笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

クラリネットについて思うこと。

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 年末年始を、クラリネットの練習をして過ごしている。
 いつまでも暖かい2023年だったが、12月の中頃を境に冷え込むようになった。こうなると、屋外で楽器を吹くのは楽ではない。日の高いうちは自宅で吹いたり、車で人気のないところへ出かけていき、その車内で練習したりしている。
 先だって、車の中でクラリネットを吹いていたら、対向車線を走ってきた車が隣で停車し、ドライバーの年配の女性が僕のほうをのぞき込んできた。こちらを向いて何かを話しかけてくるので外に出てみたら、関空へ行くシャトル便の乗り場はどこかと道を尋ねられた。
 いやあ・・・別に、教えるけどさあ・・・車の中で、気持ちよーく「My Little Suede Shoes」をクラリネットで吹いている僕に訊かなくてもいいんじゃない? コンビニとかガソスタとか、そういうところで訊けるでしょ? なんで、僕に訊いた? 僕には「人に道を訊かれがち」という特異体質があるのだけど、近頃ちょっと、才能を発揮しすぎているな。できれば、もう少し抑えたいと考えている。あまり成功してないけど。

 それはともかく。

 クラリネットで、オールドファッションなジャズスタンダードを吹くのは本当に気持ちがいい。名曲は何で吹いても気持ちいいけど、むかし小唄と呼ばれたようなテイストの曲にはクラリネットの音色がよく似合う。あえてビブラートをかけるのも、よい。音を揺らしながらボソボソ吹くと、SP盤みたいな音になる。
 少し前に、ジャズの花形楽器といえばサックスで・・・みたいなことを書いたが、クラリネットはどうだろう? もちろんジャズクラリネットといえば、ベニー・グッドマンがレジェンドだ。現代の日本では北村英治さんが有名だろうか。なので、クラリネットはフルートとならんで、ジャズ世界の一隅にひとつのジャンルを築いていると言える。だが、どメジャーな楽器かと言われると、やはり、サックスプレイヤーが持ち替えで使うイメージが強いように思う。そういう意味では、クラリネットとフルートはよく似ているかもしれない。

 クラリネットはまた、フルートと同様、広い音域をもつ。特に低音側にひろい。高音もかなり高いところまで出せて、ヤマハの楽器についてくる運指表には3オクターブ以上の音域がプリントされている。閉管の共鳴構造をもつクラリネットのアドバンテージは、ここにあると言っても過言ではないだろう。そして、閉管の共鳴構造と、シングルリードという発音形式によって得られる独特の音色も魅力だ。友人のクラリネット奏者の多くが、「どうしてクラリネットを選び、今も吹き続けているのか」という質問に対して「クラリネットの音色が好きだから」「この音色が、他の楽器では出せないから」と応える。クラリネットの音響は、個性豊かな管楽器群の中でも、特別に特徴的であるということに、僕も同意する。
 ジャズバンドにおいて、クラリネットがサックスほど一般的でないのは、音量がさほど出ないというのが原因だと僕は思っている。別に、クラリネットの音量が小さいわけではない。サックスが圧倒的に大音量なだけだ。その大音量のためにオーケストラでの使用が一般化しなかったサックスだが、その代わりに、同じシングルリードであるクラリネットは穏やかな音色と適度な音量によってオーケストラに溶け込んでいる。
 作曲家たちはクラリネットのために素晴らしい旋律をたくさん残している。19世紀はヴィルトゥオーゾの時代なのに、作曲家がクラリネットに与えた使命は、超絶技巧というより美しい音色でメロディを歌うことであるように僕は思う。もちろん、技巧的なフレーズもあるけれど、それよりはメロディ。そして、クラリネットという楽器は、作曲家達の要望によく応えていると感じる。
 もちろん、クラリネットで技巧的な演奏ができないわけではない。フルートやサックスに比べると多少不器用だが、十分な運動性能を備えていると言えるだろう。
 ただ、木管リード楽器の難点として、ダブルタンギングが難しいという点を挙げることができると思うのだけど、クラリネットでもやはりダブルタンギングのハードルは高いので、ダブルかシングルかを問わず、高速でスタッカートを繰り出すような演奏は困難だ。アタックしてから音が立ち上がってきて音の芯が見えるまでの時間が、他の楽器に比べて長い、というのも高速タンギングを難しくしている原因のひとつかもしれない。これはなかなか難しい問題で、アタック時の息の流速をあげると、クラリネットらしい柔らかな音色を得るのが難しくなるし、かといって発音が柔らかすぎると音の芯が間に合わない。奏者のスキルが問われる奏法のひとつだ。

 まあ、僕はまだ、タンギングの精度だとかスピードだとかなんてことを問題にするほどのレベルには達していない。先々、確実に問題になってくることではあるけれど、今は普通のシングルタンギングがキレイにできることを目指している。
 しかしなー、シングルも結構難しいよ。強くアタックすると硬すぎてクラリネットらしくないし、柔らかすぎると「後押し」のようなニュアンスになってしまう。どのくらいの強さでバランスさせるか・・・研究のしどころだろう。ソプラノサックスでのハードプレイのような硬さから、弦楽器のローポジションでのドルチェのような柔らかさまで、幅広く表現できて、それを自由にコントロールできるってところまで上達できたら一人前かな。研究、研究。
 で、練習しているとリードがだんだんへたってくる。テナーサックスよりずいぶん早くへたる気がするぞ。木管楽器ケーンのリードは概して、小さいものほどヘタリが早い。連続的に吹いていると、クラリネットの場合は30分程度が限界だろうか。寿命も短いように感じる。今はバンドレンの青箱(Traditional)を使っているが、そろそろちゃんとした樹脂リードに移行したいなあ。クラリネット本体を手にれた時に、ヤマハのシンセティックリードも買ったのだけど、高音域が異常にぶら下がるという現象に悩まされて使わなくなった。やはり実績のある樹脂リード・・・レジェールなどを手に入れるべきだな。シンセティックリードは、ヤマハが謳う通り、ビギナーが「とりあえず、ちゃんと音の出るリード」を手に入れるのには安心だが、長く使うものではないのかもね。しかし、練習こそ樹脂リードなんじゃないの? ・・・レジェール、買うか。クラリネット用のレジェール、シグネチャーとは別に、ヨーロピアンカットというのがあるようだ。どう違うんだろう。今度選びに行こうっと。

 どこで披露するわけでもない、僕のクラリネット。A管があればオケに持っていくのだけど、それを買うお金はありません。Bb管だけでお腹はいっぱい、サイフはからっぽ。のんびり楽しく練習します。