笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

楽器演奏者の体

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 ここ二ヶ月ほど、テナーサックスを週に二、三度吹いているせいか、右手の親指が痛む。ここには楽器のサムフックを乗せるのだが、テナーサックスの重量は3kg以上あるので、結構負担がかかる。タコもできかかっている。もっと熱心にサックスを吹き込んでいるプレーヤーは、ここにできるサックスだこの硬さや大きさを競うらしい。大きくて硬いほど、プレイしているというわけだ。

 楽器というものは、人の体を少なからず変形させる。
 僕は中学校に吹奏楽を教えに行っていて、何人かの先生とご一緒させて頂いたが、学校の音楽の先生は「ピアノ出身」と「声楽出身」のいずれかが多い。そして、このどちらかを見分けるのは非常に簡単で、先生の手を見ればよい。ピアノ出身の先生の手は、間違いなく「ピアノの手」をしているからだ。
 どの程度の経験があるかにもよるが一般に、ピアニストの手は薬指と小指が太い。そして、広げた時(じゃんけんのパーの手にした時)に親指と小指の開きの角度が大きい。あと、上着をお召しだとわかりにくいが、腕と肩のつくりが全体の体格に比してゴツい。このポイントに注目すれば、ほぼ確実にピアニストを見分けられる。

 楽器ごとの体の特徴というのは必ずあって、右手に比べて左手が大きいのは弦楽器奏者(ギター、バイオリン等)、スティックだこのあるのはパーカッショニスト、といった具合だ。管楽器奏者には、木管楽器であれば右手親指のたこや変形がある。金管楽器の奏者には比較的、体格の変形が見つけにくいかな。でも、ホルン奏者の右手のベルを支えるところはちょっと平らになっていたりするから、全然ないわけじゃない。

 そういう訳だから、主に木管楽器を演奏する僕の手も多少、変形がある。フルートを支持するための左手人差し指の付け根と、右手親指の右側面にはへこみがあるのだ。ちょっと見ただけではわからないけど、触って左右を比べると違いが分かる。そして、サックスを練習中の今は、右手親指のへこみの手前にたこもできかかっている。それが、ちょっと痛い。

 この変形が、アザやたこぐらいで済めばいいのだけど、首や背中の骨、筋肉に影響しはじめると、ちょっとやっかいだ。元々の体格や演奏のクセにもよるが、楽器というものはそれなりに重量があったり、支持するために通常の生活ではとらない姿勢が必要になったりするので、無理をすると痛みや怪我につながることがある。フルートなんて、その重さはたかだか4、500グラムなのに、腱鞘炎や首の痛みの原因になることがある。幸い、僕はそういう故障と無縁で音楽生活を送ってきた。でも中学生なんかが、初心者なのに無理して何時間も吹き続けて、体を痛めるという話は時々ある。無理は禁物だ。

 そういうわけなので、近頃は「ちょっと物足りないかなー」ぐらいで練習をやめることにしている。もし怪我をしてブランクができてしまったら技術は後退するのだから、演奏はほどほどにして体を労るっていうのも、練習のうちだと僕は思う。