笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

パイロット・タイムライン

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 われわれは一概に光るものが嫌いと云う訳ではないが、浅く冴えたものよりも、沈んだ翳りのあるものを好む。それは天然の石であろうと、人工の器物であろうと、必ず時代のつやを連想させるような濁りを帯びた光りなのである。

「陰翳礼賛」 谷崎潤一郎 バイインターナショナル

 

 弟がいる。先だって、その弟が詫びだと言って包みを渡してきた。詫びを入れられるような覚えはなかったのだがどうやら、しばらく前に実家の用事を肩代わりしたことを言っているらしかった。それと、僕が使わなくなったプロテクター入りのメッシュジャケットを譲ったお礼も兼ねているのかもしれない。
 身内なんだし、別に気にしてもらわなくてもよかったんだけどなあ。受け取る義理はなかったのだけど、せっかく用意してくれたものを断るのもかえって申し訳ないから、もらっておくことにした。包みを開けると、パイロット製の高級ボールペン、タイムラインが入っていた。
 発売された頃にどこかで見かけて、「いいなあ、カッコいい」と指をくわえて見ていた記憶があるタイムライン。欲しい気持ちはあったが、高価なのと、太軸のボールペンは手帳にさせないという理由から、買わずに我慢した。そのタイムライン、意外なきっかけで僕の手元にやってきた。
 手に持ってみると、コンパクトなわりにずっしりとした手応えがある。案外、重いな。しかし、ダブルアクションのペン先を繰り出して紙上に滑らせてみると、フロントヘビーのバランスが心地いい。アクロインキの滑りも良好。万年筆ライクなタッチにパイロットらしさを感じたけれど、あまり寝かせるとボールペンはインクが途切れてしまう。そこはやっぱり、ボールペン。ある程度立てて使わなければならないようだ。
 それにしても綺麗だな。もらったのはエターナルの、多分グリーン。マーブル模様のグリップはまるで宝石だ。タイムラインに限らず、パイロットのペンは仕上げが美しく、頑丈だというイメージがある。万年筆を数年使っているが、同じ頃に買って同じように使っている他社製のペンと比べると、クリップのメッキに劣化はないし、キズもつきにくい。タイムラインのグリップも、印象にすぎないが頑丈そうだ。きれいなまま長く使えることが期待できる気がする。
 今まで、高級感にこだわった筆記具を自分で選んで買ったことはない。でも、僕もそろそろいい歳だし、アクセサリー感覚でこういうペンを持ってもいいかな、なんて感じた。

 せっかくだから使いたいので、手帳のペンホルダーにさしてみたが、やはり太すぎてバランスが悪い。なので、全長が短いという特色を活かせる使い方はないかと探っているが、今のところ、いい使い道がないので、机のペン立てで休ませている。しかしアクセサリー的に考えるなら、やっぱり持ち歩くべきだよね。何か方法を考えるとしよう。