笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

もっこすラーメン


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「だって君は最初から部屋の中にいたじゃないか。そこで手紙を書いていたんだろう」
 彼は手を伸ばして、サングラスを外した。瞳の色だけは変えられない。
ギムレットを飲むには少し早すぎるね」と彼は言った。

 

ロング・グッドバイ」 レイモンド・チャンドラー村上春樹(訳) 早川書房

 

 家系がはまっこのソウル・ラーメンなら、こうべっこのソウル・ラーメンは、もっこすラーメンではないだろうか。
 神戸なのに「もっこす」というのも何だか調子が狂うが、でも僕ぐらいの中年男性の神戸人ならきっと、「神戸のラーメンといえばもっこす」という意見にうなずいてくれるに違いない。もちろん、他のラーメンを推す意見もあるだろう。けど、僕個人の感覚としては、神戸のラーメンといえば、もっこすである。
 味は全然違うのに、雰囲気は家系によく似ている。これを旨いと思うかどうかはともかく、定期的に食べたくなる中毒性がある。いつも「そばライぎょうざ(中華そば+ライス+ぎょうざ)」のセットを頼む。僕はサービスのニラキムチをぶっかけてかなり辛くして食べるのが好みだ。翌日が休みの時はガーリックチップも入れる。ニラキムチの入れすぎで、夜には必ず腹痛を起こすくせに、やめられない。
 深泥の工場店に行くと、赤玉ミンチというサイドメニューがあって、これも旨辛い。赤玉ミンチは工場店でしか頼むことができなくて、往年のもっこすファンでも知らぬ人は多いが、一度食べてみる価値はあると思う。見た目はえげつないし、味も実際パンチが効いているけど、辛いもの好きならハマるだろう。

 横浜に住んでいた頃、帰省する度にもっこすラーメンに行かないと気が済まなかった。用事が重なって「もっこす」に行けない時は、何だか大変な忘れ物をしたような気がして落ち着かなかった。横浜にもどるとすぐに環二家にバイクを飛ばしたが、やっぱり家系ともっこすは別なようで、気持ちを静めることはできなかった。ラーメンなら何でもいいというわけじゃないと知った。そして、次に帰省した時には、新神戸を降りたその脚で、春日野道店でも元町店でも、本店でも、とにかくすぐにもっこすへ走った。

 ラーメンというのは不思議な食べ物だ。グルメにあれこれ食べ歩くのも楽しいけど、自分の体の根っこにからみついた味みたいなものがあって、どうしても離れられない一杯がある。健康を第一に考えるなら、そう度々口にしない方がいいかもしれないが、ああでもやっぱり、やめられない、やめられない。