笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

クラシック用の楽器、ポピュラー用の楽器

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 今おじゃましている中学校で、YTR-6310Zというトランペットが学校楽器として使用されている。ヤマハの、ジャズ・ポピュラー向け管楽器Zシリーズの初代だ。支柱なしの軽量な楽器で、早い息をいれると「ピャーッ!」と鋭く鳴る。音色はマット。
 吹奏楽部なので、メインレパートリーがクラシックなのだけど、生徒さんにクラシックをこの楽器で吹いてもらうと、倍音が足りなくて、どうも物足りない。なんだろうな・・・これだったら、4335の方がまだいいな。で、楽器を換えて吹いてもらうことにする。スタンダードグレードの楽器は、今度は音が軽くて物足りない感じもあるのだけど、倍音がよく乗っているので、クラシックらしい響きが得られた。うん、クラシックなら、そっちの方がいいと、僕は思うよ。

 僕は、トランペットは吹けないのだけど、同じZシリーズのサックスを試したことがある。YTS-82Zだ。Zシリーズが発売になってすぐの頃に試奏した。他にも一通り試して、結局Zは選ばず、SA80Ⅱを買った。Zもいい楽器だったが、セリエⅡの図太い音が気に入ったから。
 YTS-82Zがどうだったかというと、YTR-6310Zと同じで、マットでそば鳴り系の音色だったように記憶している。僕が欲しい音は、倍音の乗った遠鳴り系の音なので、同じヤマハなら875の方がよかったというのも覚えている。生音で吹くので、実用上もその方がいい。余談だが僕の中で、セリエⅡ = 875、セリエⅢ = 875EX、リファレンス = 82Zというセルマーヤマハの対応関係になっている。違うところもいっぱいあるけどね。
 ただ、もしマイクを通して演奏するなら、Zは最高だなと思う。軽くて反応のいい楽器だからニュアンスを出しやすい。スタジオ系の管楽器奏者が総じて軽い楽器を好む傾向にあるのは、マイク前提なんだろうな。いわゆるビンテージの楽器も、現代の楽器に比べて軽くヌケた吹奏感のために選ばれているのだろう。

 Zシリーズが発売になったのが、14、5年前だろうか。あの頃、この手の軽量なビンテージサウンドを謳った楽器が多く発売されていた。セルマーのリファレンスとかね。そのリファレンス、今は少しずつラインナップから落とされて、代わりにシュプレームというバリバリに倍音ののる出音の楽器が登場した。時代の変化を感じる。YTR-6310Zもすでに姿を消した。ヤマハのトランペットのプログレードには少し前に、「コマーシャルモデル」を名乗る一本支柱のYTR-6335RCがラインナップされている。プログレードはYTR-6310Z廃止後にしばらく欠番だったのだけど、きっと何か別系統の楽器になるんだろうと思っていたらやっぱり、○335系の楽器に戻ったわけだ。

 Z系の楽器とそうでない楽器の、設計上の違いがどこにあるのかというところまでは、僕には詳しくは分からない。ただ現象から感じるには、「Zをはじめとするビンテージ系の楽器 = そば鳴り、コントロール重視」「非Z系の楽器 = 遠鳴り、音色重視」を理想としているのだろうと察している。ちなみにこの考えは、フルートにはあてはまらない。サックスやトランペットなどの、ブラス製楽器についての話である。
 で、ヤマハ以前そういう楽器を、「ジャズ・ポピュラー向け」、「クラシック向け」と呼び分けて、売っていた。

 この呼び方、どうなんだろうなー。分かりやすいっちゃ分かりやすいんだけど、「ほなZ系の楽器でクラシック吹いたらあきまへんの?」という感じもうける。「いや、アカンことはない、アカンことはないけどな、でも物足りへんかもよ・・・しかしそれは、わざとやからね、これがウチのメーカーとしての実力やなくて、用途を限定して、あ・え・て、こういう感じに仕立てたっちゅうのは、覚えといてな」というのがメーカー側からの回答で、それを分かりやすく、ポジティブに表現すると、「ジャズ・ポピュラー向け」というセールスフレーズになるのかもしれない。

 当たり前だが、楽器に「○○(音楽のジャンル)向け」などという考え方は、以前にはなかった。楽器を売る側がそういう考え方を全面に出してきたというのは、2000年代のひとつの特徴だと思う。サックスのリードにはもうちょっと前からそういう言い方があったけどね。で、そういう時代を経て2020年代の我々は、何となく、ノンラッカーの軽量な楽器をポピュラー向けという風にとらえている。面白い。
 そして現在、ヤマハのZ系の楽器がカタログ落ちしたポジションに、「クラシックもポピュラーも両方イケる」というような謳い方をする楽器が登場したのが、さらに面白い。これ、管楽器の新しい流れになるんだろうなあ。そしておそらく、そういう楽器が登場したってことは、演奏現場でのクラシック/ポピュラーの境界線がなくなっているってことだろう。つまり、ひとりのプレイヤーがクラシックもポピュラーも両方演奏していて、両ジャンルの音楽的要求を一度に満たす楽器が望まれているということだ。商業音楽の現場では、奏法としても近くなっているのか、あるいは両方の奏法や音色でひとりのプレイヤーが演奏できることを期待されているのかもしれない。興味深いね。

 ああなんだか、とりとめのない話になってしまった。