笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

フルートでジャズって、どう?

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 ジャズの演奏で使われる管楽器といえば、という話をするなら、一番はやはりサックスだろうか。ビッグバンドで使う楽器が基本なので、あとはトランペット、トロンボーン、そしてリズムセクション(ピアノ、ベース、ドラムス、ときどきギター)。そして、サックス奏者が持ちかえるクラリネットとフルートがそれに続く。
 まあね、花形はやっぱりサックスなんじゃないかな。比較的に歴史の浅い楽器なので、クラシックの世界ではあまり使われないという事情も関係しているだろう。そして、ビックバンドに混じって主張できるだけの音量があり、バップを演奏するための運動性も備えている。音色も華やかだ。まさに、ジャズのための楽器、ポピュラー音楽のための楽器。それがサキソフォン、ことサックス。

 さて、僕はサックスも吹くけれど、一応メインの楽器はフルートだ。フルートという楽器をサックスと比べると、運動性では互角以上。フラジオまで含むと音域はほぼ同じだが、使いやすい音域の幅で考えるなら、フルートの方がやや広いと言えるだろうか。音量は圧倒的に小さく、タイマンを張れば確実に負ける。特に低音が弱い。フルートの歴史は長く、有史以前の時代にルーツをもち、いわゆるクラシック音楽の中でもレパートリーが幅広い。なので、僕の主観では、フルートはクラシック音楽のために使う印象が強い。
 でも、ジャズ・フルートというジャンルは、ジャズの世界の中でひとつの確固たる地位を築いている。ハービー・マン、フランク・ウェス、ヒューバード・ロウズ、ジェレミー・スタイグ・・・マルチプレイヤーも含めれば、かなりの数のフルート奏者がジャズの歴史のなかにはいて、たくさんの名演を残していることを、ジャズを聞きかじった者なら知らぬはずはない。そして、僕も端くれながら、ジャズを愛した人間として、またフルート奏者として、フルートを使ったジャズを学んだ。
 まあね・・・難しいですよ。いわゆるクラシックのフルートとは、奏法が違う。いや、奏法の基本は同じなのだけど、目指すサウンドが違うと言えばいいのかな。なまじっか、クラシックをずっとやってきただけに、ジャズのフルートの音を出すのは僕にとってとても難しい。鋭くて、エアリーにかすれたあのサウンド、ほとんどパーカッションとも言えるような激しいリズムを打ち出せる力強い響き。艶やかに歌うクラシックとはまるで逆の音色だ。どうやればああいう音になるのか、かなり研究したけど、今以てまだ十分には体得できていないので、勉強とトレーニングを続けているところである。

 しかし、ジャズのフルートって、どれくらい需要があるんだろう?
 例えば中川昌三(巳)さんとか坂上領さんとか赤城りえさんとか、今現在活躍中の素晴らしいジャズ(を含むポピュラーミュージックを主戦場とする)フルート奏者が日本にはいらっしゃって、彼らは僕を含む大勢の笛吹きの憧れである。彼らのプレイに触れると、フルートでやるジャズはすげえ! また聴きたい! もっと聴きたい! となるわけだけど、町場のライブハウスで、フルートがフィーチャーされていることはかなり稀なんじゃないだろうか。いや、フルート奏者がまじっているセッションに全然触れられないわけじゃないんだ。でも演者の楽器のところには○○ & fl.(○○のところには大抵、Ts.かAs.がはいる)と書いてあって、フルートはサックスのついで・・・ちょっとお口直しにフルートも聞いてもらおうか・・・みたいな扱いであることが多いような気がする。
 それをね、別に悪いことだとは言わない。しかし、日本における管楽器の演奏人口の大部分をフルート吹きが占めるらしいのに、日本のジャズフルートはこれでいいの? もっと盛んでもいいんじゃないの? って思うわけですよ、僕は。

