笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

サックスのG#キィについて思うこと。


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 アルトサックスが欲しい。
 あーもうね、もう喉から手が飛び出している。下を見ると、鼻先のむこうに、中指の先が見える。アルトサックス欲しい。
 欲しいっていうか、必要。何に必要かって、やっぱりアルトサックスの学生を教えるのに、音域的にも音色的にも、テナーでは限界がある。読み替えもめんどくさい。3度くらいまでの読み替えだと何とかなるのだけど、アルトをテナーで読み替えると4度の開きがあり、4度とか5度の読み替えって、僕にはホントに難しい。実音経由で読み替えるっていう手もあるけど、EsからC、CからBbという2ステップ必要になるから、これもめんどくさいし、難しい。あーアルト欲しい。

 学校の楽器借りればいいじゃん? って思うだろうけど、いい楽器(グレード的にもコンディション的にも)は生徒さんが使っているので、僕が借りられる楽器はコンディションの悪い、古い楽器になる。グレードが低いとか古いっていうのは別にいいんだけど、コンディションが悪いのは困る。まともに吹けない楽器では、いいお手本にならないし、多分生徒さんも、「こいつは何が吹きたいんだ?」ってなるだろう。

 サックスという楽器のバッド・コンディションにもいろいろ種類がある。管に破損があるとか、タンポの気密が甘いとか、動かない、とか。そういうのは問題外なのだけど、その一歩手前で、G#キィの動きが悪い、っていうのがよくある。
 タンポのべたつきやスプリングのヘタリが原因で、G#のキィの動きは悪化する。最悪、G#のレバーを押下げてもキィが開かず、G音しか出ない。しかし、むしろ開かない方が「これはダメ」ってはっきり分かるのでいいかもしれない。一旦開いたけど演奏中にまた開かなくなるとか、レバーの押し下げから0.5秒ぐらい経って開く、なんていうパターンがあって、これには非常に困る。

 この現象、フルートやクラリネットでは起こらない。トーンホールが水没(トーンホールが水分の表面張力で開かなくなる現象)してしまった場合は別だけど、フルートのGisキィやクラリネットのCis/Asキィ(左手小指で操作する上管のトーンホール)はレバーとキィが機械的にダイレクトに連結されているからだ。これは、シンプルだが確実にキィの開閉が行えるので、メカニカルなトラブルを予防する観点から言えば、いいシステムだ。
 反対に、サックスのG#キィの機構はかなり複雑である。なぜなら、キィを閉塞するスプリングと解放するスプリングが複数取り付けられていて、それらのスプリングの力のバランスによって開閉のステータスが決まるからだ。つまり、サックスのキィに人間の手が触れない場合、原則G#キィは解放されるのだが、左手薬指のGキィが押下げられるとそれに伴ってG#キィ閉塞される。しかし、Gキィ押下げの操作が行われている時にテーブルキィのいずれかが押下げられると、Gキィに付随してG#キィを下げているレバーが上がり、原則解放する方向にかかっているのスプリングが有効になってG#キィが開く。
 このように、サックスのG#キィの動きを言葉で説明してみたけど、サックスを演奏したことのない人には多分「何のこっちゃ?」って感じだよね? まあとにかく、Gキィを押し下げた時は人間の指によって高いトルクがかるが、それ以外の状況では細い針のようなバネによる弱いトルクのバランスによってG#キィのステータスが決まるので、サックスのタンポやスプリングの発生するトルクのバランスに異常が生じた場合、正常な動作が難しくなる、ということと、その複雑な機構のためにサックスのG#キィの動作にはトラブルが生じやすい、ということをご理解いただきたい。

 まあね、よくできた仕組みではあるんですよ。
 しかし、故障のリスク低減だとか演奏の確実性っていう観点からみると、どうだろう? 僕は、もうちょっとシンプルでいいから、トラブルの起こりにくいシステムにして欲しいかな。
 サックスのテーブルキィって、G#だけじゃなくてC#、B、Bbのキィが並んでいる。実はこの4つのキィのどれを押下げても、G#音って出るんだよね。これって、どうだろう、本当に必要なシステムなのかな? G#音にはG#のキィがちゃんとあるんだし、わざわざ連動させる必要ないんじゃないの? って僕は思う。
 シーソーシステムもそうだよね。今あげた4つのキィは、小指をスライドさせて操作するのがやりやすいように傾くようになっている。これもなー、フルート吹き的には「そんなもん、慣れればいいでしょ」って感じだよなー。テーブルキィにはローラーもついてるんだし、シーソーはいらないんじゃないの? そりゃあ、あれば便利だよ? けど、例えばBbからC#へ動くとしてさ、この動きっていつ使う? in Dのハーモニックマイナーの時と、アラビアンスケールの時? その動きのある曲って何? たくさんあるの? 僕はその動きのある曲に一度も出会ったことないよ? 
 ひょっとしたら僕が無知なだけで、実はその動きを正確・確実に要求される演目っていうのがたくさんあるのかもしれない。だったらごめんなさい。 しかし、そうだとしてもやはり、僕はメカニカルなトラブルのリスク低減を優先させたいかな。サックスという楽器は素晴らしいけれど、ちょっと複雑すぎるように思う。

 だってさー、サックスの見た目の、スチームパンク感すごいもんね。比較的シンプルに見える100年くらい前の楽器でさえそうだもん。現代の管楽器はどれもスチームパンク感あると思っているけれど、木管の中ではやはり、サックスが特別にメカ×2している(金管だとトリプルのホルンとか6ロータリーのチューバとかコンペのユーフォとか)。
 フルート吹きの場合、この複雑さが嫌になると、古典フルートやトラヴェルソに逃げるという方法がある。僕も両方吹くけど、1キィのトラヴェルソの軽快感は素晴らしい。クロスフィンガリングの面倒くささはあるものの、楽器自体のシンプルさに、何だかほっとする。音色もやわらかい。
 しかし、サックスには古楽器がない。生まれた時からあのフランキーな姿。
 サックスの場合は反対に、未来の姿といえるウインドシンセの方がシンプルな見た目をしているよね。特にタッチセンサー式のEWIとかエレフエの見た目はシンプルだ。背面には細かい調整を行ういろいろなインターフェイスがあるけれど、音階を演奏するための操作系は実に単純。好きだ。

 まあ古楽器だのウインドシンセだのの話は余談だとして、とにかくサックスのG#キィは、何らかの技術革新によって、トラブルフリー化が図られてもいいんじゃないかと思っている。
 ヤナギサワさんなんか、こういう機構の開発が得意そうだけどね。サックスの新機構に関する特許をいくつもお持ちのようだけど、どうだろう、G#キィの画期的な新機構を開発したりはしないのだろうか。ヤナギサワって、低音キィのダブルアームや、キィのブレ止め機構みたいに、今までの国産サックスになかったメカを装備した最新鋭のサックスを作っているイメージがある。ヘビーモデルに搭載されているアンダーネックタイプのオクターブキィの造形も美しい。音色も好きだよ。ヤマハセルマーに比べて、木管らしいやわらかさがある。それを好まない人もいるようだが、僕はいいと思う。だって、サックスは木管楽器だし。
 そうだなー、アルトサックス買うならヤマハのYAS-62ってずっと思ってたけど、ヤナギサワを検討してみてもいいかもしれないね。ブロンズブラスの音色も好きだ。試せる機会があったら、吹いてみたい。
 あー、アルトほしい。