笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

黒本はバイブルである。

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 ジャズのスタンダード集はいくつかあるが、2024年現在、おそらく最も広く使われているのはリットー・ミュージックから刊行されている「ジャズ・スタンダード・バイブル(納浩一 編・著)」ではなかろうか。「ジャズ・スタンダード集」のようなキーワードでAmazon検索すると上位にヒットするし、楽譜を取り扱っているお店の書棚でもよく見かける。
 表紙の色が黒いので、通称・黒本と呼ばれている。それ以前には、real bookだとか、全音の「スタンダードジャズのすべて」などがよく使われていたようだ。全音のものは、上下巻に別れており、それぞれの表紙の色で赤本・青本と呼ばれているらしい。
 僕は、この赤本・青本および、黒本のin Cとin Bbをすでに持っているが、先日、黒本のin Ebを買い足した。アルトサックスの調でスタンダードを練習できるようにするためだ。他の黒本を自分で移調してもよかったのだけど、そして、そういう練習も役に立つのだろうけれど、その作業と能力の獲得には時間がかかるし、今の僕の能力の限界を超えている。227曲のスタンダードナンバーを移調するのにかかる時間が、3500円+taxのペイで省略できるのなら、お買い得だと考えた。

 アルトサックスで吹きたいスタンダード・・・やはり、パーカーのが多いだろうか。つまり、「Ornithorogy」とか「Confirmation」とか。あと、デスモンドの「Take Five」もアルトのキー(in Eb)がしっくりくる。この曲は他の楽器だと、それなりに難しい(in Cでbが6コ)。できんことないけど、やりやすくはないな。
 黒本には、黒本・2もあって、それはin Cだけ持っている。通常の黒本・1よりは、ほんのちょっとマニアックな選曲になっていて、でもよく知られた曲ばかりだから、メインで使う楽器のキーのものは持っていて損はないだろう。「As Time Goes By」とか「Five Spot after Dark」とか・・・黒本・1に入りきらなかったものを集めました、って感じかなあ。知らんけど。
 黒本を赤本・青本と比較すると、僕の印象にすぎないが、全音の方がコード割りが細かい傾向にあるかなあ。個人的には、譜面がうるさくなりすぎない方が好きなので、黒本の方が好みだ。コードのつながりも読み取りやすい。
 ただ、赤本・青本にもアドバンテージがあって、それは曲数が多いのと、歌詞が書いてあること。楽器で演奏するにしても、音符に対するシラブルの割り当てを知りたい時というのは時々あって、テーマのフェイクを考える時には参考になる。

 しかし・・・管楽器奏者としてはやっぱり、黒本が使いやすい。
 先ほども書いたが、コードのつながりが読み取りやすい。これは、特にアドリブを考える上では重要だ。○maj7ならトニックかサブトミ、○7ならドミナント(時々セカンダリドミナント。あるいはペンタトニックの要求)みたいに、コード機能と表記がある程度一致していた方がアドリブはやりやすい。逆に、コードはトニックだけどロディが9thみたいなのを丁寧にコードに織り込んで表現していると、ちょっと混乱する。黒本はそのあたりが、ほどよくテキトーなので、いい。どうせ、そのあたりのことは、譜面を2、3秒眺めれば分かることだし。
 あと、紙質がいいことと、印刷が大きいことも、黒本の美点だ。
 明るいところでゆっくり読むなら、目の粗い紙質に小さくプリントしてあっても問題はない。しかし、薄暗い場所で素早く音符やコードを読み取らなければならないような場合に譜面が、明るい白色の紙に大きくくっきり印刷してあることはとても重要である。紙質がマットなのもいい。さっきとは反対に、屋外などで直射日光をうけるようなステージでは、光沢紙だと反射してしまって読みづらい。また、こういうシチュエーションでも、紙の色合いと印字のコントラストがはっきりしているのは有り難い。そして、それなりに斤量のある紙がつかわれていてページが破れにくいのも助かる。さらに言うと、黒本の紙は変色もしにくい。最初に買ったin Cの譜面はもう10年以上使っているけど、変色も劣化もページ破れもない。素敵。
 そして、さらにさらに。黒本のページは、鉛筆での書き込みが容易で、しかも書き込みとプリントの区別がしやすい。ホントにね、もう、黒本最強。
 徹頭徹尾、実用的なスタンダード集である黒本、まさにバイブルである。

 ただ、「じゃあもう、黒本しか使わないんだ?」ってことかというと、そうでもなくて、やはり赤本・青本も使う。辞書的に使うよね。やはりさっきも書いたが、歌詞が知りたい時には赤本・青本をひらく。あと、黒本にない曲の楽譜を探す時。カバーしているレパートリーに差があるので、補い合わせるようにして使うと便利だ。
 この赤本・青本は、全音の「プロフェッショナルユース」のシリーズで、ジャズだけではなく、ラテン・ミュージックや歌謡曲のシリーズもある。以前、ピアソラの「Libertango」を演奏することになった時、ジャズ系の手持ちの楽譜にはなくて、全音のラテン曲集を利用した。ポップスの全集も持っていて、吹奏楽部でポップスを演奏する機会があると、下勉強するのに使っている。スコアがコンデンスドだったりすると、メロディもコードも読み取りにくい場合があるので、そういう時はリードシートの方が曲をつかみやすい。便利だ。

 全音の「プロフェッショナルユース」シリーズは役に立つ。けど「あればいいのに」と思うのが、クリスマスソング集である。山下達郎のアノ曲とか、広瀬香美のアノ曲とか、マライア・キャリーのアノ曲を集めた分冊みたいなのがあるといいなあと、冬になる度に思うのだけど、なぜか存在しない。クリスマスソング集ってさ、ピアノ用とか独奏+ピアノ伴奏用とかってあるんだけど、リードシートを集めた本ってないよね。あと、アニソン集も。需要はあると予想するのだけど、なぜだろう。権利の問題だろうか。
 そうそう、権利の問題と言えば、話はジャズにもどるのだけど、「Misty」って絶対収録されてないよね。あれって、詳しいことは知らないのだけど、著作権の問題らしい。著作権はミュージシャンの権利と収入を守る上で大切なものだから、ないがしろにしてはいけないけど、「Misty」の譜面はほしいなあ。キレイな曲だし。

 体の調子が戻ったら、ジャムセッションも行ってみたいよね。何度か行ったことあるけど、とても緊張する。でも、それがいい。黒本でさらっとこうっと。