笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

ソール・ライター

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 Right now, somewhere, someone is taking a very fine photograph.
”まさに今、どこかで誰かがとてもいい写真を撮っている。”

 

「永遠のソール・ライター」 小学館

 

 ストリートフォト、というものが、ここ10年ほどの写真のトレンドなのだろうか。数年前、ヴィヴィアン・マイヤーに続いて、ソール・ライターの写真が注目を集めていた。
 ソール・ライターはファッション・フォトグラファーだったようだ。つまり、アパレルの広告のためにモデル撮影をしたりするような。しかし、今日注目されているのは彼がビジネスとして撮影した写真ではなく、プライベートに撮りためていたニューヨークの街角スナップだ。
 ソール・ライターのストリートフォトの特徴は、カラーであることと、長焦点レンズで撮影されているということ。何ミリのレンズなのかは分からないが、雰囲気から察するに、35ミリ換算で100ミリ前後だろうか。さすが、ポートレーターらしいな、と思う。
 冬の、雪に埋もれたニューヨーク・・・一度行ったことがあるけれど、なかなかにタフだ。雪でブーツは水浸しになるし、滑って転ぶし、交通は乱れるし、鬼のように寒いし・・・正直に言って、あまりいい思い出はない。しかし、そんなニューヨークが、ソール・ライターのレンズ越しに見ると、とても魅力的になる。不思議。

 ソール・ライターの作品で特に好きなのは、彼のパートナーだったモデル、ソームズのプライベートショットである。その写真を、作品と呼んでいいのかどうか正直よく分からないが、ソームズのリラックスした表情がとてもいい。あまりにもリラックスしているので、ひょっとしたらソームズ自身は、自分のこんな写真が見ず知らずのアジア人の目にふれることを好ましく思ってないんじゃないかと心配になるほどだ。
 でも、写真という媒体は時として、とてもプライベートなシーンを記録するものだし、何千、何万というカットの中には、この上なく美しいものが写ることがある。ソール・ライターがこの美しいショットを残してくれたことに僕は感謝している。

 このソームズの写真を見る時、僕は高村光太郎の詩を思い出す。

 

あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズ色の香気が立つ

 

「レモン哀歌」 「智恵子抄高村光太郎 ハルキ文庫

 

 芸術とは、人間のありのままの姿を、あたう限り美しく写し取る技のことを言うのかも知れない。


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