笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

スタンダードクラスはヤマハの良心

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 6月末から7月中頃にかけてどうにも体調が悪く、しばらくまともに楽器を吹いていなかったのだけど、近頃少し持ち直してきたので、久しぶりにちゃんと楽器を吹こうと考えた。こういう時、以前であればカラオケボックスに入って吹いていたのだけど、なんだか広々したところで吹きたい気持ちになったので、ポートアイランドの北公園に行くことにした。しかし、総銀の楽器を潮風にさらすのはどうだろう。そう思って、中学校の時に使っていたヤマハのスタンダードを押し入れから出してみた。

 僕のヤマハは、YFL-311Ⅱという、確かまだスタンダードが国内生産だった頃のもの(多分)。頭部管だけ銀製の楽器で、キィがポイントアーム式ではない、古い設計。大学生の頃に一度オーバーホール、その後、何かのタイミングで2,3回調整を行っているはず。何か非常事態の時にしか出番のない楽器だが、非常事態というのは時々あるもので、数年に一度、使っているような気がする。今回は非常事態ではないが、せっかく持っているのだからいつ吹いたっていい。そういうわけで僕は、ヤマハをリュックにつめて自転車にまたがった。
 酷暑の晩夏であるが、神戸大橋を渡ると海風が気持ちいい。街中にいるよりずっと涼しい感じがする。自転車で島に渡った僕は、橋の下の日陰ででヤマハを組み立てた。

 ヤマハのスタンダード、相当久しぶりに吹いたけど、いいな、この楽器。よく鳴る。スタンダードに特有のそば鳴り感は否めないものの、全音域バランスよく響く。キィタッチはちょっと甘めか。調整すればよくなるかな? Cisのピッチが高いのはヤマハのフルートすべてのグレードに共通する特徴。この設計はわざとらしい。フランス人の好みにあわせたんだってさ。へえ。
 フルートに限った話ではないが、ヤマハのスタンダードグレードの楽器には、ヤマハの良心を感じる。素晴らしい。この値段で、ちゃんとした楽器が買えるっていのは、本当に有り難いことだ。

 ちゃんとした楽器・・・というものについて、色々な考え方があろうが、僕はこういう条件を求める。
 第一に、合奏で使用できるピッチとイントネーションが実現されていること。
 第二に、頑丈であること。
 第三に、全国どこでもメンテナンスを受けられるサービス体制が整っていること。

 音が出る、とかいう当たり前すぎることに加えて、以上の三つの条件を満たしていれば、まあ楽器としては合格点だと僕は思う。「こんな条件、当たり前でしょ」と思う方もいらっしゃるかもしれないが、少なくとも一昔前のアジア生産の輸入楽器では当たり前じゃなかった。

 ヤマハをはじめ、国内大手メーカーの楽器であれば、この条件はクリアしている。その上で、同じグレード同士で比べた時に、一番廉価なのがヤマハだ。国内大手フルートメーカーの三分の二~四分の三くらいの価格なんじゃないかな。
 もちろん、楽器というのは価格だけで選ぶものではないので、ヤマハ以外がダメだと言っているわけじゃない。他のメーカーの楽器には、ヤマハとの差額分をペイするだけの価値がちゃんとある。ただ、最低ラインの条件をクリアしている上で、それをどういう値段で実現しているかというと、という一点に絞って言えば、ヤマハの安さが際立つ。

 しかし、よく鳴るなあ、ヤマハ。そして、スタンダードといえどもちゃんとヤマハの音がする。明るくて、クセがない。ヤマハの楽器はどれもそうだ。素直な鳴り方をする。
 昔、大学の先輩がヤマハの楽器のことを例えて「極上の白メシ」と言った。まさしくその通りだと思う。楽器自体には特別なカラーがない。だから、奏者が自分で音色を工夫する。海苔の佃煮をのせてもいいし、塩鮭をまぶしてもいい。麻婆丼にしても、天津飯にしてもいい。そして、よほどミスマッチなものでなければ、どんなものを載せても間違いなく美味しい。それがヤマハ
 若い頃は、そのカラーの乏しさが物足りなくて、「ヤマハなんか絶対に選ばん」とそっぽ向いていたけれど、今はその懐の深さに感服する。そういうわけで、ここ数年ずっと「イデアルほしい」と思っている。子育て世代の中年オヤジはお金ないから、買えないんだけどね。

 僕はヤマハで30分ほど、露天での練習を満喫した。あああ、鈍ってる、鈍ってる。指が、全然動かない。トリルがまともにできない。こりゃ重症だ。ちゃんと錆落とししないと、えらいこっちゃ。ヤマハの素直さは、そういう奏者のアラもきっちり炙り出す。
 でも、屋外練習は気持ちよかった。また時々来ようと思う。ヤマハ背負って、ね。


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