笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

おかえり、YTR-1335。

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 近所の高校生に貸していたトランペットを返してもらった。3年貸していたのを、お願いして返してもらったのは、中学生に楽器を教える時に、やはり自分の楽器があった方が便利だから。中学校の楽器は、モノにもよるけど、調整不足だったり、コンディションが悪かったりする。できれば自分が信用できる楽器を使いたいのが人情ってもんだ。

 かつてはヤマハの最廉価トランペットであったYTR-1335、今はもうカタログ落ちしている。検索をかけると旧モデルとしてページを閲覧でき、当時は定価が税込み53000円だったらしい。僕は確か、新品4万円くらいで譲ってもらった。買ったのが2010年頃だと思うのだけど、当時ヤマハの楽器は二割引ぐらいで手に入るのが普通だった。それだけよく売れていて、販売店の間で競争ができたということだろう。知らんけど。
 そもそも、なぜ笛吹きの僕がラッパを買ったかというと、当時僕は、小学生の金管バンドに関わっていて、そこに来ている大人達のブラスバンドにもトロンボーンで参加していたのだが、どうせなら違う金管楽器もできるようになりたいと思って、練習のために手に入れたのだった。
 その当時は、買ったくせに練習の時間がなかなかとれず、ほとんど吹かずに過ごしてしまった。それから神戸に戻ってきて、ある時気まぐれをおこし、半年ほど熱心に練習した時期がある。しかし、トランペット上達のハードルは意外と高く、基礎練習レベルのことは何とかできるようになったものの、曲を演奏できるというところまでは届かなかった。トランペット、難しい。
 ホルンもそうだが、カップの小さなあのマウスピースは、人を選ぶ。赤本には、唇の薄い人がよい、みたいなことが書いてあって、唇の厚さ薄さが向き不向きに直結するかは疑問だと僕は思っているけど、それでも、トランペットを吹きこなすにはある種先天的な才能がちょっと必要だというのは確かかもしれない。
 中学生でも、トランペットパートに配属されたものの、なかなか上達できずに三年間を終える生徒がいる。高音が出ない、トランペットらしい華やかな音色が出ない、一曲を吹ききるスタミナが育たない・・・苦しみつつも頑張り続ける姿には頭が下がるが、二年の夏ぐらいになってもそういう状況なら、別の楽器に転向してもいいんじゃないだろうか、なんて僕は思う。もちろん、学校の部活というのは、単に演奏技術の向上を狙うのではなくて、生徒の人間的な資質を養う場でもあるから、簡単に「変えちゃいなよ」と薦められないのは分かっている。ただね-、トランペットと・・・あと、実はフルートも・・・不向きだと気づいたら、違う楽器にチャレンジすることを考えてもいいんじゃないかなあ。

 それはともかく。

 せっかく帰ってきたので、久しぶりにトランペットを吹いてみた。
 三年も貸していたのに、ほとんど新品のようなコンディション。ずいぶん大切に使ってもらったようだ。ピストンオイルをさそうとしてピストンを抜き取ると、水滴が落ちる。洗浄してくれたんだね、ありがとう。オイルを差し終えたら、軽く息を通す。ピストンを押した音と解放の音の、音色が違う。バイパス管の気密不良か。一番管を抜き取ってジョイントを触ると、グリスの手触りがない。ここもキレイに洗ってくれたようだ。で、1番管、2番管、チューニングスライドにスライドグリスを塗る。三番管にはスライドオイル。これで、OK。
 ベルの横と、ピストンのケーシングの横に曇りがあって、これは貸し出す前からある。傷がいっているのではなくて、どうやら、ソフトケースのクッション材に使われている接着剤が楽器を汚すようなのだ。付属の、濃いオレンジのステッチがはいったケースなのだけど、これ、何とかして欲しいな。曇りは、指でこするととれる。ガムテープの粘着の弱いやつ、って感じ。ケースを変えたいところだが、このクラスの楽器に新しいケースを奢る気にはなれない。傷んだら変えるけど。まあそれは、まだまだ先の話。

 吹いてみると、使い込んでもらったお陰なのか、全体によく鳴るようになっている。高音には今までと違うところにツボができていて、ああ他人に貸したんだ、という実感がする。楽器のコンディションはすばらしい。問題は僕のほうにある。確か、6年ぐらい吹いてないんじゃないかな。まともに吹けない。もともと、大して吹けるわけじゃなかったが、ヘタレにも程があるぜ。これは、練習しないと。
 ああでも、ちゃんとした金属の楽器、いいなあ。しばらくプラスチックのpBone(トロンボーン)しか吹いてなかったから、金管らしいハリのある音が気持ちいい。昔、まだヤマハの評価がそう高くなかった頃に、「買うなら最低でもヤマハ」なんて言い方をされたけど、今、逆の意味で、「買うなら最低でもヤマハ」だと思う。いい。
 僕のYTR-1335には、made in Japanの刻印がある。当時はまだ、このクラスの楽器であっても国内で生産していたのだ。確か2016年頃に、トランペットの廉価グレードは中国生産になったんじゃなかったっけ。フルートやサックスの廉価グレードが本格的にインドネシア生産になったのも同時期だったと記憶している。アジア生産の楽器に偏見はないつもりだが、何となく、世界に誇る日本の管楽器として、ジャパンメイドを貫いて欲しかったという思いもある。まあ、ホンダのカブみたいに、また国内工場に生産拠点を戻すってこともありえるかもしれないしね、あまり気にはしてないけど。

 さ、さ、まずは練習だ。トランペットは、プラクティスミュートが使えるのが利点。自宅でも気軽に練習できる。近頃、子どもが夜にテレビを観るようになって、テレビに興味のない僕は、子どもに相手してもらえず、暇。その暇な時間を、トランペットの練習にあてるとしよう。何だか、ここんとこ、楽器ばっかり吹いてるな。他にできることがないからそうしてるだけなんだけど、幸せなことではあるかもしれない。