 もちろん、フルートでジャズを吹こうと思った時に、越えなければならないハードルが、ちょっとでかいっていうのはある。ひとつは奏法の問題、もうひとつはアドリブの問題。
 アドリブはね、書きリブやコピーだっていいと思うんです。書きリブっていうのは、つまり、アドリブができる人が、誰でもアドリブっぽく吹けるように書いてくれた譜面を、本当はアドリブできない人が吹くってことなんだけど、他の楽器の人だって大抵、最初は書きリブから入るわけなんだから、それで全然いいんだよ。吹奏楽編曲の「宝島(T-Square)」の有名なアルトサックス・ソロだって、当然書きリブなんだし。ああいうのでポピュラーミュージックにハマっていくサックス奏者は多いはず。だから、入り口として書きリブから入るっていうのは、全然問題ない。そして、出口を出るまで書きリブで過ごしたって、やっぱり全然問題ない。出音が本当にアドリブかどうかなんて、聴いている人は気にしないでしょ?
 奏法は、ちょっと難しいよね。ジャズらしいイントネーションやスイングのリズムを身につけたり、パーカッシヴな音色が使えるようになったりするのには、クラシックとは別のトレーニングがいる。というかポピュラーでは、一般にクラシックでは「それをやってはいけません」と言われていることを積極的にやるので、発想を根本から変える必要がある、とも言える。知らぬ人は、気持ちの問題でしょ? なんて軽く言ってくれちゃったりするんだけど、クラシックを長くやってるとその気持ちってやつが体に染みついているから、なかなか変えるのが難しいんだってば。
 実際、クラシック吹きとポピュラー吹きを分けるように中学生に教えても、なかなか理解してもらえないという事実がある。3年生なんて、完全にクラシック吹きが染みついてしまっていて、体が自動的にクラシック吹きしてしまうようだ。かえって1、2年生の方が柔軟かもしれない。
 そして、クラシック吹きを抜け出す勇気をもてたとしても、鋭い音を出すためのコンパクトなアンブシュアと早い息や、音をかすれさせるためにあえてポイントをずらした吹き方を覚えるのは簡単ではない。加えて、グロウルやベンドといった奏法も表現にプラスしていこうとすると、覚えなければいけないことは山ほどある。
 もう一つ、クラシック出身の奏者が身につけなければいけないのは、ジャズ独特のサウンド感覚だろう。
 例えば、「C Jam Blues」を吹くとして、当然in Cのブルースが基本になるのだけど、メジャーペンタトニックで吹くのはともかくとして、Cセブンスのコード上でEb音を含むマイナーペンタトニックが鳴るのに慣れるのは多少、時間が必要になる。で、ブルースに慣れたとして、その次にミクソリディアン、リディアンb7th、オルタード、コンディミなどのスケールを鳴らして、それがサウンドしているという感覚をつかんでいくのは、なかなか容易ではない。最初からジャズを志して、ダイアトニックな環境からアウトしているサウンドに慣れている人なら関係ないのかもしれないが、ロマン派(の中期ぐらい)までのクラシックのサウンドに慣れ親しんでいればいるほど、違和感を払拭するのは大変だろう。

 しかしね、同時に僕はこうも思うわけです。フルートでジャズに挑むことがいくら難しいとはいえ、結局は慣れとトレーニング次第なのだと。
 僕はフルートという楽器が好きだ。好きじゃなきゃ30年も続けませんよ。そしてもちろん、音楽も好きだ。クラシックが好きだけど、いわゆるクラシック(バロック~ロマン派くらい?)だけが好きなわけじゃない。古楽や現代音楽も好きだし、エスニックだって聴く。するとさ、フルートを吹いていて「クラシックしか演らないんじゃ、もったいない」っていう感覚があるんです。だって、フルートってさ、歌と太鼓の時代から音楽に使われてるんですよ。だったら、古い音楽だって演ってみたいじゃない。そりゃあ、当時はベーム式の楽器じゃなかったかもしれないけど、基本は一緒だよ。じゃあ反対に、新しい音楽は? 例えば武満徹の絶筆「Air」、名曲だ。同時に難曲でもある。「巡り」はもっと難しい。でも、「Air」とか「巡り」とか、みんな好きじゃない? そしてチャレンジするじゃない? 僕は高校生の頃から吹いている。だって美しいから。吹いていて楽しいから。で、そしたらジャズやラテンは? もちろん吹く。アイリッシュチューンは? もちろん吹く。「それはフルートで吹いちゃダメ」ってルールで禁止されていない限りは、何だって吹く。技術的に吹けるかどうかは別問題。そんでもって、吹きたいけど難しくて吹けない時は、勉強と練習をする。

 そういう訳で、今までもフルートでジャズのトレーニングは積んできたわけだけど、もうちょっとちゃんと吹けるようになりたいと思っていて、これからも継続し、そして今まで以上に熱心に取り組んでみたい。そして、そのことをアピールしていきたい。
 なんて、この頃は考えている。とりとめのない記事になってしまったけど、言いたいのはつまり、そういうこと。