笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

ヤマハ・シンセティックリードは、お守りリードだ。

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 年末、何年かぶりにサックスをきちんと吹いた。
 それまではきちんと吹いていなかったのか? と問われたら、顔を赤らめてうなずくしかない。なら吹かなきゃいいのに、という程度にしか吹かなかった。
 しかし、それでもある程度吹けてしまうのがサックスの恐ろしいところであり、またすごいところでもある。例えば、金管楽器ならこうはいかない。トランペットなんて、数年あけたら確実に吹けなくなる。アンブシュアの筋力が落ちてしまうのだ。もちろんサックスを吹くためのアンブシュアだって、数年あければグズグズになってしまうけど、サックスは息さえ入れば割と鳴ってしまうので、多少は吹ける。だから恥をさらしてしまう。

 僕は基本、フルート吹きなので、サックスはパートタイムだ。サックスに用事のある時にだけ、ちょっぴり吹く。だから、サックスを吹くための筋力はほとんどない。一時期、集中的に練習していた時代の貯金を切り崩しながら吹いている。今はもうその貯金も、ほとんどない。
 なので、サックスを吹く時には、樹脂リードを愛用している。
 寿命の長さと、コンディションの安定度について言えば、樹脂リードは蘆のリードを完全に圧倒している。僕がテナーサックスに使っているのはレジェール・シグネチャー。長期間使うとさすがにコシがぬけてくるが、普通に演奏している限りにおいては致命的なダメージを蓄積することは、なかなかない。いつだったかネットの記事で、限界を超えて使い続けるとマウスピースのレールのあたりに接触する部分がささくれてくる、みたいなのを見たことがあるけど、僕のは10年使ってもまだ、そんなダメージはない。

 ところで、僕が十数年前にサックスを始めた時に、一番最初に買った楽器がアルトだった。ヤマハのYAS-62で、2年弱吹いてテナーに切り替え、そのアルトは欲しいという知り合いに譲った。
 アルト自体も、その周辺のモノもほとんど処分したけれど、アルト用のマウスピースとリガチャーをひとセットだけ残していて、こうやって中学校に教えにいくようになってからは時々持ち出し、学校楽器のアルトにセットして使っている。別に、学校楽器に付属の4Cを使ったっていいのだが、やはり慣れたマウスピースの方が吹きやすい。ちなみにアルトのマウスピースはバンドレンのV16である。メイヤーのレプリカのようだが、材質のせいか、メイヤーより少しくっきりした音が出るので気に入っている。

 で、マウスピースはそれでいいのだけど、問題はリードだ。
 楽器を持っていた時には、トラディショナル(青箱)の2半を常備していた。しかし、サックスのメインがテナーになり、アルトのボディは人に譲ってしまったので、アルトはテナー以上に吹く機会が少ない。ほとんどないと言ってもよい。どうしても子どもにまじってアルトを吹きたい時にだけ、アルトを借りて吹く。
 少し前までは、一枚だけアルト用のトラディショナルをテナーのリードケースに入れていた。しかし、さすがに古くなってへたったので、捨ててしまった。
 それからは、ばら売りのトラディショナルを何枚か買って、吹く機会がある度に封を切っていたのだが、「これは当たり」というリードになかなか巡り会えないし、育てるほど吹きもしないので、なんとかならないかと悩んでいた。
 もうテナーには樹脂リードを使っていたので、アルトにも買おうかと考えたことはある。しかし、ほとんど吹かないアルトのために、テナーと同じレジェールを買うのはためらわれた。レジェール・・・ちょっと高いんだよね。アルトだと4000円くらいだろうか。半年に一度吹くかどうかというアルトのために、4000円の投資はちょっとなあ。
 そんな風に、結構長い間、僕は悩んでいた。悩んでいるところに、朗報が訪れたのは、昨年のことである。なんと、天下のヤマハが、待望の樹脂リードの販売を始めたのだ。
 その名も、シンセティックリード
 写真で見た感じは、ファイブラセルみたいな色あいで、合成繊維を樹脂コーティングしたタイプのように見えたが、どうも違って、そういう色の樹脂のようだ。うーん、この手のリードの製法に詳しくはないので、間違ってたらごめんなさい。でも多分、射出成形か何かなんじゃないかと思う。驚くべきは、その価格。アルトだと2000円を切る廉価なのだ。これって、リード価格の高騰に悩むサックス・クラリネットプレイヤーの救世主なんじゃん? 気になる、気になる。

 近所にある楽器屋さんに相談してみたら、試奏をさせてもらえるということだったので、楽器をもって伺った。
 欲しいのはアルトのリードだが、僕の楽器はテナーなので当然、テナーのリードを試した。雰囲気だけわかればそれでいい。
 吹いた感想は、そうだな、トラディショナルの、ちょっとティップの厚いやつって感じ。音色はトラディショナルっぽい。でも、息に対する反応は少し鈍い。少し・・・あー、いや、だいぶ鈍いな。繊細な吹奏感ではないぞ、どっちかというと、野暮ったい。
 でも、ちゃんと鳴る。音が出る。うん、きちんと吹けば、それなりに吹ける。悪くないんじゃない? 遠鳴りするとか、レンジが広いとか、そういうことを問題にしないのであれば、これで十分だよ。フルートでいうYFL-212とか、サックスならYAS-280みたいなものだ。このリードってつまり、ヤマハお得意の、すごくちゃんとした「これでいい」だな。

 よし、買いだ。
 今のところ、ハイアマ以上のレベルでの要求に応える製品ではない。しかし、僕みたいに「とりあえず一枚」だとか、ヤマハが謳うように、リードの選び方を知らないビギナーが初めての一枚にするには、最適だろう。
 ヤマハはこのシンセティックリードについて、320時間(約8ヶ月間の演奏に相当)の耐久試験を行って問題ないことを確認しているようだ。樹脂という素材の特性からいって多分、それ以上に使い続けても問題ないだろう。なんなら、三年間これ一枚でいけるんじゃん? まあ、ある程度上達したら生リードにレベルアップするだろうから、本当に使い続ける人はいないだろうけど。あーでも、このリードを使わなくなったとしても、リードケースに一枚これいれとけば、コンサート直前にうっかり本番リードを割るようなアクシデントに見舞われた時に、無駄に不安がらずに済むんじゃない? 「あ、昔使ってたアレ使おう」って、そういうことができるじゃない。プラなら、傷まないしね。お守りみたいなもんだ。

 シンセティックリード、僕はいいと思う。ヤマハの言うとおり、初心者の人にこそ薦めたい。やっぱねー、時代は樹脂リードだよ。生リード高いしさ。このシンセティックリードが売れたら、ヤマハももっと本腰いれてプロユースの樹脂リードの開発してくれるんじゃない? だよね、ヤマハさん?