に高校生なんかは、中級機以上のグレードの楽器を使ってる子が多い。ひゃー。
 もちろん、楽器のグレードが上がれば、値段もあがる。学生の彼らには稼ぎがないのだから、支払いは当然、ご家族だ。きっと、財布の中身と子どもの熱意を天秤にかけながら、値札とのにらめっこを繰り返したに違いない。「中学生に、こんな高価な楽器が本当に必要なのか?」とか、「うちの子は『これでいい』って言うけど、本当にこの楽器で満足できるのか?」とか・・・。ご家族に管楽器経験者がいれば、今の我が子に最適な楽器が何なのかということについては、適切な判断ができるだろう。でも、音楽の経験がない、もしあっても管楽器のことは詳しくない、という保護者にとっては、悩ましい問題のはずだ。

 僕も時々相談をうける。一番よくあるパターンが、例えば中学生やその家族から、「高校生まで使える(一生使える、と仰る方もいる)楽器が買いたいのだけど、何がいい?」という質問。
 これね・・・本当に困る。何が正解なのかは、場合によるからだ。
 まずね、この質問には保護者の、「いい楽器をプレゼントしたいけど(子どもの願いを叶えたい)、あまり高いのは困る(楽器だけにお金をかけられない)」という迷いが透けている。いや、よく分かりますよ、僕もお金持ちじゃありませんから。しかしね、「そんなあなたには、コレ!」みたいな都合のいい楽器は、残念ながら、存在しない。
 楽器って、買って使ってみなきゃ分からないってところがあって、「これが絶対いい」と思って手に入れてみても、実戦投入してみると「なんか違う・・・」ってなることが、時々ある。だから、子どもが言ったままに買えばそれでいいかっていうと、それも違うし、人に勧められた通りにすれば、たとえそれがプロの意見だったとしても、絶対にその子にフィットした選択になるとは限らないからだ。

 しかし、状況をある程度固定すれば、参考意見ぐらいは言える。それを書いてみよう、っていうのが、今回の記事である。
 では、僕の意見を言うに当たってまず、前提を決めておこう。相談者は中学二年生の保護者。パートはアルトサックス。生徒は吹奏楽が大好きで、高校でも続けたいと言っている。そして、できればマイ楽器が欲しいとおねだりされていて、購入条件だった期末テストの点数もボーダーをクリアされ、これはもう買うしかないと追い込まれた状況。子どもの演奏技術は、熱心に練習するのでそれなりに高い。なので、もし高校に進学して吹奏楽に入ったら、多分、中学と同じアルトサックスを任せてもらえると思われる・・・。
 さて、この条件で、保護者はどうすればいいのか。

 もしあなたが、大変に裕福で「100万円なんてはした金だぜ」ということであれば、セルマーのシュプレームでもヤナギサワのシルバーソニックでも、何でも買ってあげればよろしい。最高の楽器は最高の演奏体験を約束してくれることだろう。子どももあなたも大満足。めでたし、めでたし。万が一、買ってはみたものの満足できなかったら、バンバン買い換えればいい。先に買った楽器が不要なら、下取りにも出せる。コンディションさえよければ、それなりの値段で引き取ってくれるだろう。高級機を買ってはみたものの、吹き比べてみたら中級機の方が扱いやすかったってことになれば、おつりは来ないだろうけど、わずかな追い金で決着できることもあるに違いない。色々試してみて、試すことを楽しめばよく、その楽しみのためにお金を使っているだと考えてもらえればいいんじゃないかな。

 しかし、「約束した以上は買うけれど、正直、おサイフ事情的に厳しい」のであれば、ヤマハのYAS-280、一択だ。この楽器が、演奏性能・耐久性の最低ラインを満たした上で、最もイニシャルコストの低い選択肢となると僕は思う。ランニングコスト的にメリットがあることも約束しよう。この楽器を、ちゃんとしたリペアマンがいる楽器屋さんで買う。廉価に扱っているショップもあるが、もしそのお店が、修理が必要になったときに丁寧に対応してもらえないようなところなら、数千円の差額に釣られないでほしい。あと、中古も避けてほしい。ユーズド品を楽器購入初心者が選ぶのは、ちとリスクが高い。つかまされる可能性は否定できない。愛する子どものための大事な最初の1本、せっかくだから新品を買ってあげて。

 さて問題は、あなたが「できるだけ安くあげられるに越したことはないが、子どもに『これが欲しかったんじゃない』とは言わせないぐらいのものを買ってやりたい」という、楽器に多少お金をかけてはあげられるけれど、コスパよくいきたい、というパターンの場合だ。
 まず、あなたのお子さんは、どんな高校に進学するのだろうか? もし、確実に吹奏楽の強豪校に行くなら、最低でもヤマハのカスタムクラス(YAS-875EX)か、ヤナギサワのヘビーモデルがいいだろう。もう少し出してもいい、ということならセルマーが選択肢に入るだろうか。これがいい、というか、学校側から、それとなく、それぐらいのグレードを要求されると思う。逆に、万年地区大会銀賞とか、そもそもコンクールに出てない、みたいな学校だったら、ヤマハのYAS-480とかヤナギサワのライトモデルとかぐらいの、中級機が丁度いいんじゃないかな。いろんな意味でストレスフリー。価格帯としては20~40万。気に入りさえすれば、台湾製のオシャレな楽器でもいいだろう。そういうバンドなら、多少ハデな音をさせていても、文句はでるまい。むしろ、個性として面白がってもらえるんじゃないかな。知らんけど。
 しかし、「成績もほどほどだし、行きたい学校に行けるかどうか分からんし、どんな高校に進学するかは、何とも言えん」というケースもあるだろう。であれば、最初の楽器はYAS-280みたいな入門機にして出費を抑え、高校に上がってから買い直すのがいいように思う。ちなみに、入門機は下取りに出しても大した額にならない。これもコンディションによるが、「新しいし、キレイなのに、こんなもんなの?」みたいな値段しかつかないということも考えられる。だからこの、後で買い直すという作戦でいく場合には、最初に買った入門機をサブ楽器として手元においておくのを僕は勧める。すると、おおっ、夢の二本体制! うちの子はプロか!? みたいなことができるしね。

