笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

トランペットのアンブシュアを根本から見直す

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 トランペットの練習を続けている。
 5月に楽器が戻ってきたので、そろそろ半年くらい練習していることになる。よほどの事情がない限り毎日吹いているが、上達の具合は、簡単な曲をちょっと吹くくらいなら何とかなる程度。そのレベルに達したのが、夏の終わり頃なのだけど、そこから伸び悩んでいる。
 アパチュアの位置を見直したり、マウスピースを変えてみたり・・・色々試してはいる。しかし、コンディションが安定しないし、すぐにバテる。バテるっていうか・・・どう言えばいいんだ? ・・・「さっきはこういう力の入れ具合で吹けて、同じようにやっているのに、今回は吹けない」みたいなことを繰り返していて、とにかく、確実性に乏しい。
 何かが、根本的に間違っているんじゃないか? そう思って、YouTubeにあがっているレッスン動画を漁ってみた。いやあ、いい時代になったもんだ。昔だとこういう時、プロのレッスンを受けたり、上手い友だちに相談したりしたんだろうけど、そういうことに時間やお金を割いたり、気を遣ったりしなくても情報が手に入るっていうのは有り難い。

 そして、動画から得られる情報に基づいて自分のアンブシュアを見直してみた結果、どうもアンブシュアの作り方に問題があるようだ、という可能性があることに気づいた。
 粘膜奏法、という言葉があることを初めて知ったのだけど、多分、僕のアンブシュアはこの粘膜奏法になってしまっている。粘膜奏法についての僕の理解を述べると、これは要するに、唇を閉じると口の内側に隠れる、唇と口腔内の粘膜の境目付近の、粘膜の方の振動によってトランペットを吹いている状態のこと。「それってどこやねん?」ということを、フルート吹き的に説明すると、フルートを演奏するためのアパチュアのトンネルを形成する部分である。あー確かに、そこが振動してるわ。ていうか、むしろ、そこを積極的に振動させようとしてるわ。
 いやだってさ、振動するんだもん。もし粘膜が振動しないんだったら、こんな吹き方しないけど、振動するならそりゃあ、ここで吹きたくなりますよ。僕、フルート吹きだし。楽器を吹く動作に入るとき、ほとんど無意識に、ここにトンネルを作っちゃうもんね。そのやり方で、とりあえず鳴っちゃえば、そりゃあ粘膜で吹くって。

 でも、ダメなんだって。
 動画の先生たちが説明している粘膜奏法のNG項目は、そのまま僕の症状にあてはまる。コンディションが安定せず、バテやすい。先生たち、ダメとまでは言ってないかな。でも限界があるとか、メリットよりデメリットがでかいとか・・・まあ、ダメってことだな、うん。よし、しょうがない。直すか。

 まず、唇のセッティングが重要らしい。口角をしっかり横にひいて、上唇を少し内側にロールさせるようにし、薄くする。上下の唇は、しっかり閉じる。隙間があいちゃダメだってことね。そうすると、上唇が薄くなり、粘膜が露出しなくなる。
 ちなみにこのセッティングは、フルートのアンブシュアを形成するのとはまったく真逆の動作になる。なぜならフルートの場合、上下の唇の隙間にトンネルを形成することが大切だからだ。つまり、隙間をつくるのである。そのために、ひょっとこ口こそNGではあるが、あまり口角を引きすぎず、ざらつきの少ない粘膜部分がトンネルの壁面になるようにすることで、輪郭のはっりした空気の柱を楽器に送り込む。
 さて、実際にやってみよう。フルート吹きの僕には、えらく難しいセッティングだ。口角を横に引いて、上唇をロールさせ・・・ああなるほど、確かに上唇が薄くなるな。僕の唇は、厚いとまでは言えないけれど、こうやって意識的に変形させてみると、やっぱりそれなりに厚ぼったいものだったのだと気づく。出来上がった唇は、ええと、なんて言えばいいかな・・・「ムっ、」って感じ? ・・・うまく言えないけど、そういう感じ。子どもに、言葉は使わずに「私は怒っています」と伝えるときの口の形って言えば伝わるだろうか。
 で、そのセッティングが出来たら、圧力をかけて息を出してみよう、と先生は仰るのだけど、無理! 出ねえよ、息。だって、唇を閉じてるんだもん。出るわけないじゃん。しかし動画では、先生は器用に息を吐いて、唇を「ぷーっ」と鳴らしている。まーじか。すげえな先生。
 何度かトライしたが、僕の場合、息の圧力でアンブシュアが破壊されるだけなので、この工程はパス。先生は「次は息の出るところにマウスピースをあてましょう」と仰っているが、まあとりあえず、唇の真ん中にマウスピースをあててみましょうか。
 まあね、同じ唇が同じ形のままなのだから、マウスピースを当てたところで、音なんか出ません。ていうか、めっちゃ苦しいな! 「・・・! ・・・! ・・・ぷはっ!」って具合に、まず息が通らず、しまいには苦しくなってマウスピースから口を離してしまう。それでも位置や角度を調節しながら圧力をかけ続けると、「ぷ、ぷ、」と音が鳴り始める。動画の先生のように「ぴぃーっ!」と勢いのある音はしないが、とりあえず音は出た。

