笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

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 立冬の頃、神戸に冷たい雨が降った。またひとつ季節が進んで、空気がぐっと冷えた。

 今年はついに、冬を乗り越えるための登山ジャケットを新調した。一昨年に古くなって表面がボロボロと剥げはじめたノースフェイスのジャケットを捨てたかわりを、去年は買わなかったのだ。しかし、雨の日の通勤や散歩には防水性のあるウェアが必要なので、いつか買わなければと思っていた。今回は、モンベルの「ストームクルーザー」というジャケットを選んだ。
 本当は、ノースフェイスを選ぼうと思って、旧居留地路面店に行ったのだけど、訳あって買わなかった。理由といっても、深刻なことではなくて、ただ単に、気に入る色がなかったのだ。
 だが、そうは言っても色えらびは大切だ。中年になって、特にそう思うようになった。そして近頃は、かしこまった場所に出るときに着る服以外はなるべく明るくて目立つ色を選ぶようにしている。というのは、僕の目が年齢と共に見えづらくなってきているからだ。
 僕は車を運転する。運転歴は長い。大学二年で普通自動車免許をとり、原付を運転するようになってから、もう20年以上、何らかのエンジン付きの乗り物にずっと乗っている。幸いにも視力はいい方で、いまでもメガネなしで免許更新をパスしてきた。とはいえ、視力は数値でみる以上に落ちている気がする。というのも、夕方以降の運転の際、歩行者や自転車を見落としやすくなった気がするからだ。
 つまり、夜目がきかなくなってきたってこと。
 特に見落としやすいのは、無灯火の自転車や、黒っぽいい服を着た歩行者。夜の運転はできるだけ気配りしながら走らせているつもりでいても、ふと気づくとボンネットのすぐ横に灯りのついていない自転車が停まっていてびっくりする、なんてことが増えた。そして、無灯火で自転車を運転するのはマナー違反だとしても、歩行者の服が黒っぽいのに文句は言えない。
 これ、逆の立場になって考えてみると、もし僕が黒っぽい服で夜中に出歩いていると、運転者からはとても見つけづらいということになる。ちょっと恐いな。自分の視力が落ちてきて、初めてそんなことを考えるようになった。そして、あまり夜中に出歩く機会はないのだけれど、黒っぽい地味な服は避けたいと思うようになった。

 ノースフェイス以外でドア系のウェア・・・選択肢はいくつかあったが、最終的にモンベルを選んだ。その理由は、色の選択肢が豊富なこと、機能面で信頼できること、値段が手頃なこと。
 同じモデルの服で、細かく刻んだサイズ展開をしつつ、カラーバリエーションをそろえるのは、在庫管理の上で、大きなリスクになるはずだ。例えばSS~LLまで5サイズで用意するとして、一色だけのカラバリなら5種類でいいけれど、これを5色にすると、ひとつのモデルに対し25種類という計算になる。これ、製造も在庫も販売も大変だ。しかしモンベルは主力モデルのカラバリが非常に豊富。さらに、男性用と女性用に別れていたり、特大サイズが用意されていたりする。すごい。
 機能面も十分に満足できる。僕はモンベルのウェアを買うのが初めてではなくて、すでに数着もっており、用途に対して十分以上の性能が保証されているのはもう知っていた。もうちょっと高級なブランドのウェアと比べると、ポケットが少ない(足りなくはない)とか「あれば便利(なくても街着として不足はない)」みたいな部品がないとか、コストの切り詰めは確かにあるのだが、じゃあそれで困るかっていうと、別に困らない。そして、必要なディティールは、決して省かれない。
 例えば、僕は公園で子どもを遊ばせているときに着るために、モンベルのダウンコートを数年前に買ったのだけど、これが便利で仕方ないのだ。真冬の曇天下、六甲おろし吹きすさぶ公園で、じっと子どもを見守るという状況で着る服をずっと探していて、モンベルでやっとそのダウンコートに出会った時の喜びは今でも忘れられない。
 要するにスタジアムコートみたいなものを探していたのだけど、本当にスタジアムコートを着ていると「あの人はサッカーのコーチだろうか?」みたいな格好になってしまうので、スポーツブランドのロゴが背中にでっかく入っているようなのは嫌だった。それで、スニーカーで有名なブランドのウェア以外で探していたわけだが、なかなか条件にあう服は見つからなかった。条件というのは、フード付きであること、運動量が少なくても暖かいこと、ハンドウォーマーになるポケットが腿のあたりについていること。この最後の、腰より下にポケットがあるという条件を満たす服というのが、登山着では実はあまりない。探しに探して、マリンピア神戸のアウトレットでついに出会ったのが、モンベルのダウンコートだった。
 しかも、裾まで全部ダウンなのに、値段がお手頃。マリンピアのアウトレットには僕の欲しいサイズがなかったので、三宮の直営店で買ったのだけど、正札で買っても後悔のないくらいの値段だった。ハイブランドだと多分、同じグレードのものが二倍から三倍くらいの価格だから、「えっ、この値段でいいの?」と驚いたのを覚えている。そしてすでに三年着ているが、性能に不満はない。
 モンベルのウェアは、一般衣料品の大手量販店がラインナップするスポーツテイストのウェアよりは高価ではある。しかし、性能差は歴然だ。ファブリックの防寒性、透湿性、防水性、伸縮性。防風性や運動性を確保しつつもダブつき感やバタつき感のないデザインやディティール。ちゃんと、登山というスポーツに耐えられる仕様になっている。

 ジャケットはすでに何度か着た。立冬を過ぎた神戸は天気が不安定で、予報では降らないと言っていたのに、昼過ぎや夕方に突然、夕立のような氷雨が降る日があった。その時にたまたまモンベルの新しいジャケットを着ていたのだけど、とても助かった。フードをかぶって雨をしのいだのだが、ジャケットの内側が濡れることは一度もなかった。

 別に本格的な登山をするわけではない僕だけど、登山ウェアを着ていると「助かった」と胸をなで下ろすことが時々ある。そういう訳で、登山着は僕にとって欠かせない日常着のひとつだ。
 そういえば、やはり10年以上前に買ったコロンビアのフリースが、さすがにそろそろ寿命だ。仕事を辞めてしまったのであまりお金に余裕はないのだけど、モンベルで買うなら新調してもいいかもしれない。今年の冬も何だか寒そうだから、今度選びに行こう。
 だって、お金がなくて、その上冬の寒さをしのげないだなんて、悲しすぎるじゃない。懐は寒くても、着るものは暖かくしておきたいものだ。