笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

木管楽器のタンポについて思うこと。

f:id:sekimogura:20230622211519j:image

 

 先だって、遊びに行っている中学校に楽器屋さんのリペアマンが来て、学校楽器の修繕をしていった。へーえ、出張してくれるんだ。そりゃありがたいね。まあ、割と大きなバンドを抱えている学校なので、営業車で工房に持ち帰るよりも、その方が効率いいのだろう。
 しかし、その出張メンテナンスの翌日、クラリネットの子がメンテナンスの済んだ楽器を僕の所に持ってきて、低音域音が裏返っちゃうんです、と言った。クラリネットの使用者は二年生なのだけど、三年生の先輩がチェックして、どうもレジスターキィがおかしいようだ、というところまでは分かったらしい。
 で、レジスターキィをチェックしてみると、コルクが新品に交換されている。そーなんだよ、レジスターキィってなぜか、コルクを貼るんだよなあ。なんでコルクなんだろ? まあそれはちょっとおいといて、僕が指でレジスターキィを押さえながら、彼女に低音を吹いてもらうと、ちゃんと音が出た。これは、浮いてるね。キィが浮いてる。そしてレジスターキィのトーンホールがきちんとふさがってない。
 リペアマンも、修理が終わった後にチェックをいれないなどということはないだろうから、昨日の時点ではちゃんと塞がっていたのだろうとは思う。だから、リペア後にコルクが動いたんだろうね。近頃は雨が多く、湿度がものすごいから、湿気を吸ってコルクが変形したということも考えられる。管楽器の調整は繊細だ。

 もう一度リペアに出しても構わないが、そうするとその子はしばらく楽器が吹けない。あと一週間ぐらいするとテスト期間で部活が休みにはいるので、それまではちょっと我慢してもらい、もし症状が改善しないようなら楽器屋さんにあずける、というのがいいだろう。レジスターキィが塞がらないなら、楽器がないのと同じかもしれないけど、吹いているうちにコルクが馴染んでいい調子になるかもしれないしね。不満だろうけど、とりあえず手元においときなよ。で、学校楽器の本数にはまだ余裕があるのなら、別の楽器を使って練習してて下さい。

 しかし・・・蒸し返すが、なぜレジスターキィはコルクを貼るんだろう? 音色の問題なのかな? 
 管楽器にあけられた穴を塞ぐためには、それぞれの楽器に応じて、様々な素材が用いられている。先だって僕は、トランペットのウォーターキィのコルクを交換してもらったけど、ここにはゴムを用いることもあり、ゴムを使うとコルクの場合に比べて、やや硬い音色になるらしい。ふーん。ゴムのウォーターキィ、横浜で小学生の金管バンドに関わっていた時に、プロモデルのコルネットに使ってあるを見たっけ。そんなに硬い音だった印象はないけど、演奏者の立場になると、また違うのかもね。
 フルートだと高級機にストロビンガーパッドが奢られている場合があって、あれは樹脂のワッシャーみたいなのが中に入っているらしく、試奏してみると伝統的なフェルトのタンポよりクッキリハッキリした音になるのは、僕も経験したことがある。サックスの場合は、タンポは大抵革製で統一されていて、レゾネーターの素材としてプラスチックかメタルかというのを選べる。今吹いているセルマーのテナーはメタルレゾネーターで、かなりハッキリした音がするのに対し、以前吹いていたヤマハのアルトはプラのレゾネーターで、木管的なやわらかさがあった。
 クラリネットでも、プラダー、レザーなどの選択肢があるようだ。僕が今度手に入れるYCL-255にはバレンチノというパッドが使われているらしい。色々あるんだね。

 一般に、ひとつの楽器に違う種類のパッドを混在させることは、NGとされるようだ。僕のゴウのフルートを秋山さんのところへ点検に出した時、「このパッドだけ種類が違う」と怒られたことがある。別に僕がわざと違うパッドを入れたわけじゃないのだけど、いつの間にか混ざっていたらしい。そのパッド、他のものと種類揃えて新品をいれてもらった。そのことによって楽器のコンディションが劇的に改善したような印象はない。しかし、中長期的に見ると、劣化による変化の度合いが違ったりして、色々不具合が出てきたりするのかもしれない。
 すると、クラリネットレジスターキィだけに、コルクをいれるっていうのは、果たしてOKなのだろうか。もちろん、世界中のクラリネット吹きが「これでOK」と思って演奏しているのだろうから、別にいいのだろう。パッドの世界は奥深い。

 楽器の種類にもよるだろうけど、僕はどちらかというと、柔らかな音色が好きなので、柔らかい素材のパッドを使うのがいいと思っている。しかしその一方で、現代的な演奏シーンで求められる音量や音色のクッキリ感を実現するためには、ちょっと固めの素材のパッドが望まれるのだろうということも理解している。そして、いくら柔らかな音色がいいとは言っても、シリコンパッドみたいに沈みすぎるのは操作しにくい。
 操作感や気密性にも、パッドは影響する。柔らかく沈む素材は確実にトーンホールを密閉できる一方で、カッチリしたキィタッチは望めず、そして硬い素材だと、キィタッチにカッチリ感が得られる反面、楽器本体の加工精度に精密性が求められる上に、調整が難しい。
 いやー、面白いな、楽しいな、奥深いな。これはもう、沼だ。管楽器の、タンポ沼。僕はもう沈んでるよ。ズブズブにね。

 機能的なことを言えば、気密はもちろんしっかりしていてほしい。そして、キィタッチには、適度なやわらかさとほどほどのカッチリ感がほしい。音色は、あまり硬すぎない方がいい。そういうわけで僕は、フルートのタンポには、ハンドメイドクラスに使われるフェルトバッドを支持する。ストロビンガーはね・・・ダメとは言わんけど、音色が硬すぎる。キィタッチも好みじゃないな。ちなみに、同じフルートでも、廉価モデルに使われるパッドは、音孔の加工精度の問題だと思うけど、ちょっと柔らかすぎる。あれ、ハンドメイドクラスと同じものにしたら、気密に問題が出るのだろうか。もし問題ないなら、もうちょっと硬くしてみたいのだが。ダメ? 
 サックスだったら、どうかな。今吹いているセルマーはメタルレゾネータだけど、ポピュラーならそのままでいいし、クラシックならプラに変えたいかも。で、トランペットは、音色のことはまだよく分からないので、長持ちしそうなゴムに変えたい気がする。

 そうそう、耐久性の問題もあるよなあ。コルクって、やっぱり傷みやすいし、コンディションが安定しにくいと僕は思う。キィのパッドに使う材料としては、あまり適切ではない気がするな。だから、クラリネットレジスターキィにコルクが使われているのは、僕としてはちょっと、納得いかない。キィじゃなければ、別にいいんだよ。管の継ぎ手のところとか、フルートのEsキィの裏みたいに、緩衝材・兼・スペーサーとして使うとかならね。でも、キィのパッドとして使うには、硬すぎるし、湿気に弱すぎる。どうしてコルクなのかなあ。何か理由があるんだろうけど、僕は知らない。トランペットのウォーターキィに使うゴムじゃ、ダメ? 

 管楽器って、音色とメンテナンス性の両立が大事。そしてメンテナンス性とは、部品の交換しやすさ、部品の価格の手頃さ、そして耐久性。イージーメンテナンス(リペアマンとユーザーの、両方の視点から)で、ランニングコストのいいシステムが望ましいと思うのだけど、ヤマハさん、クラリネットレジスターキィのタンポって、本当にコルクでいいの? トーンホールの形状も含めて、一度検討して頂けると、有り難いです。