笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

YSL-354。

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 再び高校の先生からお誘いを受けて、吹奏楽部をお手伝いさせて頂けることになった。今度もサックスかと思ったら、次はトロンボーンだって。
 演奏能力はあるが、トロンボーン自体は所有していないので、高校からお借りするつもりでいた。しかし、演奏会までの期間が短く、リハビリの事も考えると、やっぱり手元に一本ほしいよなあ。
 金持ちなわけではないし、レギュラーで演奏する楽器でもないから、豪華な楽器でなくていい。とにかく、まともに吹ける楽器なら何でもいい。そして、できるだけ経済的負担が少ない方がいい。その高校の先生からオファーを頂いた日、出先からの帰りの電車の中で、ああでもないこうでもないと考えを巡らせながら、最良の選択肢をさぐっていた。ちゃんとした楽器なら、中古でもいいよね。そう思いながら、携帯をぽちぽちといじっていると、状態のよさそうな、ヤマハの最廉価モデルYSL-354の中古がひとつ、あった。

 これ・・・いいな。欲しいぞ。
 いや、待て待て、中古を買うのに、現物を見ないのは危険すぎる。この個体、どこにあるんだ? ええと・・・三宮? まーじか。このまま乗っていれば、すぐに行けるじゃん。
 中古は、誰かに買われてしまったら手が出せなくなる。時間との勝負。とにかくモノを見るだけ見てみようと考えて、お店に連絡もいれず、自宅の最寄り駅を乗り過ごして、三宮に向かった。
 お店につくなり、ネットでYSL-354の中古を見たのだけど、と申し出る。すると、管楽器担当のスタッフさんがすぐに出してくれた。

 きれいなYSL-354だった。状態は、非常にいい。
 もちろん使用感はある。しかし、嫌な使用感ではない。普通に演奏していれば普通につくような擦り傷が少々。スライドの動きは極上。スライドストッパーもいい具合。ヘコミ、ヘコミの修理痕はなし。管内の状態も問題なし。ジョイント曲がりなし。消耗品のコルク、石突きも、まだ新しい。信じられないくらいの美品だ。
 ちゃんとトロンボーンを吹ける人が、丁寧に扱っていた楽器に間違いないと思う。これは安心できる楽器だ。ヘンに新しすぎて「初期状態に問題のあった楽器」という印象はないし、「楽器の扱いに不案内な初心者が雑に使った個体」でもなさそう。価格は、定価の6割程度。適正価格だと思うよ。コンディションの良さを考えると、安いぐらいだろう。
 試奏できるというので、吹かせてもらう。よく鳴る! むしろ、ちょうどいい具合に固さがとれていて、これ新品よりいいんじゃん? ってくらい鳴る。最高だよ、この中古。

 買い、だな。即決しました。
 中古楽器との出会いは、一期一会だ。そして、欲しいものが、欲しいタイミングですぐに見つかる、ということは稀である。僕はラッキーだった。1年分の運を使い果たした気がするくらいに。
 いやホント、ヤマハの廉価モデルの、コンディションのいい個体って、本当に珍しいんですよ。そもそもヤマハのスタンダードの中古って、手放す人が少ない割に、需要は高い。そこへもってきて、「状態のいいやつ」っていう条件をつけると、もはや宝探し。
 中古のYSL-354、ウキウキしながらお家に連れて帰りました。

 試奏では、楽器に付属のSL-48Sを使ったのだけど、帰宅してから、使い慣れたストークでまた吹いてみた。
 僕は以前、カスタムのYSL-8510を吹いていた(今は、手放してしまった)のだが、さすがにカスタムの音色や吹奏感とは比べられない。カスタムに比べるとYSL-354は、反応が鈍いし、音色もモサッとしている。道具としてのポテンシャルの差は、歴然だ。けど、じゃあYSL-354が使いものにならないかといったら、全然そんなことはない。操作感は素直だし、ピッチもとりやすいし、音圧だってそれなりにあるし、楽器としての最低限の能力は十分。これが、ヤマハのすごいところだ。廉価モデルでも、大事なところには手抜きなし。素晴らしい。
 カスタムやXENOと並べて吹けば、そりゃあ聴き劣りするさ。でもそれは仕方ないでしょ? 最高の必要十分、それがヤマハのスタンダードだと僕は思う。
 個体の特性としては、そうだな、高音域に比べて中音域は鳴りが甘い。以前吹いていた人はジャズ系の人なんだろうなあ、第3倍音のMid-Fから下が、なんとなく、ヌケきっていない感じがする。高音をひょいひょい吹く人は、あまり使わない音域だろうからね、仕方ない。ここは、僕が育てていくとしよう。
 マウスピースだが、YSL-8510の時はストークのライトを使っていたのを、このYSL-354ではヘビーの方でいくことにした。スタンダードは管体の反応がカスタムほどよくないので、ヘビーでパワーをかけてやった方が素直に鳴る。強く吹きすぎて破綻させるようなことをしなければ、問題ないだろう。演目からいって、極度の弱音を要求されるような場面もなさそうだし。

 楽器は、これでOK、っと。じゃあ僕自身は、どうだ?
 スケールやロングトーンでしばらく吹き続けると、楽器を支持している左手が痛くなってきた。トロンボーンという楽器は基本、左手だけで楽器を支えるのだけど、片手で持つには結構大変な重さがあるので、かなり握力を使う。以前、ブリティッシュブラスで吹いていた頃にはもちろん、問題なく持てていた。しかし、それはもう10年以上前の話。近頃は、中学生を教える時にちょいちょいっと吹く程度だったので、かなり握力が落ちてしまったようだ。
 あと、以前はHi-Bb(第8倍音)、Hi-C(第9倍音)までは発音できたのに、出せなくなってしまっている。Hi-Gは安定して発音できるが、Hi-Asは辛うじて当てることが出来るだけ。それ以上は、打率が急激に下がる。アンブシュアも、鈍ったな、こりゃ。
 どれくらい練習時間を確保できるか分からないけれど、とにかくリハビリしなきゃね。以前はできたことを、またできるようにするだけだから、時間さえかければ、何とかなるだろう。僕が吹くのが、演目の1stなのか2ndなのか、まだ聞いてないけど、1stだったら、ちょっと頑張らないといけない。ま、やれるさ、多分。トランペットと違って、今まで出来なかったことを出来るようにするわけじゃない。何とかします、してみせます。

 トロンボーン、久しぶりに所有する。フトコロは傷んだが、テンションは上がった。やはり自分の楽器があるというのは、いいもんだ。そして、楽器は迂闊に手放してはいけない。本当にそう思う。
 さーて、練習しようっと。