笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

トロンボーンのスライドにおける、不自由さのカッコ良さ。

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 本番があるので、ここのところトロンボーンを練習している。戸外に持ち出して練習するのは中々面倒だと感じ、トロンボーン用のプラクティスミュートを買って、自宅でも吹いている。オクラミュートというものを買ったけど、その話はまた今度。

 このトロンボーンという楽器は、音階を演奏するのに、スライドという機構を用いる。このスライドというやつ、細かいパッセージの演奏には全く向いていない。半音分のストロークが・・・これ、何cmあるんだ? 10cm弱くらいある? 全音分で20cmにとどかないくらい? 測れば分かるのだろうけど、めんどくさい。グーグル先生に訊けば分かるだろうけど、それもめんどくさい。そんなことより、練習、練習。なんだけど、とにかく、他の管楽器に比べて操作が・・・なんて言えばいい? ・・・大変だ。Lo-BbからMid-Hに半音あがるのなんて、倍音の継ぎ目にあたっているせいで、1posiから7posiまでスライドを動かさなければならない。
 7posiなんて、小柄な奏者だと届かない人もいるくらいだ。その場合、テナーバスであればF管を使った替えポジションを使うが、テナーだとスライドにヒモをつけて投げる。投げるって、何だよ? って、知らない人はお思いになるかもしれないが、本当に、スライドを投げるんだよね。で、戻す時は、ヒモを使って引き寄せる。
 そういう楽器で、いわゆるジャズのバップ風のジャズフレーズを吹くだとか、19世紀のオペラにあるみたいな半音階フレーズを演奏するだとか、何考えてんだ、って話ですよ。ところが、そういう譜面を書く作曲家がいて、それを演奏するトロンボーン奏者がいる。しかも、無理せずバルブトロンボーンで吹けばいいのに、なんて思うけど、わざわざスライドでやる。

 しかしなー、それがなー、カッコいいんだわ。
 もちろん僕には、自分で自分をカッコいいと思えるほどの腕前はないわけだが、しかし、上手い人の演奏は本当にカッコいい。他の楽器にももちろん凄い人っていうのはいて、その演奏を聴いてもカッコいいと感じるけど、トロンボーンの場合はカッコよさの次元が違う。なんであの楽器で、あのスライドで、その演奏ができる? J.J.ジョンソンの演奏なんて、それサックスなんじゃないの? って感じ。
 他の楽器でできるのは当たり前。それをあえて、不自由な楽器、トロンボーンでやる。スライドでやる。ハードルを自らあげて、すすんで壁にぶち当たっていく。その姿勢がいい。カッコよさ五割増しだ。

 あの域に達するには、どれくらいトレーニングすればいいんだろうなあ。ちょっと想像がつかない。そもそも、トレーニングで何とかなることなのか? という気さえする。いやしかし、トレーニング次第なんだろう。すげえや。

 それにしても、スライドっていうのは本当に不自由だ。操作のアクションは大きいし、音程は決まらないし。イントネーションの自由度が高いと言えば聞こえはいいが、目印も何もない(ホントは、目安ぐらいはあるけど)金属の筒を伸び縮みさせるだけで正確な音階を刻むのは困難だ。しかも、その操作は素早くなければならない。特に大変なのが、狙い通りの位置でスライドをピタッと止めること。中空構造であるとはいえ、あのサイズの真鍮の筒は結構な重さがあるので、僕の場合、「次のポジションは、ココ!」と狙い澄ましていても、オーバーランしてしまうことが多々ある。もちろん、オーバーランすれば狙ったとおりの音程は得られないわけで、演奏は音痴になってしまう。
 マウスピースのサイズがほどよいので、とっつきやすいイメージのあるトロンボーンだが、本当に熟達するにはかなりの努力を要する。しかし、だからこそ、バチッと演奏がキマるとカッコいい。そこには、不自由を乗り越える美学がある。

 さーて、練習しましょ。