笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

シルバーのフルートに、シルバープレート?



 フルートという楽器は、素材にいくつかの選択肢がある。
 プロユースのフルートの素材として最も一般的なのは銀だろう。次に金(贅沢!)。そして、いわゆるエントリーモデルのフルートには洋白や白銅といった、ニッケル系合金の素材が使われることが多い。あとはグラナディラを筆頭とする木材でできた楽器もあるし、リッププレートに珊瑚や象牙を用いるなど、部分的に異素材を組み合わせることもあって、フルートという楽器を形作る材は実に多様だ。

 しかしやはり、いわゆるフルートといえば、大抵の人は銀製のものを思い浮かべるんじゃないかな。近頃はゴールドのフルートが普及してきて、アマチュアの演奏現場でも収入に余裕のあるプレーヤーはゴールドを使うことがかなり一般化している。資産としてもいいのかもしれない。しかし、ゴールドを使っているプレイヤーもシルバーをサブ機として所有している人は多いし、場面によっては「あえてシルバーを使う」というケースもあり、シルバーのフルートは今でもプロユースのフルートとして最も一般的であると言えるだろう。

 ところで、フルートを吹かない人にとっては、洋白や白銅という金属はあまり馴染みがないかもしれない。アクセサリ(装身具)にも使われるので、ファッションに関心のある人ならご存知だろうか。美しい光沢があり、加工性にすぐれる上に強度もあるので、表面に銀メッキを施してリングやピアスにするようだ。僕は反対に、アクセサリに全く関心がないので、具体的にどのように使用されているかということには全然明るくないけど、聞くところによると、そういう使い方をしているらしい。
 実は、エントリーモデルのフルートも、アクセサリと同様に銀メッキをかけている。
 洋白、白銅と言っても金属の配合によって色合いは様々だが、以前アキヤマフルートで無垢の洋白の楽器を見せてもらったことがあり、9Kぐらいのゴールドに似たシャンパン色だったのを記憶している。ただ、そのままではすぐに腐蝕が進んでしまうので、洋白には銀メッキをかけるのが昔から一般的らしい。洋白に銀を直のせするとメッキのりが悪いようで、洋白と銀メッキの間にニッケルのメッキ層をはさむんだとか。なので、洋白のフルートは一見、銀製のものと見分けがつかない。

 じゃあ銀のフルートと、銀メッキした洋白の楽器と、何が違うねん? という話になるわけだが、やはり音色には違いがある。
 楽器の音色に材料は影響しない、という研究結果もあるようだが、僕を含め奏者の間ではやはり、「ないってことはないよね」というのが通説だ。どのように違うか、というのは奏者によって様々である。僕の意見を言えば、洋白の楽器は反応が軽く、シャープな音色が得られるという印象。もちろん、楽器の音色は材質だけできまるわけではないから、一概にそうだとは言えないのだけど、秋山さんのところで試させてもらった洋白の楽器にはそういうイメージをもった。秋山さんの洋白の楽器は、完全ハンドメイドの巻き管である(フルート業界でいうマイユショールの楽器。硬くて巻きにくいらしい)。秋山さんの楽器は基本、シルバーの楽器もシャープな反応をするけど、洋白だとさらにシャープで、軽やかな鳴り方をしていた。

 管楽器の管体の材質が何であるか、だけでなく、メッキ加工を含む管体の表面処理も楽器の音色に影響することは、管楽器奏者の間ではよく知られている。ひょっとしたら、管体の地金の材質以上に、表面処理が音色に及ぼす影響の方が認められているんじゃないだろうか、とさえ思う。
 フルートであれば、シルバーの楽器に金メッキをかける処理が一般的だろう。知り合いに、ヤマハのハンドメイド・シルバーに金メッキを施した楽器を使っている奏者がいて、華やかな音色だった。YFL-8○1の、古い設計のヤマハだったので、めちゃくちゃに明るい訳ではないけど、それでも音ヌケのいい楽器だったと記憶している。ただ、ちょっと吹奏感が重いらしく、彼は吹きにくいと言っていたっけ。ゴールド系だと最近は、ピンクゴールドをメッキした楽器も増えてきて、これは通常のゴールドよりも一層明るい音色になると僕は感じる。一言に金メッキと言っても、色々だ。
 そして、案外知られていないことだが、いくつかのフルートメーカーはシルバーのフルートにあえて銀メッキをかけ直しているらしい。
 なんでシルバーの楽器に、さらに銀メッキかけるの? と思うのだけど、メッキをかけると管体の表面が平滑になって表面積が小さくなり、錆びにくくなるんだとか。人づてに聞いた話なので本当かどうかは分からないが、ヤマハとサンキョウはそのような処理をしているようだ。情報のソースを確かめられないので、間違いだったりウソだったりしたらごめんなさい。
 でも、印象ではあるけど確かに、ヤマハとサンキョウってあまり黒ずんでこない気がする。洋白に銀メッキの楽器もそう。通常、銀無垢のフルートは長く使っていると、銀食器と同じように黒くサビがつく。僕のヘインズもところどころ黒い。「木製か?」と思うくらい真っ黒になったムラマツのSRやスタンダードを見たこともある。しかし、ヤマハやサンキョウって、黒いイメージないよね。もちろん、メッキだって何十年も磨かずに使っていれば黒ずんでくるのだろうけど(吹奏楽部の備品で、YFL-2桁のヤマハとか)、メッキがかかっている楽器には、サビがのりにくい印象がある。

