笛吹きもぐらは旅をする

僕が行きたいと願う場所に、僕が行くことができるなら、僕は必ずそこを目指す。

ハロウィン


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「時」は燃えるローソク
滴のように無くなっていく、
山々と森はその日々を持つ、
それぞれの日々を。
あなたがたは、どうぞ、
モミから生まれた森の
昔の軌道から、お願いです、
外れていかないように。

 

ケルトの薄明」 W.B.イエイツ/井村君江(訳) ちくま文庫

 

 ハロウィンの仮装を楽しむ習慣が、日本でいつごろ定着したのか、あまり記憶がない。二十年前に学生だった頃には、「ハロウィン? かぼちゃのやつだよね?」ぐらいの意識だったはずだけど。そのうち、メイポールやイースターもやるようになるのだろうか。個人的には、合理主義、自然科学偏重の現代社会に対する、バタイユ的反動だと思って歓迎している。多様性の許容が叫ばれる昨今だ。街ですれ違う人の中にお化けが混じっていたって、別に驚きはしない。急にかみつかれて血を吸われたり、知らない土地に連れ去られてしまったりしては困るが、互いに節度を保って仲良くおつきあいできる分には何の問題もない。

 お化けに遭遇したことはないが、一度だけ、会社で金縛りにあったことがある。

 仕事で使っていた部屋に霊がいて、夜遅くまで仕事しているとよくラップ現象がおこった。同僚に霊感があるという女性がいて、「子どもの霊がいるね。悪意はないみたいだし、○○さん(僕のこと)のことは気に入ってるみたいだから、悪いことは起こらないと思うよ」と教えてもらった。僕には霊感がないので、彼女の言う子どもの霊が本当にいるのかどうかは分からなかったけど、悪いことがないなら、僕としては霊がいようがいまいが関係ない。ラップ現象が起こると結構大きな音がするのでびっくりはするが、毎日のことだから慣れた。
 その部屋は仕事で数年使った。その最後の年の冬、いつものようにラップ現象の音を聞きながら仕事をしていると、急に体に痺れがきて動けなくなった。首筋のあたりが凝って動かない。背中は全体に電気があたっているようにビリビリしている。しばらくその状態が続いた。これでは仕事にならないので、ゆっくり立ち上がって部屋を出ると、痺れは消えた。その日は部屋にはもう戻らずに、帰って寝た。
 仕事が立て込んだ期間だったから、疲れが出たのかも知れないし、霊の仕業による金縛りだったのかもしれない。あるいは、霊が僕の体を気遣って「もう帰って休めよ」というつもりで金縛りを仕掛けたのかもしれない。あの時期は、本当に忙しかった。「ぶっ倒れたら労災おりるかな?」なんて考えながら仕事していた。
 霊的なものを信じるかどうかと問われたら、僕は困ってしまう。残念ながら、霊的なものに直接お会いしたことはない。でも人間の歴史を振り返ってみれば、いると考えていた期間の方がずっと長いのだから、そう考える方が自然だろう。

  今年のハロウィンは、コロナのせいでとても静かだ。これでは魑魅魍魎も物足りないに違いない。来年はにぎやかにできるといいな。