笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

クラリネットのキィシステム

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 クラリネットを練習している。
 フルートと同じ「ベーム式」というシステムをもつクラリネット。しかし、名前に騙されてはいけない。運指はまるでちがう。あーいや、「まるで」とまでは言えないかな。でも、特に両小指と、上管のマウスピースに近いあたりの操作系は、フルートとはまったく別物だ。
 ベーム式とは何か、という話になってくるが、僕の意見では、ベームのアイデアで最も重要なのは「効率良く半音階を演奏できる音孔をすべて管に備える」ことだ。従って、その音孔を開閉するためのキィシステムは、副次的な発明である。なので、同じベーム式であっても、フルートとクラリネットのキィシステムが違うことは仕方がないことだと僕は思っている。
 おそらくはサックスも同じような発想で設計されている。極太の円錐管に、半音階を理想的なイントネーションで演奏できる音孔が並んでいるからだ。一般的な木管楽器で唯一、旧式な設計思想をひきずっているのはコンセルヴァトワール式のオーボエだろうか。あ、クラリネットのエーラー式もそう言えるかな。あれは、音程補正の音孔がいっぱいあいていて、効率的とまでは言えない気がする。改善ベーム式なんてのもあるけど、このあたりのマニアックな楽器の細かい事情までは、さすがに知らない。ご存知の方、教えて下さったら有り難いです。

 割と似通ったキィシステムを装備する現代の木管楽器のうち、フルートが最もシンプルだ。もしフルートに、クラリネットやサックスの低音域を演奏するための、あの複雑な機構が装備されたら、きっと重くて演奏しづらいだろう。いやそもそも、テーブルキィみたいなものを装備するスペースがないな。仮に装備できたとしても、管の振動を妨げ過ぎて、いい音響は得られないような気がする。
 でも、あのサックスのテーブルキィや、クラリネットの両小指で操作するキィは素晴らしい。本当によくできていると思うし、とても便利だ。特にクラリネット! ベル側の音孔を開閉するためのキィが、両手のいずれでも操作可能にするという発想! そしてそれを実現するための機構! あれ、フルートにつけてほしい。
 あーでも、どうかな・・・一応ね・・・長ーいシャフトをとりつけて、左手で足部管の音孔を開閉できるシステムも、あるにはあるのよ。僕も吹いたことある。あるんだけど、フルートの演奏において、あのキィが必要になる音域を頻繁に演奏するかと問われたら、実はあまり使わなくて、そして、そのあまり使わない音域のために、高い金を払ってそのキィとシャフトを取り付けるかと問われたら、やっぱり苦笑いしちゃうかな。
 演奏上の要求と、音響的なメリットと、コスト的な負担と、メカニカルなトラブルのリスクと、メンテナンス上の簡便さと・・・そういう様々なファクターのバランスの上に、楽器のシステムは進化していく。そして、ベーム式の木管楽器が普及し始めてもう100年以上経つわけだが、時間と歴史の淘汰をうけて、現代の楽器は出来上がっているのだ。そう言う意味では僕たちは、とても有り難い時代に生きていると言えるんじゃないだろうか。

 話はまとまらないが、要は、クラリネットの両小指で操作するキィはいいぞ、って話なんだ。フルートと違ってクラリネットの場合、ベル付近の音孔は頻繁に開閉するので、曲の流れによって右手でも左手でも対応できるのは、演奏の要求上、必要だったのだろう。


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 反対に不便だと感じるのは、左手人差し指で操作するラとラ♭(実音でMid-G,Gb)のキィ。あれ、なんであんな形になった? BbのスケールでG→Aと進む時に、えらく操作しづらい。多分、慣れればなんてことないのだろうけど、合理的だとは言えない動きを要求されるよね。歴史的な背景があるのだろうか。よく分からない。
 オクターヴ・・・というか、倍音の切り替えのところで、どうしても運指が複雑になるっていうのは、どの木管楽器にも言えることだ。運指操作を端っから放棄しているフルートはむしろ、合理的と言えるのかもしれない。サックスのオクターヴキィは実にシンプル。指をスライドさせるような動作も必要なく、よく工夫されていると思う。オーボエは、まあまあかな。真ん中のドの音を出すための動きに特徴があって、あれも多少慣れが必要。ファゴットはよく知らん。
 そしてクラリネット。運指も特徴的だが、形も面白い、ラのキィ。あのさ、ラのキィはこれでいいからさ、第一倍音のままでシとドまで出せる音孔を作ったら、いいんじゃないの? って僕は思うんだけど、どうだろう。つまり、第一倍音の最高音と、第二倍音の最低音を、オーバーラップさせて、冗長な設計にするってこと。そうするとさ、シとドの音を、どっちの倍音で出すかっていう選択をプレイヤーができるわけ。でさ、するとさ、第二倍音にスケールで進む時に、小指を使わなくていいじゃん。これ、ずいぶんラクだと思わない? 言ってること、分かるかなあ? 

 ・・・あー、いや、いらねえか。練習すりゃいいだけだな。
 練習に練習を重ねて、その楽器の操作系に慣れる。そうしているうちに、アンブシュアがよくなって、音響も改善される。そういうことだな。それも込みで、こういう操作系なんだ、きっと。うん、そう考えることにしよう。
 指と違って、時間をかけてじっくりと筋肉を育てないと、アンブシュアの筋力って獲得できない。だから、ちょうどいいんじゃない? 慣れの必要な操作系があって、そこんとこの技術的なハードルをクリアしていく過程で、身体的な順応が達成できる。フルートも、サックスも、トロンボーンも、そうやって僕は技術を向上させてきたじゃないか。クラリネットだって同じだし、トランペットも同じ。そういうことだ。

 しかし、クラリネットの操作系もなかなか、独特だよね。元がフルート吹きの僕はそう感じるのだけど、元がクラリネットの奏者は、フルートのシステムをどう感じるのかな? クラ吹きで、フルートにチャレンジする人がいたら、訊いてみたい。