笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

管楽器奏者の姿勢はどのようであるべきか

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 ですから、まず第一に重要なことは結局は公衆の前にはいてでることができるはきよい靴、第二に楽な立ち方です。

 

「フルートを語る」 ジェームス・ゴールウェイ著/吉田雅夫 訳 シンフォニア

 

 今遊びにいっている中学校の吹奏楽部の生徒さんたちは、演奏時の姿勢がとてもよい。季節に一度か二度ぐらいの頻度で、楽器ごとの先生のレッスンを受けているそうだ。特に、金管楽器の奏者の、マウスピースをおく位置と角度は素晴らしい。他校だと「それはさすがにおかしいし、吹きにくいでしょ」という吹き方の子が少なからずいるものだ。しかし、ここの中学校ではそういう子を見ない。やっぱり、きちんと指導できる人から時間をかけて指導してもらうと、違うもんだなあと感心する。
 話はかわって、近頃、近所の公園にサックスを練習しに来るお姉様がいる。子どもを遊ばせていたら何かの楽器の音がしたので見に行くと、そのお姉様だった。アルトサックスを吹いていらっしゃる。まだ寒い頃から定期的に練習しにきておいでなのは存じていたのだけど、なかなか上達しない。原因ははっきりしている。息が弱いのと、姿勢が正しくないせいだ。
 そのお姉様、あごが出すぎて吹き込みの角度がよくないのと、楽器を正しく支持できていないせいで姿勢が安定せず、ブレスもうまくいっていない。もう三ヶ月ぐらい通っているのを知っているのだけど、ちゃんと教わっていれば、三ヶ月もあればもうちょっと上達するはずなので、独学でやっていらっしゃるのだろう。
 独学で三ヶ月、あの状態のまま練習できるモチベーションには感心するが、初心者はやはり、一定の期間、きちんと先生についてもらって教わるべきだと思う。

 管楽器を演奏する時の、正しい姿勢ってなんだろう、ということを考える時に、僕はふたつの条件を挙げる。

①楽器が適正な音量で鳴ることと、そのための呼吸ができること。
②指がきちんと動くことと、楽器が固定できること。

 どちらも大事なのだけど、まず①から考えてみたいと思う。
 管楽器を鳴らすのは、息だ。従って、楽器を鳴らすための息がきちんと吐ける、その準備としてちゃんと吸える、ということが大事になる。息は、胸郭と横隔膜を使って肺に空気を溜めたり出したりして行う。そのために、上半身を柔軟に保つ必要がある。
 上半身を柔軟に保つためには、肩からみぞおちにかけての上体がリラックスしていなければならない。ここに余計な力みがあってはいけない。そのためには、腰から下の支えが確実である必要がある。立奏か座奏か、などの条件は色々あり、それぞれに脚の置き方や体の向きなどを変えることになるが、意識するべき要件を一点に収束すると、「腰骨がまっすぐ立っていること」というのが大事だと僕は考えている。
 どのような姿勢をとるにしろ、とにかく腰骨さえきちんと立っていれば・・・つまり、前後に倒れず、左右に傾かない格好になっていれば、まずよい姿勢と言っていいだろう。逆に言うと、腰骨が倒れた状態では上半身のどこかに必ず無駄な力みが生じる。経験から言って、これはほぼ間違いない。
 中学生でよく見るのは、腰骨が後ろに倒れた状態。立奏であれば、尻がへこんで恥部が前に出る姿勢、座奏だと背もたれに寄りかかった姿勢で、息が浅くしか吸えず、従って吐く息も弱い。反対に、前に倒れた状態だと、出っ尻になり、背骨が反る。これも、息が入らない。チューバの人に時々いる。チューバスタンドを高さを合わせずに使うと、前のめりの格好になって、腰骨が前傾しがちだ。
 批判されがちな姿勢に猫背がよくあがるが、腰骨の位置さえおかしくなければ猫背でも上達していく人がいるので、これは人による気がする。喉が折れずに、息の通るルートが確保できていれば、猫背でも案外問題ないと僕は考えている。肩凝りそうだけどね。

 次に②だが、楽器を構えた時に、キィの上で指が潰れている人を時々みる。いや、時々でもないな、中学生には結構な割合でいる。この指潰れ問題の原因はふたつあり、キィを押さえる力が強すぎる場合と、楽器の重量をキィにのせた指で支えてしまっている場合だ。どちらもよくない。
 強く押さえないと音がまともに鳴らない、というケースは、楽器に問題がある。キィを強く押さえないとタンポの気密が保てないのは調整不足だ。すぐ楽器屋さんに持っていってバランス調整をしてもらおう。そうすれば、指を潰さなければいけないほどの力は必要ないはず。
 楽器に問題がない状態で、なお指が潰れてしまうのは、楽器の姿勢を保つために、キィを操作する指を使ってしまっている場合だ。これは、ダメ。楽器は、操作系に関わらない指や体の部分で、しっかり支持できなければいけない。例えばフルートなら三点支持、アゴと両手の親指だけで楽器が転ばないように支える必要がある。右手小指にも、頼っちゃダメだよ。これ、できない初心者は結構多い。しかし、これができないと脱・初心者はできない。

 で、ここで①の問題に戻る。
 上記の問題をクリアして、リラックスした状態で楽器を持ち、呼吸をすることができるようになったら、今度はブレストレーニングを行わなければならない。
 楽器を演奏するのに使う息は、通常の生活で使う息よりも、スピードと圧力のコントロール幅が大きい。特に、スピードが早くて圧力の高い息の使い方をしっかり覚えないと、楽器をきちんと鳴らすことができない。もちろん、ただ単に早ければいい、圧力が高ければいいというものでもない。しかし、楽器の要求する最低限のスピードと圧力が稼げる力があることはマストで、そのためには多少、トレーニングが必要である。
 どんなトレーニングをすればいいのかというと、それはもう、ただひたすらにロングトーンの課題だ。他に方法はない。
 初心者にありがちな現象として、とにかく音さえ出ればいいという考え方をしているのか、音をひとつずつ、一秒にも満たない時間吹いてやめてしまうことを繰り返す、というのが挙げられる。これね、ものすごく効率悪い。せっかく発音できたのなら、そのままできるだけ長く伸ばしてみるといいよ。音程とか音色とかはちょっと忘れておいてさ、とにかく長ーく伸ばすことだけ考える。ピッチや強さがゆれるのは、一旦無視。長く伸ばすのを心がけているうちに、自然と息が鍛えられてきて、いい音でロングトーンできるようになるから、ね。

 何事にも基礎は大事。それを、楽器を始めた時にはなるべく早い段階で、適切な指導を受けて知っておくのは、すごくいいことだと思う。