笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

ダダリオの樹脂リード、VENN

f:id:sekimogura:20230624213511j:image

 

 生リードが高すぎる。
 木管楽器に使う、ケーンでできたリードの話だ。僕がサックスを始めた頃の倍以上の値段にまで跳ね上がっている。もう、気軽に買ってバンバン使い捨てることのできる価格ではない。テナーのリード、五枚入りを一箱買うお金で、牛丼が五杯以上食べられるんだよ? リード一枚が、牛丼より高いんだよ? 信じられねえ。
 そんな、懐事情に余裕のないリード楽器奏者の救世主が、樹脂リードだ。
 樹脂リードも決して安くはないが、生リードとは耐久性が段違い。半年~数年使える。だからランニングコストで考えると、十分の一近いんじゃないかな。これはもう、樹脂リードに乗り換えるしかないっしょ。そういう訳で、僕は樹脂リードを愛用している。
 僕の使っているのは、レジェール・シグネチャー。まあ、樹脂リードを使う人は大抵、試したことがあるんじゃないかな。反応がよく、音量もそれなりに出る。音色も悪くない。アタリの生リードには敵わない部分もまだ多いけど、安定性も考えると、レギュラーのリードとして十分使用に耐える。プロの愛用者も多いようだ。
 僕は現在、樹脂リードのレジェールと、生リードのバンドレンZZを併用する生活を送っている。しかし、先だって気になるリードを見つけた。それは、ダダリオの樹脂リード「VENN」。
 ダダリオ・・・昔はRICO(リコ)と呼んだ。それがいつの間にかブランド名を変更し、ダダリオとなったようだ。ベース弾きの友人に「ダダリオっていうブランドがあって・・・」と話すと、「なんで急に弦の話?」と首をかしげられたので、ギターやベースの弦のブランドとして元々存在していた会社なのかもしれない。僕は以前、リコのジャズセレクトを愛用していた時期があって、今でも3Mが数箱ストックしてある。リコのリードは、ダークで鳴りが太いイメージがあるけど、VENN、どんな音なんだろう。ちょっと気になったので、試してみる気になった。

 入手したのは、テナーサックス用の2.5。
 VENNの硬さは、バンドレンの青箱(トラディショナル)と同じと考えていいようだ。僕の使っているZZの3が、青箱2.5相当である。お店でVENNの3を試奏できたのだけど、3では確かに重かった。で、2.5は在庫がなかったので取り寄せてもらった。

 すぐに届いたので、さっそく吹いてみる。いつも使っているZZでまずウォームアップし、それからVENNに取り替えた。箱から出してリードに触った感触は、重い。なんだろう、数グラムの差だと思うのだけど、重量があるな。厚みもある。後でレジェールと比べてみたのだけど、リガチャのネジがレジェールより早く締まる。やっぱり厚いみたい。
 それから、音階を吹いたり、フレーズを吹いてみたりした。
 VENNは、高音と低音の発音性がいい。少し深めにマウスピースを咥えて息を入れると、よく反応するし、しっかり鳴る。ひょっとしたら生リードより鳴るんじゃん? しかも、暴れない。特に低音なんかいい音してるよ。ただ、弱音側の限界は早いかもしれない。息を細くすると、音色が曇る。
 そう、音色・・・ややダークな音色は、ジャズセレクトに通じるものを感じるなあ。懐かしい、これはリコの音だ。ずっとバンドレンとレジェールばかり吹いていたので、新鮮さも覚える。面白い。
 しかし、中音域は、なんだかひとクセあるぞ。低音・高音に比べると、鳴りが細く、しかもオクターヴキィに対する反応が悪い。中音・右手が、なぜか低音側に裏返りやすい。まあ、おろしたてのリードなので、吹き込んでいくうちに安定するのかもしれないな。レジェールも、おろしたては少し吹奏感に重さがあり、馴染ませていくうちに反応速度があがってくるから、そこは同じなのかもしれない。分からんけど。

 全体的な印象として、VENNは、生リードとレジェールの中間って感じ。音色・音量や吹奏感、どれをとっても、ちょうど間ぐらい。
 どこかで見た誰かの記事で、「樹脂リードに移行したいけど、レジェールは苦手」って人にはVENNがよさそう、みたいなことを書いてたけど、僕もその意見を支持する。そうだね、レジェールには確かに、レジェール独特の音色や吹奏感があるからなあ。もうちょっと生リードっぽい吹奏感が欲しい人には、いい選択肢かもしれない。
 僕はアルトサックスのヤマハ・シンセティックリードも持っているけど、レジェールと比較して、VENNはヤマハの方に近いかもしれない。ヤマハにも、生リードとレジェールの中間的な印象がある。
 じゃあ、ヤマハとVENNの違いは? って聞かれたら、まず価格、そして音色だよね。ヤマハの方が圧倒的に安い。半額以下なんじゃん? 音色のことを言うと、鳴りの太さではVENNに軍配があがるだろう。息に対する反応の早さも、VENNの方が上手かな。あとは、楽器との相性と、好み。僕の楽器(テナー)には、ヤマハがしっくりこなかった。もしヤマハが使えるなら、あの値段なので、もちろんヤマハを使いたかったのだけど。でもまあ、全体の傾向としてはよく似てるよね、ヤマハとVENN。

 VENN、いいんじゃない? しばらく使ってみよう。ヤマハが僕のテナーにあわなかったという経緯があったので、もしVENNもフィットしなかったらどうしようと危惧していたけど、そういう感じではなかった。樹脂リードも使ううちに変化していくので、使い込んでみれば中域の鳴りも改善するかもしれないしね。
 まあとにかく、生リードが高すぎるんだ。僕としては、今手元にある生リードのストックがなくなったら、完全に樹脂リードに移行する気でいる。今度クラリネットも手に入れるしね、消耗品はできるだけ安くあげたい。

 僕の周囲はまだ生リードを使うプレイヤーばかりだけど、樹脂リードしか使わなくなった人も世間には多いようだ。リードの材料となるケーンの、資源枯渇の問題は随分前から言われているし、リード楽器のリードが人工素材へと移行していくのは、必然の流れだと思う。樹脂リードが本格的に流通し始めてから15年ぐらい経つんじゃないかと思うけど、これからもっと増えていくだろう。
 正直、演奏性能的なことを言えば、今のところ樹脂リードはまだ生リードには敵わないっていうのは事実だ。特にダイナミクスレンジの幅や、音色のコントロールの自由度の高さは、樹脂は生に全然及ばない。でも、ユーザが積極的に樹脂リードを選ぶことで、メーカーも研究・開発に注力できるようになるだろうし、そうすればより生リードに近かったり、ひょっとしたら生リード以上の性能を発揮する樹脂リードだってできるかもしれない。
 そういう訳で、VENNしばらく使います。レジェール、ZZと併用という形で。
 ところで、樹脂製のZZって出来たりしないのかな? JAVAでもいいよ。密かに期待しているのだけど、バンドレンさんは樹脂リード、作らない? 作る・・・よね?