 シルバープレート on シルバーの楽器は、音色にもメッキの影響を受けているように感じる。なんかこう・・・ツルッとした音色がする。良くも悪くも、響きにひっかかりがない。僕は、音色にも吹奏感にも少し抵抗感やザラつきが欲しいので、そういう楽器を選ぶわけだけど、僕のフルートはヤマハでもサンキョウでもなく、そして黒いサビがのっている。10年程度を目安にオーバーホールをかけるので、そのタイミングで磨きが入り、サビがリセットされるから、真っ黒ではないけど、前回のオーバーホールから5年以上経過している僕の楽器は、指で直接触れないけど汚れやすい部分にサビがある。

 で、メッキありの楽器となしの楽器、どっちがいいかっていうことになると、僕は音色を優先してメッキなしを選択しているわけだが、楽器の耐久性のことを考えると、メッキはあった方がいいように思う。
 フルートではなくホルンの話だけど、学生の頃の大学オケの先輩の、アレキサンダーのロータリーを操作するレバーに、コインが貼り付けてあった。ちょうどサックスの指貝みたいな感じに。コインはレバーを延長するような位置に張られていたのだけど、その先輩の手は特別に小さいわけではなかったので不思議に思い、「なんでそんなのつけてるんですか?」と尋ねたら、「手で触れる部分が腐蝕して、楽器に穴があくから」という答えが返ってきた。
 そのアレキサンダーはノーラッカーの楽器だった。まあ、アレキは基本ノーラッカーだろうけどね。時々銀メッキを見るけど、あれは後がけだろうか。まあいいや。で、地金は当然、ブラスなのだけど、長く使っていると手で触れる部分が腐蝕して金属が薄くなり、
やがて穴があいてしまうのだそうだ。具体的にどこかと言うと、ロータリーのレバー、左手で握る管の部分、そして右手で支えているベル。
 穴があくって、怖ェな・・・。
 アレキではないけど、ふるい古ーぅい学校楽器で、トランペットのメッキが剥がれて腐蝕がすすみ、そこに穴があいているのを僕は見たことがある。銀メッキの楽器だったのだけど、ぶつけてへこんだところのメッキが剥がれたらしく、そこが腐蝕して穴があいていた。穴の周辺の金属がとても薄くなっていたので、あれはそういう事情であいた穴だと思う。
 フルートはブラスではなく銀製なので、穴があく、という事態にいたることはほぼないだろうが(その前にメカ部分が摩耗したりキィがダメになったりする気がする)、何らかのダメージが蓄積することは間違いないだろうと予想されるので、長くコンディションを維持して愛用したいなら、メッキはあった方がいいだろうな。そんな気がする。

 ただ、銀メッキだってやっぱり、長く使っていれば摩耗して剥がれてくる。フルートだと気づきにくいけど、トランペットやサックスのシルバープレートの古いものは、手の触れる部分のメッキが剥がれて地金のブラスが露出している固体をよく見かける。トランペットだと、親指をかける一番ピストンの横や吹き込み管の下のあたり、サックスだとパームキィの手で押さえる部分のメッキがよく剥がれているよね。ラッカー処理の楽器でも、この部分のラッカー剥がれはよくあって、手の触れる部分が痛んでくるのはどうにも仕方がないようだ。

 たまにはフルートの話を、と思ってこんなことをツラツラ書いてみた。だから何、って結論はないし、あやふやなところも多くて申し訳ないのだが、ふーんそうか、ぐらいに思ってもらえたら有り難い。