笛吹きもぐらは旅をする

笛吹きの、慢性疲労症候群の療養日記。

家系ラーメン


f:id:sekimogura:20201004235137j:image

「わかりました、気をつけます。おれ、生まれつき水が好きなもんですから」
「そう。そんなに水が好きなら、お酒なんか飲まずに水を飲んでりゃよかったのに」
「そうですね」

 

「今夜、すべてのバーで」 中島らも 講談社文庫

 

 家系ラーメンが好きだ。
 横浜に長く暮らしていた。ちょうどラーメンブームがきていた頃で、友人たちと方々食べ歩いた。横浜はもちろんだが、東京にもよく行った。流星軒、めじろ、大進ラーメンに武蔵、そして大勝軒・・・。首都圏では、どんなラーメンでも食べられる。しかし、やっぱり手近なところにある名店にはよく通った。
 吉村家。六角家。環二家。寿々㐂家。横浜のラーメンと言えば家系だ。本家本流の家系以外にも亜流みたいな店がいっぱいあった。個人的には環二家と、弘明寺にあったマンザイラーメンが気に入っていた。
 よく言われることだが、家系ラーメンが「旨い」かどうかは微妙だ。なんだろうな。あれは旨いかどうかということじゃなくて、文化なんだと思う。
 低加水の太縮れ麺は、カタメを選ぶとひどく粉っぽい。スープの臭みは強烈だ。油の量は尋常ではない。ほうれん草はゆですぎて味も食感もないし、チャーシューは完全にスープに負けている。しかし、どういうわけか、あの味を覚えてしまうと月に一度は口にしないと落ち着かない。麻薬的だ。
 神戸に戻ってきて、この家系ラーメンが食べられなくなったのには参った。トアロードのあたりに一軒あるのをやっと見つけて、なんとかしのいだ。今は、チェーン展開の店が北野坂にある。どちらも、時々食べに行く。本場の本物の、あのスーパージャンクな感じよりはよほどマイルドだが、食べられないよりはいい。
 ああでも、たまにはあの洗練のカケラも感じられないあの横浜の家系が食べたい。今度横浜に寄ることがあったら、必ず食べよう。