笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

極黒

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 僕は万年筆を使う。万年筆にはインクが必要で、そのインクには染料系のものと顔料系のものがあり、僕は主に染料系を愛用している。しかしひとつだけ、セーラー製の「極黒」というインクだけは、顔料系だ。顔料系インクは扱いが難しい。しばらく前に極黒を入れていたペンはトラブルをおこしかけた。それが発覚して以来、極黒を使っていなかったのだけど、使う用事ができたので、久しぶりにペンに飲ませた。

 用事というのは、はがき書き。
 先だってお手伝いした撮影の依頼者からお礼の菓子折が届いたので、それに対するご挨拶をはがきで出すことにしたのだ。近頃、郵便局の窓口に顔を出して「はがきください」とお願いすると、問答無用でインクジェット紙のはがきを渡される。「インクジェットじゃない方」をちゃんと指定しない僕も悪いのだけど、このインクジェット紙、染料系インクで文字を書くと、すごく滲むのだ。で、そのインクジェット紙に万年筆で、滲まずに字を書くためには、顔料系インクを使うしかない。

 以前に、今度極黒を使う時にはスリップシール機構を備えたプラチナ製の万年筆に飲ませると書いたのだけど、プラチナのペンはぜんぶ別のインクが入っているし、はがき書きは細字だとちょっと物足りないし、困った困ったと思っていたら、たまたま中字のパイロット製万年筆、カスタム74のコンバータが空になったので、そのカスタム74を洗浄して極黒を飲ませることにした。

 僕の持っている極黒は、旧ボトル。現行品はモダンな印象の四角い瓶なのだけど、旧ボトルはレトロな雰囲気の、丸っこい瓶。すごい昭和感である。仁丹とか正露丸とか入ってそう。全然違うけど。雰囲気ね、雰囲気。
 極黒にはデフォルトでリザーバが入っていて、瓶をひっくり返してリザーバにインクを溜め、そこからインクを吸い上げる。そんなにたくさん書くわけではないので、コンバータの半分くらいの量にしておく。で、ペン先をキムワイプでぬぐって余分なインクを吸い取り、メモ帳に試し書きしてから、はがきにペンをすべらせた。
 よしよし、にじまずにちゃんと書けるぞ。

 極黒のブラック、ネットでは「真っ黒」という意見をよく見かけるが、確かにパイロットのレギュラーブラックよりは濃いんだけど、でも油性ボールペンに比べるとちょっとグレーがかっているだろうか。インクを紙にのせた瞬間には確かに黒いのだけど、乾くとすこし褪せる。筆致は極めてシャープ。もし染料系インクで書いたらシャバシャバに滲んでしまうインクジェット紙のはがきでも、油性ボールペン並みに滲まない。
 耐光性、耐水性について、僕はあまり気にしたことがないので分からないのだけど、顔料であれば、少なくとも染料よりは耐久性を発揮することが期待できるだろう。だからこそペン先の乾燥がこわいのだが、そこはトレードオフの関係だから仕方がない。むしろ、乾燥さえしなければ水洗で手入れができるっていうのはすごいと思う。極黒、やっぱりいい。
 国内メーカーだと、顔料系インクはセーラーとプラチナが販売している。プラチナなんて、古典インクすらまだ製造している。そしてパイロットは染料のみ・・・と思っていたら先だって、そのパイロットがついに顔料系インクの販売を始めるらしいというニュースを見た。おおっ、ついに!
 やるなあ、パイロット。万年筆ブームは去ってすでに久しいというのに、新たに万年筆用インクのラインナップを増やすとは。いや、それだけ顔料系インクを要望する声が多いってことか。まあ、契約書のサインなんかは染料インクでは困るだろうから、やっぱり必要とされてるんだろうな。

 僕は不滅インクでのサインを求められることなどほぼ皆無なので、今コンバータに入っている極黒が空になったら、顔料インクはまたしばらくお蔵入りだ。もし極黒のボトルが空いたら、パイロットの顔料インキも使ってみたいところだけど、それは当分先の話。