笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

オールド・ヤマハ

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 吹奏楽部の中学生を教える時、そのタイミングで自分の持っていない楽器の子の場合、学校の楽器をお借りすることがある。生徒さんは大抵、新しいもの、グレードの高いものから優先して使っているので、僕がお借りするのは、古いもの、グレードの低いものだ。そういう訳で、僕は時々、「オールド・ヤマハ」とか「ヴィンテージ・ヤマハ」とでも呼ぶべきヤマハ製の管楽器に触れる機会がある。
 先だって、Jガード仕様のYTS-61を吹いた。言うまでもなく、62の前身にあたる古いテナーサックスだ。62の発売が僕の生まれた年だったと思うので、僕より年上ということになる。誰も使っていないのだけど、整備は行き届いていて、使われていないのがもったいないくらいの個体だった。Jガード仕様もそうだし、サムレストに白蝶貝が貼られているところなんか、現在主流の仕様のサックスとは違うところが面白い。その一方で、キィレイアウトのコンパクトさや音程のカッチリ感は現代のヤマハにも通じるものがある。
 今お邪魔している学校にはないが、以前行ったことのある学校には、NIKKAN(ニッカン→日本管楽器)製の楽器が保管されていたこともあった。何の楽器だったかは忘れたのだけど、フルートだったような気がする。「これ、使うの?」と生徒さんにきいたら、新入生の体験入部の時などに楽器が足りなくなると、緊急で使うことがあると言っていた。さすがに演奏可能と言えるコンディションではなかったが、それくらいなら問題ないのだろう。ニッカンはヤマハ管楽器部門の前身。耐久性の高さは、この時代からの伝統なんだな。日本の企業、日本の職人の、モノづくりに対する誠意が感じられる。誇らしい。
 僕は現在、トロンボーンを所有していないので、金管楽器の子を教える時は原則、学校楽器をお借りすることになる。楽器を借りる時には顧問の先生と生徒の許可をとってから、そのパートの生徒さんに、僕が使っていい楽器を選んでもらう。「テナーでいいよ」といつも言うのだけど、大抵、気を遣われて、テナーバスを出してくれる。
 現在使わせてもらっているのは、古いヤマハの細管カスタム。これ、本当にいい楽器で、高音から低音まで、かなりラフな息を入れてもきちんと鳴ってくれる。スライドもよく動く。買って自分のものにしたいくらいだ。なんで今のカタログにないの?
 でもこの細管カスタムっていうのはちょっとレアケースで、他の学校だとYSL-456GとかYSL-620を出してもらっていた。YSL-456Gはロングセラーモデルなので、いつの時代のものかは分からない。ゴールドブラスの細管デュアルボア仕様で、ロータリーが紐のタイプ。コンディションは良かったけどベルがベコベコだったから、あまり新しくはないだろう。YSL-620はプログレードの太管、ロータリーはボール式。いつの発売かは知らない。これ、素直でいい楽器だね。今の学校ではこの細管仕様のYSL-640を生徒さんが吹いている。ヤマハプログレードは、演奏性能・耐久性の両面から、学校備品として最高の製品だと思う。

 かくも高い耐久性を誇示するヤマハ製品なのだが、残念ながら、保存環境・使用環境が悪すぎて、「これは本気でイイ!」と喜べる個体に出会えることは少ない。まあ、僕がそういう楽器に出会う場所が基本、中学校だっていうのが原因ではあるけど、大事に使ってもらったキレイなオールドヤマハっていうのも、機会があれば見てみたいなあ。
 関東に住んでいた頃に所属していたオケに、ヤマハのハンドメイドシルバーのフルートに金メッキをかけた楽器を愛用している人がいた。とても気に入って演奏している様子だったので、多分まだお使いなんじゃないかなあと思う。今はご縁が遠のいてしまったので、お会いする機会はないけれど、あの楽器、今はどんな風に育っているのだろう。
 ああでも、僕の30年モノのYFL-311Ⅱも、もうオールドヤマハと呼んでいいのだろうか。自分の楽器が「オールドになっていく」という感覚がないので、全然考えたことなかったけど、30年も経っていればさすがに、オールドと呼んでいい気もする。

 今は、サックス以外で、古い楽器が注目されることのあまりないヤマハだが、今後は他の種類の楽器でもオールド熱があがってくるかもしれない。いいよ、オールド・ヤマハ。集めておこうかな。