笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

楽器の、ラッカー塗装。

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 トランペットの練習を続けている。使っているのは10年以上前に買ったヤマハYTR-1335だ。コンディションはとてもいい。酷使したことがないのもあるかもしれないが、それでも4、5年は使用しているのに、ラッカー剥がれはなく、ピストンの動作もスムーズだ。近頃は、Hi-Dあたりまでの音域が安定して演奏できるようになってきた。それ以上の高音はまだ発音自体が難しいけど、順調に上達しているように思う。成長サイクルのレールにのった感じがして、嬉しい。

 ところで僕は、そのトランペットとほぼ同じ時期にテナーサックスを購入している。セルマーのセリエⅡだ。ブランクの期間はあるものの、こちらはトランペットよりはずっと使い込んでいる。そのせいか近頃、ラッカーの剥落がひどい。スプリングのヘタリも感じるので、そろそろ本当に、オーバーホールを考えた方がいい気がしている。
 楽器のオーバーホールをするとなると、同時にラッカーの再塗装やメッキのかけ直しをするかどうかを検討することができる。別にラッカーなんか剥がれていたっていい、その方がむしろ軽くヌケた音がしていい、ということならそのままでよいが、ラッカーというのは見た目の美しさだけでなく、音響や寿命に影響するので、音色の締まりや遠達性を優先したり、長く愛用したりすることを考えるならば、リラッカー(ラッカーの再塗装)も視野に入れるべきだろう。

 さーて、僕はどうしようかな。
 もし僕がサックス奏者として、クラシックだけを演奏するのならば、確実にリラッカーするだろう。傾向として、ブラスの無垢(ノーラッカー)の楽器はそば鳴りである。これは一般的に言われていることだし、僕自身もそのように感じる。クラシックをやるなら、絶対に音の遠達性は高い方がいい。しかし、ジャズを含むポピュラーの分野ではやはり、ラッカーを薄く掛けた楽器や、ノーラッカーのものが好まれる傾向にあるもまた間違いなくて、どちらかといえばポピュラーミュージックをサックスで奏でることの多い僕としては、むしろこのまま剥がれるにまかせた方がよいような気もしている。その方が、息に対する反応がいい。
 リラッカーには、お金もかかる。オーバーホールの費用とあわせると、安いアルトサックスが新品で買えるくらいの料金になる。また、工期も長い。半月から一ヶ月ぐらいはみておかなくてはいけないし、混み合っていればもう少しかかる場合もあるようだ。だから、コトは慎重に運ばねばならなない。やり直そうとすると、もう一度オーバーホールをしなければならないことになる。
 うーん、悩むなあ。
 まあ、先立つモノを用意する必要もあるので、オーバーホールは少なくとも来年以降だ。今年は点検と調整・注油で済ませるつもりでいる。スプリングの調子に納得がいかなかったら、G#キィの周囲だけでもスプリング交換するかもしれないけど、タンポはまだもうちょっと使えそうなので、オーバーホールは一年以上先の予定である。しかし、あまり先延ばしできる問題でもないので、そろそろ方針を決めなきゃいけないのも確か。よく考えよう。

 それにしても、ヤマハの楽器のラッカーは丈夫だなあ。自分のトランペットだけでなく、学校楽器のラッカーなどを見てもそう思う。特に1990年代以降の楽器のラッカーは本当に丈夫だ。ぶつけたところに傷がいったり、へこんだところが割れていたりするのは仕方がないが、ポロポロと剥落してしまうような状態の楽器はほとんど見たことがない。それに対して、2000年代に購入したジュビリー直前の僕のセリエ2のラッカーは今、炊きたてごはんの釜から出てくるでんぷんのペリペリのように、頼りなく剥がれ落ちようとしている。
 なーんだろうな、僕は別にヤマハ至上主義者ではないが、ラッカーに関してはヤマハが凄いと感じる。保護性能を優先しているせいか、厚塗りで多少音響的にはビハインドかなあとも思うけど、塗装やメッキの第一の目的は楽器の保護なのだから、ヤマハのやり方は正しい。そして、ただ硬いだけでなく、変形にもある程度柔軟に追従するやわらかさや、手に持った時に滑りにくいネバリ感のある手触りも素晴らしい。まさに、ザ・学校楽器。
 そうそう、この手触りも大事だよね、ラッカー。セルマーのラッカーって、結構すべる。冬場に指先が乾燥していると、楽器を持ち上げるのに苦労するくらいだ。

 例えば、どうだろう、僕のセルマーをリラッカーするとして、次はヤマハの塗料を塗ってもらうみたいなことは可能なのかな? 
 多分、まったく同じにはならないのだろうけど、ヤマハ「みたいな」塗料なら可能なんだろうか。つまり、すこしグリップのある手触りの塗料を、セルマーの標準より厚塗りしてもらう、みたいなこと。あるいは逆に、ヤマハの楽器にセルマー「みたいな」塗料を薄塗りしてもらうのは? 実際にリラッカーを頼むなら、その時に確認すれば教えてくれるんだろうけど、うーん、気になる気になる。
 実は、ラッカーじゃなくてメッキにしてもいいよね、なんてこともちょっと考えている。実はシルバープレートのサックスの音って結構好きで、あのチリチリ感がたまらない。ブラスに銀メッキの楽器って、金管楽器もそうなんだけど、どうしてああいう響きになるんだろう。ちなみに、フルートだとそうはならない。チリチリというより、ツルツルになる。なんでだ? 楽器というのは、不思議で、面白い。

 話はどんどん逸れてしまうのだけど、面白いと言えば、アンディグアというサックスブランドのネビュラ・フィニッシュというラッカー、面白いね。あのパリパリした見た目、とてもキレイだ。耐久性に問題がなくて、音響がいいなら、試してみたい仕上げである。台湾サックスの挑戦的な姿勢は好きだ。どんどんやって欲しい。キャノンボールの貴石をあしらったデザインはそろそろ見慣れてきた。次は指貝にLEDを仕込んで操作すると光るとか、彫刻に発光塗料を流し込むとか、そういう勢いのある工夫がそろそろほしいところだな。
 ヤマハはアンバーのラッカーを使った82Zを出したね。ついにヤマハも見た目にこだわり始めたか。いいぞいいぞ、その調子でいこう。
 こういう、ハデな見た目の楽器をクラシックのステージで使うのも、そろそろ受け入れられてもいいと思ってるんだけど、どうだろう。商売の裾野も広がるだろうし、悪いことはないはずなんだけどね。

 たかだか表面処理なのだが、音響にも見た目にも影響するラッカーとメッキ。さーて、僕はどうしようかな。悩むのは楽しいけど、まずは貯金か。ふー。