笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

職員室の窓


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 近畿に発令された二度目の緊急事態宣言が解除された。東京を含む首都圏は、まだ発令中。しかも再延長が決まったようだ。先が見えない。息苦しい。
 この春休みには、東京の義父母に子どもを会わせられるだろうなんて考えていた。甘かった。感染リスクのある行動は可能な限り避けなければならない。なぜなら、義父には基礎疾患があるからだ。数年前には入院もしている。元気にはしているようだが、万全とは言えない体なのだ。ここでコロナに罹って入院となると、色々な覚悟をしなければならない事態に陥るだろう。

 義父には会いたいが、さてどうしたものかな、などと考えて日々を送っていたら、吹奏楽部を指導しにお邪魔している中学校の教頭先生が「あ、もぐらさん、ちょっと」と僕を呼び止めて、出し抜けにこんな宣言をした。
「今度、二週間ばかり入院するんです」
 こういう時期のことだから、かなりびっくりした。二週間? まさかコロナ? いやいや、そうではなかった。僕の早とちり。コロナだったらさすがに学校に顔を出しはしないだろう。よく話を聞いてみると、全然別の病気らしかった。
 教頭先生は、「歳をとると、体にガタがきます。嫌なものですね」と冗談でも言うような調子で言い、照れくさそうに笑った。あまり深刻な空気にしたくないのであろう教頭先生の気持ちを汲んで、「働き過ぎですよ。ゆっくり体を休めてください」と僕も愛想笑いした。

 公立学校は、ブラックだ。
 先生方を見ていると、本当に気の毒になる。本来の勤務時間がいつからいつまでなのか分からないが、大幅に超過してお仕事されていることは疑いない。先だって、練習で使った部屋の鍵をうっかり持ち帰ってしまい、もちろんそのまま持っていたのでは迷惑になるので、夜遅くに返しに行った。顧問の先生に連絡を取ると「学校のポストに投函しておいてください」と仰ったので、そうするつもりで向かったのだけど、門の前まで来てまだ職員室の窓が明るいのに気がついた。時刻は21時。まさかと思ったけど、職員室の扉をノックしたら返事があった。教頭先生と、三年生の担任の先生が数人、まだお仕事をなさっていた。
 そりゃガタもきますよ、教頭先生。
 昨年度から今年度は、コロナのことで心労も多かったことだろう。実務も例年以上に大変だったろう。半年ほど前に、学校管理職はあまりの激務のためになり手がなく、なんとか人員を確保するために管理職への昇進試験が廃止されたなんてニュースを読んだ。普段から過剰な校務をこなし、その上にこのコロナパニックでは、過労にならない方がおかしい。
 GIGAスクール構想だとか何だとかで、児童生徒一人に一台タブレットが配布されるらしい。それもいいんだけどさ、もっと先生の人数を増やしませんか? モノも大事だけどヒトにももっと金使いましょうよ。僕は、一校に3人ぐらい教頭先生がいてもいいと思っている。朝の教頭先生、昼の教頭先生、夜の教頭先生。だって、教頭先生って、朝から夜までずっと学校にいるんだもん。シフト制にしたらいかがですかね? そうすればなり手も増えると思うんですけど。それぐらいしないと、いつか公立の学校は崩壊しますよ。

 で、頭を下げて鍵を返して僕は帰路についた。珍しく深夜に出かけたついでに、明石大橋を見に行った。学校から近いのだ。以前はライトアップされていたと思ったのだけど、明石大橋の灯りは消えていて、海は暗かった。明々と灯りのともった職員室の窓と、暗闇の明石海峡。日本の教育の未来は暗いなあ。
 夜の職員室の窓を暗くして、代わりに明石海峡を明るくする方法は何かないもんだろうか。ねえ、永田町の皆さん?