笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

YAS-62、売るんじゃなかった。

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 吹奏楽の中で唯一、レギュラーメンバーでありながらEb調である楽器が、アルトサックスである。
 Esクラリネットバリトンサックスもin Ebだけど、人数が少ないバンドでは省かれがちなので、レギュラーとまではいえまい。しかし、アルトサックスを省くバンドはほとんどないんじゃないかな。一度、北海道で中学校の音楽教諭をやっている友人を尋ねた時に、吹奏楽部の活動を見学させてもらったら、部員が四人くらいしかいなくて、全員クラリネットだったことがある。でも、十人以上の規模であれば、ひとりくらいサックスを配置するのが普通で、ソプラノ、アルト、テナー、バリトンからひとつ選ぶとすれば、やはりアルトサックスだろう。
 サックスを始める人が最初に検討する楽器がアルトかテナーで、ほとんどの人はまずアルトを選ぶだろう。ロリンズやコルトレーンが大好きでサックスを始めました、みたいな人は別だろうけど、楽器の普及度からいっても、演奏現場の要求からいっても、やっぱりまずはアルト。
 僕も、サックスを始める時に最初に買ったのはアルトだった。一年半くらい吹いたかな? 楽器を買って、その後に習い始めた先生がテナーだったのと、ロリンズやコルトレーンが大好きだったので、テナーに買い換えた。持っていたアルトはYAS-62。G1ネックのモデルになる直前のものだった。そのYAS-62、テナーに乗り換える時に、欲しいという知り合いがいたのでその人に譲った。そのことを近頃、ちょっと後悔している。

 なぜかというと、去年の暮れからサックスを吹く機会が増えたからだ。中学校の吹奏楽部を教えに行っているのだけど、合奏の指導をするときにサックスがあると、「こういう風に吹くんだけど、一緒に吹いてみて」みたいなことをするときに、金管に音負けしない。フルートでは無理だ。音が小さすぎる。こういう時はサックスが便利で、ここのところサックスを持ち出す機会が増えた。
 吹奏楽の楽器はほとんどがBb管なので、同じBb管のテナーがあれば大抵のお手本演奏はできる。音域的にも問題ない。大抵のことはテナーでコト足る。だがしかし、ある楽器だけは、音域的にオーバーラップする部分が少なくて、一緒に吹くことができない、
 それが、アルトサックスだ。

 アルトの譜面・・・テナーで吹こうとすると、どうも高いか低いかで、うまく全部吹けない。まあ、だからこそ合奏で一緒に使うと、バンドの中間域がうまく埋まっていいサウンドになるんだけどね。
 合奏の練習の初期で、バンド全体に音とりの指導が必要な時は、キーボードかEWIを使う。しかし、だいたい音がしっかりとれてきて、フレージングやアーティキュレーションを伝えたい時には、どうしてもEWIでは物足りず、生楽器を使いたい。で、「アタックはやさしく入って、この音はしっかり歌って・・・」みたいな事を伝える時には、言葉で伝えるよりも吹いてみせた方がどうしたってスムーズだ。そういうシーンで、アルトの生徒さんに言いたいことがあるとき、テナーだと、どうしても無理がある。
 同じような音程関係にある楽器に、F管のホルンがあるけど、どういうわけかホルンの譜面は、ある程度テナーで吹けちゃうんだよな。なんでだろう?

 ホルンの話はともかく、アルトについてはそういう訳で、余っている学校楽器の中からヤナギサワのブラス製アルトを借りて、何度か吹いた。
 アルト、ちゃんと吹いたのはもう10年以上ぶりだけど、楽しいな! 何もかも、テナーより軽やかだ。マウスピースはバンドレンV16、リガチャはコパーのウッドストーン。どちらもYAS-62を吹いていた頃に使っていたもの。リードは当時、青箱(バンドレン・トラディショナル)の2半を愛用していたけど、今回はヤマハのシンセティックリード2半を使用した。うん、シンセティックリードもいいよ。これだけ鳴れば、十分です。
 いいなあ、アルトまた欲しくなった。つくづく、YAS-62を手放したことが悔やまれる。楽器はうかつに手放すものではない。痛感しました。

 今、YAS-62がいくらするのかをヤマハのホームページで調べてみたら、高っけぇ! 僕が買った時の値段より、三割ぐらい上がっている。当時はまだ、定価も税金も安かったわけだけど、その頃の値段と同じくらいの出費で買えるなら貯金しようかと考えていたが、こりゃあ無理だ。今の中学校にお邪魔している間には、買えそうにない。
 楽器って、使う場所があれば買うモチベーションもあがるのだけど、使うか使わないか分からない楽器に投資するのって、ちょっと考えてしまう。YAS-62、欲しいなあ。でも、使わねえなあ。じゃあグレードをさげてYAS-480にするか? いやあ、それもちょっとな・・・。