 こういうのは根気が大事。
 初日はとりあえず、「音が出ない→音が出る」という、キリギリスの一歩のような進捗で満足。それから数日、鏡を見ながらマウスピースだけでトレーニングを行い、まずはFかEsぐらいの音がロングトーンできるようにした。よしよし、なんとなく分かってきたぞ。要するにこれは、子どもの頃に葉っぱにスリットをあけたのに息を吹き込んでぷーっと鳴らしたあの、草笛みたいなことを唇でやるわけだ。ここで大事なのは、唇を閉じる方向にある程度力をかけつつ、しかし息は通る程度に緩めること。この、楽器を演奏するために唇を閉じる方向に力をかけるという発想は、フルート吹きにはない。フルートとトランペットのアンブシュアの構築は、ことごく逆方向なようだ。難しい。
 この吹き方で使う息は、極端に圧力が高い。そして、息が抜けない。この感覚、オーボエに近いな。もう少し習熟すると力の抜きどころが分かってくるのだろうけど、今のところ、えらくしんどい。慣れなければ。

 音が鳴るようになったので、ボディにマウスピースを指して吹いてみる。・・・おおっ、鳴るじゃん! しかもいい音。粘膜奏法よりも耳触りの柔らかい、ベルベットタッチな音色になった。音のキメが細かい。この音色と比べると、粘膜奏法の音色は、少し散ったような感じだし、ピアノに絞り込んでいくとある一定ラインを越えた瞬間にひどく音色が悪くなる。新しい奏法は、弱音にふっても音色が死なないし、ピッチもキープしやすい。
 ただ、ボディをつけた初日の段階では、Fのロングトーンが精一杯。難しいぜ。

 こういうのはとにかく、根気が大事。
 新しく作り直したアンブシュアが崩れないように注意しながら、少しずつ音域を広げていく。数日かけて、とりあえず1オクターブ、Lo-BbからTuning-Bbまで鳴らせるようにした。いいね、順調だ。
 現在のところ、粘膜奏法だった時のように曲を吹くというレベルにはまだ達していない。しかし、音が出ない時には、音が出ない原因がはっきりしていて(僕の場合、唇を閉じる力が弱い)、粘膜奏法だった時のように「どういう対策をとればいいのか分からん」ということがなく、上達が見込める吹き方だと感じている。
 フルートのアンブシュア形成には「唇を閉じる方向に力をかける」という作業がないので、今の僕にはこの力が決定的に不足している。逆に言えば、この力をしっかり鍛えていけば、今のアンブシュアで演奏できるようになるってことだ。これは、時間をかければ必ずどうにかできる。いいじゃん、イケる気がしてきた。
 ちなみにこのアンブシュアだと、楽器の角度が顔面に対して垂直に近くなる。完全に垂直にはならないけど、気にしていると以前記事にしたベル下がりの構え方よりはマシになった。そうそう、プロのトランペット奏者ってみんな、最低でもこれぐらいの角度で楽器かまえてるよね。そうか、僕のベル下がりはアンブシュアが原因だったのか。マイルスの角度にはならなさそうだけど、普通のトランペット吹きの角度までは修正できた。やったね。

 アンブシュアを変えたために、半年かけて積み上げてきたものがほぼ全てリセットされたけど、いいさ、別に期日が決まっているわけでもないし、のんびり上達していこう。
 多分、僕と同じような症状に陥っている中学生トランペッターは多いんじゃないかな、と思うのだけど、どうだろう。ここ数年で接してきた中学生たちを思い返して「あの子は多分、粘膜奏法だったんじゃないかな?」と思う子がたくさんいる。もちろん、その当時の僕に粘膜奏法か否かの診断スキルがなかったので、今、その子が確実に粘膜奏法だったかどうかは分からない。
 動画の先生によれば、粘膜奏法では絶対に上達できない、とも言い切れないらしい。だから、粘膜奏法の子に、「それ、なおした方がいい」と伝えてあげるべきなのかどうか、よくわからない。ただ、粘膜奏法だった子について確実に言えることは、かなり苦しそうに吹いていたなあ、ということ。やっぱり、確実性とか安定性に欠けるよね、粘膜奏法。彼らはよく音を外していたし、高音は絞り出すようにして吹いていたし・・・とにかくしんどそうだった。そして僕は、そういう子とそうじゃない子では何が違うんだろうってずっと悩んでいた。やっぱり粘膜奏法、よくないのかもしれないね。

 さて、しばらくはこのアンブシュアの作り方でトレーニングを続けてみようと思う。ひょっとしたらこの方法もどこかで頭打ちになるかもしれないが、とりあえず限界が来るまではこの方法を試します。
 神戸にはそろそろ冬がやってくるらしい。公園練習が辛い季節になるなあ。そろそろ車内練習にきりかえるか。