笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

テナーバストロンボーンの、ちょうどよさ。

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 20代の頃に、僕は初めてトロンボーンを買った。
 どういう経緯か、フルート吹きの僕が小学生の金管バンドにかかわることになって、せっかくブラスにご縁を頂いたのだから、金管も吹こうと考え、トロンボーンをやってみることにしたからだった。ちなみに買ったのは、テナーバスのXeno。F管はトラディショナルラップだった。
 トロンボーンという楽器を始めようとする人はまず、楽器を手に入れるにあたって、テナー・テナーバス・バスのいずれにするかという選択を迫られる。この3つのトロンボーン、いずれもBb管である。これがね、トロンボーン初心者にとっては「は?」って感じなんだ。だって、例えばサックスだと、アルトはEb管でテナーはBb管というように、主とする音域によって調性が違う。ところがトロンボーンの場合、テナーもテナーバスもバスも、同じBb管で、しかも、オクターヴ違いですらない。全部、同じ音域の、同じBb管なのだ。なんで3種類に分けた? 意味分からん。
 しかし、吹いているうちに分かってくる、その3種類の違いが。
 トロンボーンの基本は、やはりテナーだと僕は思う。F管なしの、シンプルな構造による、ストレートな吹奏感とサウンドトロンボーンの本分である。吹奏楽でトランペットとトロンボーンのことを「直管」と呼ぶが、テナートロンボーンはまさに直管と呼ぶにふさわしいだろう。
 しかし、現代の吹奏楽やオーケストラの演奏現場で使用するにあたって、テナーにはいくつかの弱点がある。大きな弱点のうち、ひとつはチューバのMid-Fにあたるヘ音記号の五線の下にでるファの音より下が演奏できないこと、もうひとつはCやHの音を遠いポジションでとらなければならないこと。
 この弱点を補うために、管の途中にバルブをはさみ、F管を装着したのがテナーバスだ。
 バルブをはさみ、重量が増加することによって、ストレートな吹奏感と音色は多少、犠牲になる。少しでも音色をテナーに近づけるために、アキシャルフローバルブやVバルブが搭載されたモデルもあるが、もちろんバルブなしのテナーと同じというわけにはいかない。しかし、吹奏感と音色が犠牲になったとしても、F管搭載のメリットは大きいのだ。遠いポジションを回避するポジションどりが選べたり、早いパッセージをBb/F管切り替えによって吹くことができたり、チューバの音域を演奏できたりする。
 だが、F管のポジションはBb管より遠くとらなければならないので、特に低いH音など、テナーバスでは厳しいこともある。そこで、バストロンボーンの登場だ。バストロンボーンはF管意外にもうひとつバイパス管を備えることで、この問題に対処するだけなく、太いボアと巨大なベルを装備することで、堂々とした低音を奏でることができるようになっている。
 しかし、バストロバストロンボーンのこと)は、太いボアと巨大なベルのせいで、テナーの明るい音色を犠牲にしているとも言える。そのために、テナーやテナーバスの代用はできないと考えられがちだ。マウスピースも、大きなカップのものが用いられる傾向にある。つまり、バスパートに特化したトロンボーンである、ということ。
 あと、バストロは重い! だって、バイパス管がふたつあるんだもん。あの重量を左手だけで支えるのは、結構大変だ。ヤマハにはF管のみ装備した廉価モデルのバストロがあって、確かに少し軽いのだけど、なんつーか、あれはバストロなのか? っていう気もする。音色はそれなりにバストロだけどね。

 今、僕の手元にあるのはテナーである。F管なしの、シンプルなトロンボーンだ。僕はテナーが好きで、以前所有していたものもテナーだった。
 けど、今度吹奏楽の本番に乗ることになって、やっぱりテナーバスが必要だなと思うようになった。F管があることで、低いC音を1posiでとれるっていうのはデカい。6posi、やっぱ遠いのよ。そして、テナーだと7posiでとるH音が2+posiでとれるのがもっとデカい。今回演奏する曲にHはないがCは頻出していて、別にF管なくても吹けるからいいんだけど、テナーバスだったら楽だよなあって時々思う。
 C管化するバイパス管を備えたモデルがヤマハにあって、まああれも悪くない。しかし、どうせロータリーをかませることになるなら、F管の方がいいよね。C管モデルは、体の小さな小学生や、ジャズを中心に演奏する人が選ぶことがあるそうだ。僕は、体は普通の大人サイズだし、ジャズをやるなら今のテナーでいい。

 要するに、オールマイティなんだな、テナーバスって。これからもトロンボーンでお声がかかることがあるなら、やっぱりテナーバスが1本必要だ。今楽器に使えるお金はもうないし、今回の演奏会は今持っているテナーで行くので、すぐには買わないけど、ちょっと考えておこう。
 テナーバスをもし買うなら、細管がいいな。最初に買ったXenoが太管で、僕には吹きにくかったから。今のヤマハだと、YSL-456Gか、YSL-640か。バックの36Bもいいけど、うーん、ちょっと高い。性能面も考慮して、現実的なのはYSL-640かなあ。吹いたことあるけど、めっちゃ使いやすい。音響的な性能はXenoには劣るけど(Xenoが凄すぎるんだって)、何の問題もない楽器だと思う。でもまあ、買うとしたらアルトサックスの後だな。トロンボーンを吹く用事がまたあるようなら、順番は考えるつもり。