 ヤマハの楽器の品番、ハイフンの次にくる数字がグレードを表していて、4以下がスタンダード、8以上がカスタム、その間がプロフェッショナルモデルと位置づけられている。なので、YAS-480はスタンダードの最高グレード、YAAS-62はプロモデルになるわけだ。
 その、スタンダードとプロモデルの違いって何なの? ってことだが、僕の感覚としては「ホールで生音で吹いて通用する音が出るかどうか」だと思っている。横浜で金管バンドに関わっていた時、バンドの楽器に4以下の楽器と6以上の楽器が混在していて、その音色の違いを聴いてそう感じた。
 スタンダードモデルは、生音がとばない。いやー、ホント飛ばないね、完全にそば鳴り系の楽器です。吹奏感は軽くて、とても吹きやすいのだけど、ホールで鳴らした時の音がプアだ。飛ばないし、軽い。ダイナミクス的にも、やはりプロモデル以上の楽器より狭く、フォルテ側の破綻がはやい。すぐ割れる。
 プロモデルは音響的なポテンシャルが高い。吹奏感は重くなるが、相当強く吹いてもなかなか破綻しないし、ホールで遠鳴りする。

 アルト、もし仮に買ったとしても、人前で吹く機会はいまのところないから、別にスタンダードでもいいかもしれないけど、でもなあ、どうせ買うならプロモデル以上がいいな。そう考えるのには、僕が普段オケでフルートを吹いているという事情がある。オケのフルート吹きが、サックスがどうこう悩む理由なんてないじゃん、オケにサックスなんてないんだし、と思うかもしれないが、いやいや、時々あるんですよ、サックス。で、そうするとやっぱり、たまにはサックスでオケに登場してみたいなあなんて欲も出る。
 サックスを使うオケの曲の代表格は、ムソルグスキー作曲・ラベル編曲の「展覧会の絵」だろう。「古城」のアルトソロは有名だ。ラベルなら、「ボレロ」にはテナーとソプラノを使うよね。あと他にも、ビゼープロコフィエフがオケ曲にサックスを使っている。どれも、時々演奏会で取り上げられる曲で、サックスが必要になるレパートリーである。
 普通、これらの演目をプログラムに組み込む時には、どこか余所からクラシックのサックス奏者をエキストラ扱いで呼ぶことになる。
 まあ、それが習慣だし、別にいいんだけど、でもさ、オケ慣れしているサックス奏者ってあんまりいないんだよね。僕が知らないだけかも知れないけど。オケにおけるサックスは、レパートリーがあるとはいえ多いわけじゃないので仕方がないのだが、オケのアンサンブルにスッとなじめるサックス奏者って、貴重です。学生の時に、ハチャトゥリアンの「剣の舞」を演奏するのに吹奏楽のサックス奏者を呼んできたのだけど、アンサンブルのタイミングの取り方が微妙に違って、気持ち悪かった。それは、彼が下手だってことじゃなくて、演奏習慣の問題。
 ま、僕は片手間のサックス吹きなので、本職の人にはかなわないけれど、代奏くらいならできる。関東に住んでいた頃に所属していたオケでは、最初に挙げた「古城」を練習で吹いた。楽しかったな。できれば本番で吹けるくらいになりたいと思う。「古城」くらいならなんとかなる気がする。でもそのためには、オケで使える楽器を手元に置いておく必要があって、その最低ラインがYAS-62だと僕は思っている。

 でもね、YAS-62もカスタムクラス以上の楽器と比べると、やっぱりプアだ。そりゃ、YAS-875はやっぱり、いい音する。僕が代奏した「古城」の本番にエキストラできてくれた人の楽器はYAS-875EXだったと思う。いい音だった~、ため息がでるくらいに、素晴らしい音でした。もちろんプレイヤーの技術と経験値の大きな差もあるのだけど、62ではあの音は出ないな、絶対に。カスタムクラスは、もうデフォルトで、いい音が鳴る。車で例えると、62はコンパクトカー、カスタムはハイクラスセダンや大排気量スポーツカー。余裕が違う。

 しかし、じゃあ僕がYAS-875を買って、ペイした分に見合うだけの演奏機会があるかっていうと、それは見込めない。じゃあ、最低ラインでオッケーってことにすると、コスパのよい選択肢はやはりYAS-62ということになる。ああやっぱり、手放すんじゃなかった。 現行のYAS-62、僕が持っていたものから二度アップデートされて今は、カスタムネックと交換可能なネックレシーバーを奢られているらしい。いいないいな、ネック交換楽しそう。しかし税込み定価で38万円くらい実売で33万円強・・・うーん、やっぱり無理だ。高いわ。それだけの可処分所得がまとまって手元にあったらむしろ、フルートの頭部管買うなあ。
 中古をあたってみるか?