笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

フレキシブル編成のアンサンブル

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 教えに行っている中学校の生徒たちが、小編成のアンサンブルに取り組んでいる。吹連主催のアンサンブルコンテストに出るのだ。先だって校内選抜のオーディションがあり、出場の3チームが決まった(コンテストには一校あたり最大3チームまでエントリーできる)。ガンバレ。
 校内選抜にもれたチームも、校内の発表会でアンサンブル演奏を披露するので、アンサンブルの練習は続けることになるようだ。ここで、目指すものがあるチームとそうでないチームに分かれてしまうと微妙な空気が漂うところだけど、目先の目標がとりあえずあれば、そういう心配はなさそうだ。部活の年間スケジュールというのは、よく考えられている。どっちもガンバレ。
 僕は小規模のアンサンブルが好きだ。聴くのも演奏するのもいい。今はオケで演奏してばかりなので、そういう小さな合奏をする機会がなくなってしまったけど、横浜に住んでいた頃には仲間を集めて、ダンツィだのライヒャだの、よく演奏したものだ。チャンスがあればまたやりたいと思う。しかし、家のことも何かと忙しいし、オケの曲の練習だって十分にできないのだから、今は無理かな。

 

 中学校に出入りするようになって、フレキシブル編成とか、フレックス編成などと呼ばれるアンサンブルピースがあることを知った。
 通常クラシックの曲は、どのパートをどの楽器で演奏するかが厳密に指定されている。楽器はそれぞれに音域や音色が違うので、異なる楽器で演奏することは困難だったり、もし技術的な問題がなかったとしても音色が違うと曲の印象が変わってしまったりする。バロック以前には、音域さえ合えば指定とは異なる楽器で演奏することもあまり問題視されなかったようだが、古典派以降、「これはバイオリンの曲、これはフルートのパート」みたいに固定化が進んだみたいだ。だから、遊びでちょろちょろっと吹くだけならともかく、ちゃんと人前で演奏するにあたっては、ダンツィの木管五重奏のオーボエパートをフルートで演奏するなどという方法はとらない。
 演奏習慣の問題だけど、このルールは結構厳密に守らねばならないとみんな考えているらしく、演奏楽器を勝手に変更すると「作曲者の意図を損なう行為だ」と非難される場合がある。だから、古典派以降の曲は現代の作曲家の作品に至るまで、原則、指定された楽器で演奏されることが要求される。
 しかし、そんなことを言っていると、編成に偏りのあるスクールバンドの生徒がアンサンブルをしようとする時に、「この曲をやりたいけど、うちのバンドにはオーボエがいないからできない」みたいな事態が発生して、チャレンジできるレパートリーが極端に少なくなってしまう。だから、「そのパートを演奏する楽器に幅をもたせれば、編成に偏りのあるスクールバンドでも演奏が可能になる」という発想から生まれたフレキシブル編成のアンサンブルが必要になるわけだ。
 フレキシブル編成であれば、Bb管トランペットの音域の楽譜を、コルネットで吹いてもいいし、クラリネットやソプラノサックスで吹いてもいい。ユーフォニウムの音域の楽譜なら、トロンボーンでも演奏できるし、テナーサックスだって大丈夫。つまり、音域さえ同じであれば、楽器は何だっていいってことだ。素敵じゃん。
 もちろん、音量や音色のバランスは、実際の編成に応じて調整しなければいけない。でも、「何はともあれ、今ここにある楽器と奏者で演奏できる」っていうのは素晴らしいことじゃないかな。僕はそう思う。音楽は、演奏されてナンボだ。

 でね、このフレキシブル編成のアンサンブルの音楽の中身、要求される技術水準があまり高くないので中高生向けのお手軽なヤツみたなイメージでいたのだけど、聴いてみてびっくり、とてもいい。お洒落な和声が使われていたり、凝った構成になっていたりと、なかなか侮れないのだ。
 これ、中高生だけに演奏させておくのはもったいないよ。アマチュアの大人もやってみればいいのに。動画投稿サイトにムービーが上がっているのはちょいちょい見かけるけど、生のコンサートのチラシに演目でリストアップされているのはまだ見たことがない。著作権の問題もあるんだろうな。でも、やればきっとみんな聴きに来るよ。それこそ、「アンコンでこの曲やるんです」っていう若い演奏家は、聴きたいんじゃないかな。うん、やってみればいいのに。

 クラシックの演奏会でピックアップされる音楽は、著作権がとっくに切れているような昔のヨーロッパの作曲家(教科書に載ってるような巨匠!)の作品がどうしたって中心になるのは仕方がないけれど、今生きて活動している作曲家の作品だってもっと注目されてもいいはずだと、近ごろ僕はそう思う。