 ちなみに、「こっちの事情のことは気にせんでいいから、お前の思った通りのオススメを言ってみろ」ってことであれば、最初の一本は廉価な入門機にしておいて、高校にあがった時点でその高校のレベルにあった楽器を買い直すのが一番いいと思う。
 サブ楽器って、すごくメリットがあるんですよ。
 自分の楽器が2本あるって事は、メインで使っている楽器にトラブルがあった時に、信用できる使い慣れたサブ楽器にすぐに切り替えができるっていることなんだよね。これって、すごく安心感がある。いいでしょ?
 それ以外にも、サブ楽器は色々な使い方ができる。大きな本番に備えてメイン楽器をメンテナンスに出している間の代替機に、サブ楽器。メイン楽器を使いたくない屋外での演奏活動に、サブ楽器。学校にはメイン機を置きっぱなしにおいて、自宅練習には、サブ機。ね、いいでしょ?
 サブ楽器を入門機にするのにも、理由がある。入門機って、とにかく吹きやすく設計されているので、普段は別の楽器を吹いていても、パッと持ち替えてすぐにポンと吹ける。もちろん、性能的にはほどほどなので、ホールでの音の飛び方とか音色のリッチさという点では劣るけどね。そして、安いから、ハードな環境(炎天下でやる野球の応援とか、砂まみれになる運動場でのマーチングとか、ボールが飛んでくるかもしれない公園での練習とか)で使っても気兼ねがない。ね、ね、いいでしょ?

 ところで、ひとつだけ気をつけて欲しいことがある。3大メーカー(セルマー・ヤナギサワ・ヤマハ)以外の楽器を選ぶのであれば、その楽器が、
①販売店や修理工房で、確実にリペアを受けられる楽器か?
②合奏に使える性能(ピッチ、イントネーション、剛性)を有する楽器か?
ということだけは、よく確かめてほしい。世の中には、「サックスっぽい何か」がサックスとして売られていることもある。気をつけて。
 まあ、3大メーカーであっても、中古で買うとコンディションの悪いモノもあるから、そこは要注意だけど。最近はけっこう偽物が出回っているというし。「ビンテージの名機」も、色々な意味で時々怪しい。こちらも、気をつけて。部活で使うなら、現行機がいいよ。

 と、色々書いてみたのだけど、ここまで意見をしておいて何だが、やっぱり正解はないなあと思う。サブ機があるといいよ、とは言ってみたものの、サックスならそれでいいが、じゃあチューバだったらサブ機買える? なんて考えると、僕は腕組みして首をかしげてしまう。金額的にも、保管場所的にも、厳しいよなあ。他にも、サブ機を買う金があるなら、メイン機1本に絞って課金して、もっといいの買うって意見もあるだろうし。あーもう、何も言えねえ。だから・・・
 ま、好きなの買いなよ(笑)。

 ああでも、これが結局正解なのかなあ。好きなのを買う(予算の範囲内で)。「これが気に入った!」っていう楽器なら、多少性能的に不足でも、問題ないと感じられるんだよね、きっと。これってもはや愛。そして、愛に答えはない。うん、そういうことだ。
 昔、強豪校に進学した子の親から、ヤマハのスタンダードクラスのトランペットをサプライズっぽくプレゼントしたら子どもに暗い顔された、って話を聞いたことがある。この話の問題点って、スタンダードクラスの楽器が強豪校のレベルにあわないってことじゃなくて、その子がその楽器に納得してない、ってことだと思うんだよね。
 プレゼントしてもらっておいて、何を贅沢な、というご意見もあるだろうけど、それは納得感とは別の問題。逆に言えば、納得感があれば、どんな楽器だっていいんだよ、きっと。その子は、親と一緒に楽器屋さんに行って、予算を分かった上で、自分からスタンダードのトランペットを選んだのであれば、全然気にしなかっただろう。でも、自分の意見を聞かれることなく、一方的に、学校のレベルに会わない楽器を渡されたことに、納得がいかなかったんじゃないかな。僕はそう推察する。そして、その子の気持ちが、よく分かる。
 楽器を欲しがる子の親には、楽器とケーキは違うってことを、よく知っておいてあげてほしいな、と僕は願う。ケーキは、多少好みとは違っても、食べてしまえば消えてなくなる。でも、楽器って長く付き合うもの。一生の付き合いになる可能性だってある。その長い付き合いの中で、最終的には納得感が育つこともあるだろうけど、その楽器との出会いをいいものにしたいのだったら、自分でよーく考えて、決意をもって選んだものがいいに決まってる。
 だから、家族でよく相談した上で、その子が「キミに決めた!」って手に取ったものを買ってあげるのが、一番いいんじゃない? 楽器選びは、相棒選び。それを決められるのは、結局、本人だけだからね。